村を救ってお姉さんに甘えてみた
僕がこの街に来てから一週間ほどが過ぎた。
最初は初めて見る人里に戸惑うことばっかりだったけど、アイシャお姉さんが色々と教えてくれたおかげで、だんだんと街での暮らしにも慣れてきた。
それに獣化防止のご奉仕もアイシャお姉さんが頑張ってくれている。いままでお姉ちゃん達にしてもらっていたから心配だったけど、アイシャお姉さんが三人分頑張ってくれてる。
しかも、最近は朝にもご奉仕をしてくれている。僕はそこまでしなくても大丈夫だよって言ったんだけど、獣化したら大変だから念のため、だって。
アイシャお姉さんは僕の心配をしてくれる優しいお姉さんだ。
「それじゃ、私は受付でお仕事するから、フィールくんも頑張ってね」
僕達は今日も少し遅れて冒険者ギルドに顔を出した。アイシャお姉さんはそのままパタパタと受付に行き、周りの人達に声を掛けられている。
同僚の人も多いけど、冒険者の男の人に声を掛けられることが一番多いみたい。最近色っぽくなってきてたまらないって声がどこからともなく聞こえてくる。
僕が見てるあいだだけでも何人かに告白されてるみたいだけど、お姉さんは誰かと付き合ったりはしないのかな?
僕、そういう経験とかないから、良く分からないや。
あ、それより、今日はなにをしよう。ここ最近はずっとゲートの向こうにある異界で薬草採取のお仕事をこなしてたんだよね。
おかげで、高騰していた薬草の値段はだいぶ落ち着いてきたみたい。だから、そろそろ違う依頼を受けようかなって思うんだけど……って思って僕は依頼書を見て回った。
うぅん……討伐系はゴブリンとかガルム、あとはブラックボアくらいかな。採取はやっぱり薬草が多くて、ときどき変わった植物なんかの依頼がある。
どれも僕なら問題なく依頼を達成できると思う。依頼があるってことは誰かが困ってるってことだと思うし、この辺のどれかを受けてみようかな?
「お願いだよ、あたいを行かせてくれ!」
急に切なげな悲鳴がギルドに響く。驚いて見回すと、アイシャお姉さんに詰め寄っている、健康そうな肌のお姉さんがいた。
あのお姉さんが、いまの悲鳴を上げたみたいだね。
急にいかせて欲しいなんて声が聞こえたから、こんな人前でご奉仕してるお姉さんがいるのかと思ってびっくりしちゃったよ。
アイシャお姉さんに詰め寄ってるけど、なにかトラブルかな?
「お願いだよ、アイシャ。あたいを行かせてくれ!」
「だーかーらー、D級のエマじゃランクが足りないって言ってるでしょ? 相手は最低でもB級冒険者が必要になる敵よ。あなた一人では行かせられないわ」
「じゃあどうするんだよ!」
「だから、冒険者を募集をしてるでしょ」
「昨日もそう言ってたじゃないか! 待ってるあいだにみんな死んじまうよ! あそこはあたいが生まれ育った村で、あたいの妹だっているんだよ!」
「気持ちは良く分かるわ。でも、エマが一人が助けに言っても被害が増えるだけよ。だから、ギルドの受付嬢として許可は出来ない。あなたを無駄死にさせるわけにはいかないわ」
「危険なのは分かってるよ。けど、居ても立ってもいられないんだよ!」
ん~っと、褐色なお姉さんの故郷がピンチだけど、お姉さんじゃ実力が足りないから、他に応援がいるって感じかな?
「ねぇねぇ、アイシャお姉さん、なにか困ってる?」
気になった僕は二人の会話に割り込んだ。
「……なんだい坊やは。悪いけどあたい達は取り込んでるんだ。用事があるのなら、ほかの受付嬢を当たってくれないか?」
「待ちなさいエマ。フィールくん、もしかしていまの話、聞いてた?」
「おい、アイシャ。いまはあたいの――」
エマと呼ばれたお姉さんが食って掛かろうとするけど、それをアイシャお姉さんは視線だけで遮って、僕の顔を覗き込んできた。
「ごめんなさい。それで、フィールくんは、私達の話を聞いてたの?」
「うん、なんか困ってるみたいだから、僕で良かったら力になるよ? 僕じゃダメかな?」
「ダメじゃない、フィールくんなら出来るわ」
「いや、気持ちは嬉しいけど坊やには無理だ」
アイシャお姉さんとエマお姉さんが同時に正反対のことを口にする。エマお姉さんが信じられないって顔でアイシャお姉さんのことを見つめた。
「フィールくん。いままでに上位の魔物って、どんなのと戦ったことがあるかしら?」
「上位の魔物? ん~っと、そうだね。フェンリルには勝てなくて引き分けたよ」
「いや、それは上位というかもはや神話級なんだけど……って言うか、実在するの?」
「和解したら可愛かったよ?」
「意味が分からないわ」
あれれ? 普通の人にとって、フェンリルって強敵なはずだよね。それと引き分けたってわりと凄いことだと思ったんだけど、どうして呆れられちゃったんだろう?
