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エピローグ

「エリシアお姉ちゃんっ!」


 温泉宿のおじさんから話を聞いた僕は、無我夢中でお姉ちゃんのことを探し回った。そうして街外れの高台で、町の景色を眺めているお姉ちゃんを見つけた。

 僕に気付いたお姉ちゃんが目を丸くする


「……フィーくん、こんなところでなにをしてるの?」

「それはこっちのセリフだよ! 急に出て行ったりして心配したんだよ!」

「あれ? 魔王の瘴気を浄化してくるって言ったよね?」


 不思議そうにしているお姉ちゃんに、僕はちょっと腹が立った。


「いくら理由を聞いても、大切なお姉ちゃんが急にいなくなったら心配するんだよ!」

「……そっか、ごめんね。でも、詳しく話してる暇はなかったから」

「それ……魔王の瘴気が原因なの?」


 エリシアお姉ちゃんのプラチナブロンドは真っ黒に染まっている。家を飛び出したときはここまで黒くなかったと思う。


「うん、そうだよ。魔王の瘴気が原因」

「でも、その穢れは……僕が原因、なんだよね?」


 お姉ちゃんは魔王と倒したときに瘴気を受けたが、いままで気付かなかったと言った。

 でも、そんなことはあり得ない。

 受けた瘴気が微量で気付かないことはあるかもしれない。それで、徐々に身体が蝕まれることだってあるかもしれない。

 だけど、その瘴気の量が最初より大きくなっているのは明らかにおかしい。


「別にフィーくんが悪いわけじゃないよ?」

「でも――」

「私は魔王の器に流れ込むはずの瘴気を浄化していただけなんだよ。でも、浄化しきれない瘴気が、私の身体を蝕んでいた、ただそれだけのこと、なの」

「……どういうこと?」

「私達が魔王を倒したとき、その魂がとある子供に宿った。放っておけば次の魔王が生まれる。でもその子供を殺しても、別の子供に魔王の魂が宿るだけ。最初はどうするか意見が分かれたけど、結局は正しく育つように成長を見守ることにしたの」


 エリシアお姉ちゃんは穏やかな眼差しで僕を見た。


「……僕がその、魔王の魂を宿した子供、なの?」

「フィーくんはフィーくんだよ。私の大好きな男の子」

「エリシアお姉ちゃん」

「――近付いちゃダメ!」


 拒絶された僕は驚いて足を止めた。


「いまの私は魔王の瘴気に冒されてる。だから、フィーくんは近付いちゃダメ」

「……僕のせい? 僕のせいで、エリシアお姉ちゃんがそんな風になっちゃったの?」

「フィーくんのせいじゃないよ。それにそんな顔することなんてない。言ったでしょ? 穢れを浄化して、ちゃんと家に帰るって」

「……ホントに? 死んじゃったりしない?」

「しないしない」


 エリシアお姉ちゃんは平然としているけど、僕は黒く染まった髪を見る。


「……でも、前より瘴気に冒されてるよね?」

「髪のこと? 瘴気に冒されても、すぐに身体に影響が出るわけじゃないから、髪が染まるのも遅れただけだよ。だから、瘴気の量自体は以前と変わってないよ」

「……ホントのホントに?」

「ホントのホントのホントだよ? 私がフィーくんに嘘吐いたこと、一度でもある?」

「それは……ないけど」

「でしょ? だから大丈夫。フィーくんは家で大人しく待ってたら良いんだよ?」


 僕は唇を尖らせる。


「家で待つのは無理だよぅ」

「あら、どうして?」

「だって、エリシアお姉ちゃんがいないから、ご奉仕してもらえないんだよ。お姉ちゃん達は三人一緒じゃないとご奉仕できないって盟約があるでしょ?」

「えぇ、フィーくん。私がいないあいだも我慢できないの?」

「我慢もなにも、ご奉仕してもらわないと獣化しちゃうし」


 お姉ちゃんの目が再び丸くなった。


「……フィーくん、いまだに信じてたの?」

「信じてたって、どういうこと?」

「う、うぅん、えっと……なんでもない。と言うか、それじゃいまはどうしてるの? パメラやシスティナにご奉仕してもらえないなら、気付くはずだよね?」

「え? よく分からないけど、最近はアイシャお姉さんとかミリィのお世話になってるよ?」

「わ、私の知らない名前だよ!?」


 ……なんでそんなに驚いてるんだろう?

 システィナお姉ちゃんやパメラお姉ちゃんがご奉仕できなくて、僕が獣になってないんだから、他の人のお世話になってるのは当然だよね?

 あ、もしかして、僕が苦労してると思ってるのかな?


「あのね、お姉ちゃん。僕、いま楽しんでるよ」

「楽しんでるの!? まさか私達より上手なの!?」

「上手? えっと……僕、お姉ちゃん達みたいなS級の冒険者になりたくて、冒険者になったんだ。それで、頑張ってランクを上げてるんだよ」

「冒険者? なんだ……そっちの話かぁ」


 お姉ちゃんがふぅっと息を吐いた。

 だけど、すぐになんだか複雑そうな表情を浮かべる。


「えっと……僕が冒険者になるの、ダメだった?」

「まさか、そんなことはないよ。ただ、また相手が増えたのかぁって思って」

「……増えた?」

「なんでもないよ。……分かった。それじゃ、フィーくんが一流の冒険者になるのと、私が瘴気を浄化するの、どっちが早いか勝負しよう」

「勝負、するの?」


 どうして急に勝負なんて言いだしたんだろう? お姉ちゃん、そういう勝負ってあんまり好きじゃなかったと思うんだけどな。


「フィーくんがS級になるより先に、私が浄化して戻ってくるよ」

「ホント? それなら僕、頑張ってS級になっちゃうよ?」

「ズルはダメよ? ちゃんと自分の力で、なるのよ?」

「うん、ちゃんと自分の力でS級になるよ!」

「それでこそフィーくんね。……それじゃ、いまから勝負よ」


 エリシアお姉ちゃんは微笑んで、マジックボックスから取り出した杖を振るう。足下を中心に魔法陣が広がり、お姉ちゃんの身体が淡い光に包まれた。



 それから、ミリィを連れて街に戻った僕は、アイシャお姉さんにお世話になりながらS級の冒険者を目指して様々な依頼をこなしていく。

 自分が魔王の器であることで事件に巻き込まれたり、獣化防止のご奉仕が嘘だと知って驚愕したり、それでもやっぱりご奉仕を受け続けたり。

 そうして、いつしか僕はS級冒険者へと上り詰め、エリシアお姉ちゃんと再会する。だけどそれはもう少し未来の、また別の物語。

 

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