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全力で慰めてみた

 翌日、元気になった僕は冒険者ギルドへと顔を出した。いつものように受付に顔を出すと、受付のお姉さんと話していたギルマスが僕に気付いて手を上げた。


「よお、フィールじゃないか。アイシャはどうした? 一緒じゃないのか?」

「アイシャお姉さんはまだ寝てるよ。ちょっと疲れちゃったみたい」

「……まだ寝てる? おまえまさか……いや、言うな。と言うか、そのことはここで口にしない方が良い。あいつのファンに襲われるぞ?」

「……えっと、うん」


 コテリと小首をかしげてから、こくんと頷いた。


「とにかく、お姉さんはまだだよ」

「そっか、昨日は溜まってた仕事を一気にこなしてたから、疲れたんだろうな」

「……う、うん、そうかも」


 僕はそっと視線を逸らした。

 システィナお姉ちゃんにも言われたことだし、ギルマスにも一緒に住んでることを言わない方がいいっぽいことを言われたから黙るけど、アイシャお姉さんが寝てるのはたぶん、朝まで僕にご奉仕してくれたからだと思うんだよね。

 僕は途中で寝ちゃったから元気だけど、お姉ちゃんは絶対寝不足だよ。


「えっと……ごめんなさい」

「なんだ、急になんで謝るんだ?」

「アイシャお姉さんの仕事が溜まってるの、きっと僕のせいだから」


 アイシャお姉さんは迷惑なんかじゃないって言ってくれるけど、実際にこうして迷惑を掛けてる。そしてそれはお姉さんだけじゃなくて、他の人にまで及んでる。

 俯いた僕の頭に、ギルマスの大きな手がポンと置かれた。


「あいつが自分で判断した結果だ、フィールが気にすることじゃねぇよ」

「でも……」

「そもそも、あいつは働き過ぎなんだ」

「……そうなの?」

「アイシャは優秀だからな。実際、あいつが担当する冒険者は、ほかと比べて極端に死亡率が低いんだ。だから、みんな頼りにしちまってるが、本来はみんなでなんとかすることだ」