……あ、もしかして魔物と仲良くなったのがあり得ないって思われたのかな。
そうだよね。エマお姉さんみたいに魔物のせいで悲しんでる人もいるのに、仲良くしたなんて言っちゃダメだよね。ちゃんと空気を読んで気を付けるようにしないとダメだね。
「あんた……なにを言ってるんだい? フェンリル? 引き分けた?」
「エマ、信じられないのは良く分かるわ。でも、いまあなたの村を救える可能性があるのはフィールくんだけよ」
「……本気で言ってるのかい? こんな坊やが、英雄並みの力を持っているって?」
「この状況でそんな冗談はいわないわ」
アイシャお姉さんの本気を感じ取ったのだろう。エマお姉さんがゴクリと生唾を飲み込んで、ゆっくりと僕を見下ろす。
その瞳には困惑や葛藤が映っていたけど、しばらくして期待が滲んでくる。
「あたいも冒険者だ。見た目じゃ判断できないこともあるのは知ってる。つまり、この坊やなら、あたいの村を救ってくれるって言うんだね?」
「ええ。彼になら可能よ」
「なら――」
「ただし、今のままじゃ彼をあなたの村には行かせられない」
「なっ!? それはどういうことだよ! 彼なら大丈夫だって言ったじゃないか!」
「落ち着きなさい。彼ならフォレストサーペントも倒すことが可能よ。だけど、彼には不用意に遠出できない理由があるの」
あ、そうだった。
お姉さんの村を救いに行く気満々だったけど、何日もかかる距離だと獣化予防のご奉仕を受けられなくて、僕が獣になっちゃうかもしれない。
「ねえアイシャお姉さん、その村までどれくらい掛かるの?」
「馬車で往復四日はかかるわ」
馬車で四日かぁ……なら、空を飛べば一泊くらいで往復できるかな?
「数日なら平気かもしれないって話だけど、四日は大丈夫か分からないでしょ? 私がついて行けたら良いんだけど……いまはギルドの仕事がたまってて休むわけにはいかないのよ」
あ~ご奉仕が大変でギルドのお仕事が押しちゃったんだね。
なんかごめんなさい。
と言うか、飛べば一日で往復できるくらいだから、向こうで一日かかったとしても、二日あれば帰ってこれると思うんだけど……みんなの前で飛ぶとか言えないよね。
どうしよう?
「なあアイシャ、一体なんの話をしてるんだ?」
「さっきも言ったけど、フィールくんには少し事情があるの。その問題を解決しない限り、フィールくんがあなたの村に行くのは厳しいわ」
「なら、その問題を解決すれば、この坊やが村を救ってくれるんだね?」
「そう、なんだけど……うぅん。出来れば私以外には……でも、エマの村を見捨てるなんて出来ないし、私も仕事は休めない。かといって、ほかの誰かなんて……えぇい仕方ないわ!」
アイシャお姉さんは急にエマお姉さんの両肩を掴んで、その顔を覗き込んだ。
「エマ、あなた、村を救うためならなんでも出来る?」
「え? まぁ、それは、もちろん、そのつもりだけど?」
「なら、ちょっとこっちにいらっしゃい!」
「え、ちょ、アイシャ?」
エマお姉さんがずるずると引きずられていく。そしてギルドの隅っこで、二人がなにやらヒソヒソと話し始めた。僕は耳が良いから、その内容が聞こえてくる。
「よく聞きなさい。フィールくんは獣化という呪いを受けているの」
「……獣化? なんだい、それは」
「私も詳しいことは分からないんだけど、魔王の瘴気が原因だと思っているわ」
「ま、魔王の瘴気!?」
「ええ、そうよ。それでフィールくんは体内にたまった瘴気を定期的に抜かないと、瘴気が溜まって獣になってしまうの」
「そんな……あんな小さい男の子なのに、そんな運命を背負ってるなんて……まさか、彼が強いのは、それが理由なのかい?」
「私は無関係じゃないと思っているわ」
魔王の瘴気で蝕まれたのはエリシアお姉ちゃんなんだけどな?
