アリサの才能
2人は庭に出ると、それぞれ別の鍛錬を始めた。
ユウキは素振りを5000回。
アリサは初級魔法の鍛錬。
ユウキは気を晒さずアリサに聞いた。
「アリサは何の魔法が使えるの?」
「水・炎・風・土よ。基本属性は使えるの。
それと回復魔法を少し。」
ジアスでは基本属性と言われるこの4属性がある。
全属性は適正によっては使えない者も少なくない。
「だけど炎は村の掟で使用が台所に制限されているから、村の中では実質3属性と回復ね。」
「そうだったんだ。僕は魔法が使えないから教えてもらってないや。」
それを聞いてアリサは続けた。
「一つは畑が燃えないようにって。
もう一つは、昔日照りが悪い年があったみたいでね、村人全員で空の雲を炎で消そうとしたんだって。
そうしたら、一旦は雲がなくなって日が差したんだけど、そのあと激しい雷雨になって麦が全滅したんだって。」
ユウキは前世の知識から積乱雲を連想した。村の外れには高い崖がある。
「ははっ、それはそうだ。下を暖めたら上昇気流が発生するからね。」
それを聞いてアリサは「上昇気流?」と考えていた。
時間が経ちユウキが素振りを終える頃、アリサはウォーターボールを詠唱していた。
汗を拭きながら見ていたユウキが気がついた。
「水の恵みをもたらさん。《ウォーターボール!》」
「ちょっと待ってアリサ。今詠唱するときアリサは魔力をどう感じた?」
「どう感じたって・・・いつも通りよ。詠唱すると水球が出るの。
ただ、詠唱を丁寧にしたりすると水球の形が綺麗になったらするわ。」
それを聞いてユウキは考える。
「ねぇ、[水の][恵みを][もたらさん]って三節に切ってゆっくりやってもらっていい?」
「?分かったわ。」
「水の」
ユウキにはアリサの全身から魔力が膨れ上がったように見えた。
「恵みを」
ここで膨れた魔力が右手に収束し、激しく揺れている。掌からは幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。
「もたらさん」
そして掌の魔力が安定していく。魔法陣も3次元的にクロスしていく。
《ウォーターボール!》
呪文名を発すると、集まった魔力と魔法陣が収束し、水球に変化していく。
とても綺麗なゆったりとした流れを維持した水球が出来た。
「なにこれ・・今までこんな安定した水球出来なかった・・」
今起きた魔力の変化を体を触りながらアリサに説明する。
そしてユウキは言った。
「心の中で詠唱して良いから、魔力の流れをイメージしてウォーターボールを作ってみてもらえる?」
「・・・分かったわ。」
するとアリサは掌を上にし、静かに瞑想した。
魔力がアリサの全身から膨張する。魔力に集中しているせいか、詠唱した時より遥かに大きい。
そして魔力が掌に集まっていく。その間、魔法陣は同じように形成される。そして・・
《ウォーターボール!》
アリサの掌から今までの3倍ほどある水球が発生した。
しかし、それは維持されず「パーン!」と音を立てて四散した。
「・・・何よこれ・・私がやったの?
詠唱が必要ない?こんな・・本には何も・・・」
アリサは混乱していた。
ユウキがニヤリと笑って言った。
「さすがアリサ。ちょっとの説明で良く出来たね!
最後の節、[もたらさん]の部分がいつもより早くなったでしょ。安定する前に水球が出てきたよ。」
アリサは驚愕した。
だが、自分が努力して得たものは本人にわかりにくい。出来たことは出来て当たり前に変わっていく。
それ故にアリサを支配した感情は、嫉妬であった。
(負けない・・私は魔法が使えるようになってから、ずっと練習してきた!
今見ただけのユウキに魔法の先を行かれるなんて!)
しかしアリサはここで腐らない。
素直に認める。
「ありがとうユウキ!でもまだまだダメね。実践でも遅すぎて使えないし、もっと頑張るわ!」
魔力の流れは常人には見えない。
一般的には詠唱を行う事で体内器官から魔力を引き出し、魔法を行使すると大雑把に考えられてきた。
《点穴》を使え、尚且つ初代並みの魔力感知を持つユウキだからこそ分かった事なのだ。
この後1ヶ月足らずでアリサは行使できる魔法の無詠唱をモノにした。
しかし魔力の流れなどアリサには見えない。
この先もユウキに見てもらい努力を重ねる他ないが、それはそれで嬉しく思うアリサであった。