 言われてみると、アイシャお姉さんは出会ってからずっと、食事と睡眠とご奉仕を除いたら、ほとんど受付で働いてる。

 後で精力回復に効くポーションを届けてあげようっと。


「ところでフィール、おまえにお客さんが来てたぞ」

「……お客さん?」

「ああ。栗色の髪の女の子だ。もうすぐ来るはずだって伝えたから……あぁ、彼女だ」


 ギルマスが指差した方を見ると、少女がこちらに向かってくるところだった。


「……ミリィ?」


 小首をかしげた。向かってくるのはたしかにミリィなんだけど、前に会ったときよりちょっぴり大人びて見える。なんとなく、システィナお姉ちゃんを思い出した。


「こんにちは、フィールくん」

「こんにちは……ミリィ、だよね?」

「ふふっ、そうだよ。このあいだは助けてくれてありがとうね!」


 僕をぎゅって抱き寄せた。歳の割りに少しだけ大きな胸に押しつけられる。

 どうしてこんなにテンションが高いんだろう? あ、そういえばお母さんに世界樹の果実を渡して上げたんだっけ。そう思った僕は抱擁からするりと抜け出す。


「もしかして、お母さんの病気、治った?」

「うん。フィールくんのおかげですっかり元気だよ!」

「そっか、良かったね」


 自分の大切な人が病気だと悲しいもんね。


「それより、フィールくん、今日はどうする予定なの?」

「ん~? なにか依頼を受けようかなって思ってたけど、とくに決めてないよ」

「なら、このあいだ助けてくれたお礼をしたいから、ちょっと付き合ってよ!」

「んっと……うん、いいよぅ」


 なんだか良く分からないけど、僕は彼女についていくことにした。




「フィールくん、あ~ん」

「……もぐもぐ」

「ふふっ。この街で有名なフランクフルトなんだけど、美味しい?」


 街の中心にある憩いの広場。

 ベンチに座った僕はミリィに餌付けをされていた。


「ねぇ、ミリィ。おごってもらっちゃったけど、お金は大丈夫なの?」


 僕は薬草採取の依頼で結構稼いだから、ひとまず生活費に困ってはない。なんて、アイシャお姉さんのお家でお世話になってて、宿代が必要ないのが大きいんだけどね。

 でも、ミリィはお母さんが病気だったから大変なはずだ。


「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ」


 ミリィはイタズラっぽく笑ってフランクフルトに伸ばした舌先を絡めると、ゆっくりと口に含む。その姿がなんだかエッチくて、道行く男の人の視線が釘付けになる。


「ふふっ、フィールくん、どうかしたの?」

「なにしてるのかなって思って」

「もちろん誘惑してるんだよぉ。でも、フィールくんにはちょ~っと早かったかな?」

「……ふえ?」


 僕が首を傾げると、ミリィはなんでもないよと笑って――自分に視線を向けている男の人達をちらっと見ると、口に含んだフランクフルトをがぶっと噛み切った。

 周囲の男の人達はひぃっと身を震わせて去って行く。


 僕が呆気にとられているミリィはペロッと舌を出して笑うと、残りのフランクフルトを平らげた。でもってスカートの裾をパタパタと叩いて立ち上がると、僕に向かって頭を下げた。


「あらためて、このあいだは助けてくれてありがとう」

「え? あぁ……うぅん。気にしないで。僕もお姉ちゃんが病気だから、ミリィの気持ちは良く分かるんだ。だから、当然のことをしただけだよ」

「……そっか、フィールくんは優しいんだね。だけど、救ってもらったのにお礼をしないわけには行かないよ。ちょっとこっちについてきてくれる?」


 ミリィはイタズラっぽく微笑んで、僕の手を取って歩き出す。


「ミリィ、どこへ行くの?」

「ふふっ。もうすぐ分かるよ」


 そんな風に笑って、僕を引っ張っていったのは通りをそれた人気のない路地裏。もしかして、空を飛んでどこかへ行くのかな?

 ……あれ? でも、普通の人は空を飛んだり出来ないはずだよね。


「――ちゅ」


 気付いたら、ミリィにキスをされていた。

 僕はびっくりして目を見開く。


「……ミリィ、急にどうしたの?」

「お礼だよ、お礼。あたし、助けてもらったのに、出来ることってあんまりないから。だから、あたしの身体を使ってお礼をしようかなって」


 身体を使ってお礼……? もしかして、獣化を防ぐご奉仕のことを言ってるのかな?

 十歳を超えた男の子はみんな、女の子にご奉仕してもらわなきゃ獣化しちゃうから、ミリィが知ってても不思議じゃないよね。


……あれ? アイシャお姉さんは、どうして瘴気がどうのって言ってたんだろ? よく考えたら、男の子はみんなだから魔王の瘴気なんて関係ないよね。

 ……あ、そういえば、アイシャお姉さんは獣化のこと知らない風だったなぁ。


 なんて思っているあいだに、ミリィは服のボタンを外して胸元をはだける。だから僕は、その手を掴んでやめさせた。


「……フィールくん?」

「僕、そういうお礼は要らないよ」

「どうして? 初めてだから怖い? お姉ちゃんが、優しくして上げるよ?」


 僕は首を横に振る。

 アイシャお姉さんは、僕にほかの女性からご奉仕されるのは嫌だって言ってたし、僕もあまり知らない女の人にご奉仕されたいとは思わない。


「と言うかお姉さん、ミリィじゃない……よね?」


 僕の予想は当たっていたようで、ミリィの姿をした彼女は目を見開いた。


「凄い……どうして分かったの?」

「なんとなく、雰囲気かな」


 ミリィは一つ年上だけど、お姉さんって感じが全然しなかった。けど、目の前にいる彼女はお姉さんな雰囲気を纏っている。

 見た目は少女な、システィナお姉ちゃんと同じ雰囲気なのだ。


「バレたら隠しても仕方ないわね。――私はサーシャ。ミリィの母親よ」


 ふわっとした雰囲気から、大人の女性っぽい物腰に変わる。

 けど……サーシャさん? ミリィのお母さんって、このあいだ会ったよね? もっと年上だったと思うんだけど……あれぇ?


「どうしてそんなに若くなってるの? 魔術を極めたの?」

「魔術で若くなるの? 取り敢えず、私も良く分からないわ。フィールくんにもらった果実を食べたらこうなったの」


 果実って、世界樹の果実のことだよね? それで若返ったって、どうしてだろ? 病気を治す過程で、病気になる前の状態の身体にした結果、若返ったとか、なのかなぁ?