それとも、僕の獣化も魔王の瘴気が原因なのかな? アイシャお姉さん物知りだし、もしかしたらそうなのかも?
「つまり、あたいにその瘴気を抜けって言うんだね。どうすれば良いんだい?」
「エッチよ」
「……誰がエッチだよ。いくら抜けって言われたからって、そんな誤解するはずないだろ!」
「誤解じゃなくてホントにエッチなの。むしろ、そっちの意味で抜けって言ってるの。フィールくんにご奉仕をして、瘴気を抜いてあげるのよ」
「……………………ええっと、冗談、だよね?」
「マジもマジ、大マジよ」
「ホントにそんなことをしろって言ってるのか!?」
「ちょっと、声が大きいわよ」
エマお姉さんが口を押さえて、慌てて周囲を見回す。そして周囲の人達が反応してないことに安心して、また話を再開した。
……僕、聞いてて良いのかな?
でも、耳を塞ぐのも変だよね。勝手に聞こえてくるし……
「ほ、ホントのホントに、あの坊やに、そう言うことをしろって、言ってるのか?」
「ホントのホントよ」
「って言うか、ちょっと待ちなよ。じゃあ、あの子はいままで……」
「~~~っ」
アイシャお姉さんが真っ赤になった。
「嘘、だろ? まさか……アイシャ、あんたが……?」
「……悪い?」
「いや、悪くはないけど……まさか、堅物のあんたがそんなことになってるなんて思わないじゃないか。まさか、嫌々やらされてるわけじゃないだろうね?」
僕はその言葉にドキッとした。
エリシアお姉ちゃん達みたいに、僕を育ててくれたわけじゃない。出会ったばかりだ。そんなアイシャお姉さんに頼りっきりで、負担に思われてるかもしれないって思った。
だけど……
「嫌々なんかじゃないわ。それより、どうなの? 覚悟があるのかないのかどっちなの?」
「それは……くっ。分かったよ! そうしなきゃ村が救えないって言うなら、村を往復するあいだは、あたいがその役目を引き受ける」
「……そう。分かった。なら、私からフィールくんに頼んであげる」
なんだか話が纏まったみたい。
僕が聞いてたって気付かれたらなんだか気まずいから、僕はとっさに明後日の方を向いた。だけどその瞬間、アイシャお姉さんの呟きが聞こえちゃったんだ。
「嫌だって言うなら、むしろ――」
僕は予想もしてなかったその言葉に良く分からない気持ちを抱いた。
「お待たせ、フィールくん。フィールくん? どうかしたの?」
「え? あ、うぅん、なんでもないよ!」
「そう? なら良いけど……えっと、エマの依頼、聞いてくれるかしら?」
「うん、僕で良ければもちろん!」
複雑な気持ちを知られないように、あえて明るく答える。それから、アイシャお姉さんから依頼の詳細を聞かせてもらった。
ターゲットは村の近くに出没しているフォレストサーペント。森に生息する巨大なヘビの魔物で、家畜どころか、場合によっては人も丸呑みしてしまう魔物だ。
……と言っても、僕が暮らしていた魔の森だとカースト下位の魔物だけどね。
「その魔物を狩ればいいんだよね?」
「ええ、そうよ。そしてエマに同行をお願いしているわ。もし旅の途中でフィールくんが困ったことになったら、エマにお願いしたら対応してくれるからね」
それがご奉仕であることはすぐに分かった。
だから僕はちょっと迷って、それから一呼吸置いてコクンと頷いた。
「それじゃ、さっそくだけどお願い。街まではエマが案内してくれるわ。……フィールくん、気を付けて行ってくるのよ?」
アイシャお姉さんが、僕の頭をそっと撫でてくれた。それから名残惜しそうにしながら、その手がゆっくりと離れていく。
僕が見上げると、アイシャお姉さんはいつも通りの笑顔を浮かべてた。
それから、僕はエマお姉さんと自己紹介を交わしながらギルドを後にした。
「へぇ? ならあんたは、あの英雄達の弟子なのか?」
「うん、そうだよ。この街では秘密になってるから、お姉さんも黙っておいてね」
別に隠すようなことじゃない。
ただ、あの英雄達の弟子で免許皆伝だって知られたら、絶対ランクが飛び級で上がるって言われたので、秘密にしてもらってるのだ。
「と、ところで話は変わるけど……獣化の話って、本当なのか?」
「えっと……本当だよ」