 良く分かんない。こんど、お姉ちゃん達に聞いてみようっと。


「それより、おかげでこうして元気になったばかりか、若い身体も手に入れられたわ。本当にありがとうね。身体でのお礼は断られちゃったけど、なにかあったらいつでも言ってね」

「うん。でも、気にしなくて良いよ。いや、良いですよ?」

「堅苦しくなくて良いよ。サーシャお姉さんって呼んでね」

「じゃあ……そうするね」


 女の人は出来るだけ年上扱いしないようにする。とくに、本人が言ったときには絶対。じゃないと、大変なことになる……ってお姉ちゃん達で学習した。


「それじゃ今日はもう行くけど……よければミリィに会いに行ってあげて。あの子、ここ数日寝込んじゃってるから」

「え、そうなの?」


 聞き返すけどサーシャお姉さんは答えず、パパッと服を整えて、「お願いね」と手を振って走り去っていった。

 なんか、嵐みたいなお姉さんだったなぁ……




 ひとまず、本物のミリィが寝込んでると聞いたので、お見舞いに行くことにした。

 前回送ったときの記憶を頼りに、ミリィの家を訪ねる。扉をノックすると、しばらくして僕より少し年下の女の子が姿を現した。


「……お兄ちゃん、誰?」

「僕はフィール。ミリィが寝込んでるって聞いて様子を見に来たんだけど、会えるかな?」

「……ちょっと待っててね」


 女の子は一度扉を閉じると、しばらくして戻ってきた。


「お姉ちゃんが会うって言ってるからあがって」

「ありがとう、それじゃお邪魔するね」


 女の子に案内されて、ミリィの部屋の前にやってくる。


「お姉ちゃん、連れてきたよ~」

「……入ってもらって」

「はーい」


 女の子は「入ってだって」と言って立ち去っていった。それを見届け、僕は「ミリィ、入るよ」と部屋に入る。

 ミリィはベッドで、掛け布団からちょこんと顔を出していた。


「フィール、いらっしゃい。今日はどうしたの?」

「サーシャさん、サーシャお姉さんから、ミリィが寝込んでるって聞いて――」

「お母さんっ! ……あうぅ」


 ミリィはばっと跳ね起きるが、ふらりとベッドに倒れ込んだ。僕は慌てて駆け寄って、その上半身を支える。


「ミリィ……大丈夫?」

「うん、ありがとう」

「もしかして、疲れが溜まってたのかな? お母さんのことで、気が張ってたみたいだし」


 お母さんが元気になって気が緩んだんじゃないかな。安心した途端、急に疲れが来るとことってあるもんね。


「うぅん、最初はそうだったけど、いまはそうじゃないの」

「いまは違う? なにかあったの?」

「えっと……うん。あの、あのね? お母さん、フィールに変なことしなかった?」

「……変なこと? ミリィの振りをして、助けてくれた恩を身体で返すとか言ってたけど」

「うわぁあぁっ」


 ミリィは顔を両手で覆った。

 それからピクリと、なにかに思い至った感じで僕を見上げてくる。


「……それで?」

「え、それでって……なにが?」

「フィールは、身体で返してもらったの?」

「し、してもらってないよ?」


 なんだか、お姉ちゃん達と同じ殺気を感じて慌てて首を横に振る。


「ホント?」

「ホントだよ」

「ホントのホントのホントに?」

「うんうん。してもらってないよ。それに、ミリィじゃないよねって指摘したら、正体を白状してどっか行っちゃったよ」

「え、私じゃないって見破ったの!?」


 なんか、目をまん丸にして驚いてる。

 たしかに似てるけど、そこまで驚くようなことかなぁ?


「ねぇミリィ。ホントにどうしたの?」

「その前に聞きたいんだけど、お母さんどうして若返ったの? あの果実のせいだよね?」

「ごめん、それは僕も良く分からないんだ」

「……そっか」


 ミリィはしょんぼりとする。

 どうしてこんなに落ち込んでるんだろ? お母さんの病気が治って良かったはずなのに、若返っちゃったのが嫌なのかなぁ?