魔王の瘴気とかは良く分からないけど、ひとまず嘘じゃないと頷く。
「じゃ、じゃあ、アイシャが面倒見てるって言うのも?」
「うん、毎朝毎晩ご奉仕してくれてるよ」
「ま、毎朝毎晩……それであの子、最近艶っぽくなったって言われてたのか。まさか、あの堅物のあの子が、あたいより先に大人になるなんてねぇ。あ、でも、あたいも……」
エマお姉さんが黙り込んでしまう。
僕は周囲を見回して、ちょうど良い裏路地を見つけた。
「エマお姉さん、こっち」
「え? こっちって、そっちは裏路地だよ?」
「良いから良いから、ついてきて」
僕はエマお姉さんを人気のない裏路地へと連れ込んだ。
「うん、ここなら大丈夫かな」
「大丈夫って……まさか、いまから? ここで!? ちょ、ちょっと待ってくれ。あたい、その初めてだから、出来れば最初はもう少し別の場所で……」
「動かないで」
僕はエマお姉さんの腕を掴んで、暴れないようにする。そうして、エマお姉さんが驚かないように、ゆっくりと魔術で浮かび上がる。
「ひゃうっ。……な、なにこの感覚。浮いちゃう、あたい、浮いちゃうよ。こんな、初めてなのにこんな感覚――ってホントに浮いてる!?」
「あ、お姉さん、注目を浴びたら困るからあんまり大声は上げないでね」
人気のないところから飛び上がったとはいえ、上を向かれたら気付かれちゃう。普通の人達は空を飛んだりしないから、僕は見つからないように飛ぶのです。
「あ、ごめんよ……って、どうして飛んでるんだよ?」
「そういう魔術だよ。詳しくは秘密だから、聞かないでくれると嬉しいな。それより、エマお姉さんの暮らしてる街はどっち?」
「え? えっと……あっち、あの森の向こう側」
「分かった。急いで行くから、舌を噛まないでね」
「へ? ひゃ、ひゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
僕はエマお姉さんを連れて、村をめがけて全力で飛翔した。
「――とうちゃーく」
午前中に出発して、真上を通り過ぎた太陽が少し傾いた頃に到着した。
「ま、まさか、こんな短時間で到着するなんて……嘘だろ?」
「嘘じゃないよぅ。それより、フォレストサーペントのことを聞きたいから、詳しく知ってそうな人のところへ案内してくれる?」
「あ、あぁ。そうだね。えっと……こっちだよ」
エマお姉さんに連れられてやって来たのは、村長さんのお宅だった。最初は子供の僕を見て不審に思ってたみたいだけど、エマお姉さんの説得で色々と話してくれた。
それによると、最近現れたフォレストサーペントは一体だけ。近くの森から餌を求めて村に現れるようになったみたい。
「分かりました。それじゃ、さっそく退治してきますね」
「ちょ、ちょっと待ちなよ。あんた、いままでここまで魔術を行使してたんだよ。魔力だって一杯一杯だろ? いくらなんでも休憩なしで魔物と戦うのは無茶だよ」
「うぅん、大丈夫だよ」
僕はアイテムボックスの魔術で異空間からきつめのマナポーションを取り出してコクコクと喉に流し込んでいく。
効果が強力だから子供の僕はあんまり飲まない方が良いって言われてるんだけど、今回は特別。いそいでフォレストサーペントを退治しちゃいたいからね。
「すぐに退治してきちゃうから、エマお姉さんはここで待っててね」
「え? ちょっと、フィール!?」
エマお姉さんの制止を振り切って、僕は魔物を探すべく森へと飛び立った。
「フォレストサーペント、どこかな?」
上空から森を見下ろし、サーチの魔術でそれっぽい反応を探す。
僕の斜め前方に、それっぽい反応を見つけた。
「魔力は温存したいから……」
二対の剣をアイテムボックスから引き抜いて、上空から一気にダイブ。パメラお姉ちゃん直伝の剣舞を放って、フォレストサーペントの首を両断した。
でもって、討伐の証として持ち帰るためにアイテムボックスに放り込む。
「これで任務達成――って言いたいところだけど、フォレストサーペントが一体とは思えないんだよね。もう一体くらいいるんじゃないかな?」
再び空を舞った僕はサーチの魔術を行使して、発見したら双剣で切り刻む。そんな行為を繰り返して、結局は三体のフォレストサーペントを討伐した。