 どうしたら良いのかなって思ってたら、ミリィはぽつりと話し始めた。


「……えっと、もう分かってると思うけど、いまのお母さん、私にそっくりでしょ?」

「うん、良く似てたね」

「それで……その、私のお母さん、私達の生活を守るために、お父さんが死んでからは娼館で働いてたの。あ、娼館って分かる?」

「うん、分かるよ」


 お金を払って、女の人にご奉仕をしてもらうお店。獣化を防ぐご奉仕をしてくれる女の人がいなくて困ってる男の人が通うところだ。


「別に、そのこと自体は良いの。と言うか、私達を食べさせるために頑張ってくれて、だから凄く感謝してるんだよ。でも、でもね……」

「でも、どうしたの?」

「お母さん、私の振りをして娼館で働いてるの! まだ成人したばっかりなのに凄くエッチで最高なんだって――っ」


 ミリィは自分の顔を両手で覆った。


「……ええっと、ミリィの振りをしてるの? 気のせいじゃない?」

「気のせいじゃないよ! このあいだフィールにお礼を言おうと思って家を出たら、近所のおじさんに声を掛けられたんだから!」

「……なんて?」

「聞きたい? 聞きたいよね? 聞きたくなくても聞いてもらうから! いい? こう言われたの。ミリィちゃん実はむちゃくちゃエッチだったんだなぁ。おじさん、ミリィちゃんの腰使いにメロメロだよ――って。私まだ処女なのに! うわああぁぁぁあぁんっ」


 ミリィが泣き崩れた。

 僕はどう反応したら良いのか分からなくてオロオロしてしまう。ひとまず泣きじゃくるミリィの背中を撫でながら……あ、寝間着だからブラしてない。

 すべすべの背中を寝間着越しに撫でていると、ミリィに抱きつかれた。


「……フィール、慰めて」

「ふえ? 慰める――んっ」


 突然飛びついてきたミリィにキスされた。

 えっと……どういうことだろう? キスってご奉仕の前にすることだよね? でも、ご奉仕って獣化防止に男の人が、女の人にしてもらうことだよね?

 なのに、ミリィが慰めてってどういうこと?

 ……まさか、ミリィは女の子なのに、男の子みたいに獣化しちゃう危険があるのかな?


 分かんない。僕、良く分からないけど……泣いているミリィを慰めてあげたい。そう思ったから、僕はお姉ちゃん達に教えてもらった限りを尽くしてミリィを慰めることにした。



 それから、僕は夕食の時間になって家に帰ることにした。

 本当はもっと早く帰るつもりだったんだけど、ミリィが僕をなかなか放してくれなくてすっかり遅くなってしまったのだ。

 最後は僕のことご主人様って呼んでたけど、一体どういうことなんだろ?



 ちなみに、いつの間にかサーシャお姉さんも帰ってて、夕食を誘われたけど帰らないとって断ったら、「なら、今度姉妹丼を食べに来なさい」だって。

 親子丼は知ってるけど、姉妹丼ってなんだろう……? なんだか、今日は良く分からないことばっかりだったよ。


 とにかく、僕は夕食時になってアイシャお姉さんの家に帰ってきた。


「お帰りなさい、フィールくん。遅かったわね」


 なぜか笑顔がちょっぴり怖いアイシャお姉さんがお迎えしてくれた。お姉ちゃん達が不機嫌なときと同じオーラが出てるよぅ。

 なんて思ってたら、アイシャお姉さんは僕を抱きしめて、すんすんって鼻を鳴らす。


「フィールくんから、ほかの女の子の匂いがする」

「……あぅ」


 アイシャお姉さんがほかの女の子にご奉仕されたくないって言ってたことを思いだした。

 ミリィにご奉仕してもらったわけじゃないけど、内容はどこが違うのか良く分からなかったし、アイシャお姉さんを悲しませちゃったのかなぁ。

 僕は悲しくなって、アイシャお姉さんの顔を見上げた。


「……フィールくんはずるいなぁ。そんな風に泣きそうな顔をされたら、なにも言えなくなっちゃうじゃない」

「ごめんなさい」


 しょんぼりしたら、ほっぺをグリグリされた。


「ミリィが来たって聞いてるから、なにがあったか想像はついてるの。だから、怒ってないわよ。……私のご奉仕、必要なくなっちゃったわけじゃない、わよね?」

「うん、それはもちろんだよ」

「じゃあ、許してあげる。ひとまず、ご飯を食べましょう」


 僕は元気よく返事して、アイシャお姉さんの手作りご飯をごちそうになった。

 

 

 前々回の修正ですが、鏡に映る二十歳くらいの見た目から、鏡に映る若かりし頃の自分と変更しています、申し訳ない。

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