「たっだいまーっ! フォレストサーペント、全部で三体討伐してきたよ!」
「……は?」
「ここに並べるね」
僕はぽいぽいぽいと、フォレストサーペントの死体を村の広場に積み上げた。それを見た村長がが歓声を上げる。それに釣られた人々が顔を出し、村はすぐにお祭り騒ぎになった。
村人達が口々にお礼を言ってくる。
「お礼なら、必死に冒険者を集めようとしたエマお姉さんに言って上げて」
「おぉ、エマが頑張ってくれたのか! ありがとう、エマ。おまえは村の誇りだ!」
「よしとくれ。あたいはなにもしてないよ。全部、この子のおかげだよ」
「いや、おまえが呼んでくれたから、彼が来てくれたんだろう。感謝しておる。そしてもちろん、フィール殿が村の救世主じゃ。是非、感謝の宴を開催させてくだされ」
村長さんがそんな提案をしてくるけど、僕は首を横に振った。
「ごめんなさい。僕は今日中に帰らないといけないの」
「おいおい。フィール。さすがに休んだ方が良いんじゃないか?」
エマお姉さんが心配そうに僕を見る。疲れてるのはその通りだけど、帰るだけなら大丈夫。そう主張して、これから帰ることにした。
「……なにか、訳があるんだね? なら、あたいも一緒に帰るよ」
「エマお姉さんはゆっくりしていっても良いよ?」
「いや、アイシャとの約束だからね。村にはまた後日、様子を見に来るさ」
とまあそんなわけで、僕とエマお姉さんは村長さんや村のみんなに挨拶をした後、討伐の証となるフォレストサーペンの死体をアイテムボックスにしまって帰還した。
街に帰ってきたとき、すっかり日が暮れていた。
ギルドへの報告は明日にしてもらって、エマお姉さんと別れた僕はふらふらになりつつアイシャお姉さんのいるお家に帰る。
扉をノックすると、しばらくしてアイシャお姉さんがドアを開けてくれた。お姉さんは一人で飲んでいたのか、ちょっぴりお酒の匂いがする。
「……あれ? フィールくん? どうしてまだ街にいるの?」
「まだいるんじゃないよ。魔物を退治して帰ってきたんだよ?」
「……はい? なにを言ってるの?」
「えっと……取り敢えず入っても良いかな? 僕、もう疲れてヘトヘトだよ」
「あ、そ、そうね。どうぞ、入って――フィールくん!?」
アイシャお姉さんのお家に入った僕は、そのままへなへなとへたり込んでしまった。
「だ、大丈夫? もしかしてどこか怪我をしたの!?」
「うぅん、怪我はしてないよ。ただ、魔力とか一杯使って、凄く疲れちゃっただけ、だから」
「そう、なの? と言うか、本当に一日で退治して帰ってきたの?」
「うん、そうだよ」
「どうしてそんな無茶をしたの? 一日で行って帰ってくるって物凄く大変だったでしょ?」
「うん。でも……アイシャお姉さんの声が聞こえちゃったから」
「私の声?」
アイシャお姉さんは小首をかしげる。
「あのね。エマお姉さんと内緒話をしてたの、聞こえちゃってたの。僕へのご奉仕が嫌々じゃないかって、エマお姉さんに聞かれてたでしょ?」
「えぇっ!? あれ、聞こえてたの!?」
「うん。それでアイシャお姉さん、最後に呟いたよね。ご奉仕は嫌々じゃない。むしろ嫌なのは、僕がほかの女の人にご奉仕されることだ――って」
僕はそのとき凄く驚いた。
だって、僕へのご奉仕は仕方なくだって、そう思ってたから。
「そ、そこまで聞こえてたの!? ……え? って言うか、じゃあ、フィールくんが、無理して帰ってきたのって、もしかして?」
「うん。僕も良く知らないお姉さんより、アイシャお姉さんにしてもらいたいなって思って帰ってきたの。……迷惑、だったかな?」
「そんなことない、そんなことないわ! あぁもう、可愛いわね、フィールくんは!」
アイシャお姉さんにぎゅーって抱きしめられる。優しくて甘い。アイシャお姉さんの温もり。僕は嬉しくなって、ぎゅーって抱きつき返した。
「それじゃ、いまからご奉仕して上げる」
「ありがとう。あ、でも僕、今日はヘトヘトで動けないかも」
「大丈夫、お姉さんにぜぇんぶ、任せておきなさい、ね?」
信じられますか? 受付のお姉さんが登場シーンを書き始めたとき、名前すらないちょい役の予定だったんですよ。怖いですね、プロットなしの執筆って……




