表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

聖女について尋ねられた

 まさかのノクタ版を投稿しました。興味ある人はあっちで緋色の雨で検索してみてください。タイトルが変わっていますが、すぐに分かると思います。

 *あっちは分割するので、本編の更新は思いっきり遅れます。

 ギルマスの本気を見た。

 僕達がゲートで帰ってきたのは夕暮れ時で目撃者が大勢いたのに、ギルマスは自分の権限を使ってみんなに口止めをやってのけたのだ。


「もしおまえ達が一人でも誰かに秘密を漏らして、俺が聖女様の情報を手に入れなければ、どうなるか分かっているな? 草の根分けても犯人を見つけ出し、血祭りに上げてやる」


 ――だってさ。

 エリシアお姉ちゃん、愛されてるなぁ。


 なんて思ってたら、アイシャお姉さんに呼び出された。ギルマスを動かすのに取引したから、エリシアお姉ちゃんのことを少し話して欲しいんだって。


 ――と言うことで、世界樹の果実を持ってるミリィを念のために家まで送った後、僕はギルドの奥にあるVIPルームへと案内された。

 テーブルの向こう側にギルマスが、こっち側に僕とアイシャお姉さんが並んで座る。


「さて……ボーズ、名はなんと言う?」

「僕はフィールだよ」

「そうか、ならばフィール。おまえは英雄達の関係者だと聞いたが事実か? もし俺を騙すつもりなら、相応の報いを受けてもらうぞ?」


 ギルマスがちょっぴり殺気を飛ばしてくる。その瞬間、アイシャお姉さんの胸に引き寄せられた。むぎゅうって胸に押しつけられて前が見えない。


「――ちょっと、ギルマス! フィールくんはまだ小さい男の子なんですよ! 殺気を飛ばすなんて、なにを考えているんですか!」

「らいじょぶ――ぷはぁ。大丈夫だよ、アイシャお姉さん」


 胸の谷間から顔を上げてギルマスの代わりに答える。


「でも、話を聞くために呼んだのに、殺気を飛ばすなんて……」

「ギルマスの殺気はちょっぴりだったでしょ? 僕がお姉ちゃん達の関係者なら、いまくらいの殺気ならなんでもないって分かってたんだよ」

「……そうなんですか? ギルマス」

「関係者なら耐えられると思ったのは事実だが……ちょっぴり?」


 どうしてかな? ギルマスが愕然とした顔をしてる。いま殺気が本気だった、なんてことはないよね? お姉ちゃん達がちょっぴり怒ったときに放つ殺気の方が百倍怖いし。

 あ、ちなみに、システィナお姉ちゃんに歳を聞いたときは震えが止まらなくなった。だから、僕は絶対システィナお姉ちゃんに歳の話はしないって決めてるんだ。


「とにかく、フィールくんに失礼な態度を取ると後悔しますよ」

「なんだ、それはどういう意味だ?」


 アイシャお姉さんは僕に向かって、キミのこと話しても良いかな? って聞いてきた。だから僕はうんって頷いた。


「フィールくんは、あの英雄の弟子なんです」

「なんっ、だと!? あの英雄達が弟子を取ったというのか!?」


 ……なんでそんなに驚くんだろう?

 お姉ちゃん達ってわりと教えたがりだから、弟子がいてもおかしくないよね?


「しかも、免許皆伝だそうです」

「馬鹿なっ! こんな小さな子供が英雄と同レベルの力を身に付けているというのか!?」

「あ、同レベルではないですよ? 僕、お姉ちゃん達と本気で戦っても、五回に一回くらいしか勝てないから」

「「――なっ!?」」


 あ、二人から信じられないって目で見られちゃった。そうだよね。免許皆伝なのに、五回に一回くらいしか勝てないなんて情けないよね。


 でも、お姉ちゃん達から学んだ全てを使って――治癒魔術で回復しつつ、剣技と攻撃魔術を駆使したら全勝できるって言っても情けないだけだしね。


「ま、まさか、こんな小さな子供がそれほどの力を身に付けているとは。……いや、そういえばゲートを開いたのはこの子供だったか」

「あ、そのことは秘密でお願いします。人前で使ったなんて知られたら、システィナお姉ちゃんにたくさん怒られちゃうので」

「ふむ。そういうことなら、情報統制は徹底したから安心するがいい。あの場にいた奴らの名前は全員控えてある。情報を漏らす馬鹿はおらんだろう」

「ありがとうございます」


 良かった、これでシスティナお姉ちゃんに怒られなくて済む。

 三人の中で、一番怒ったら怖いんだよね。


「しかし、ゲートを使うと言うことは、フィールは魔女様の弟子と言うことか?」

「システィナお姉ちゃんだけじゃなくて三人とも僕の師匠ですよ」

「はっ!? まさか、あの三人に手ほどきを受けている、だと? では、免許皆伝なのは、そのうちの黒魔術だけ、と言うことか?」

「うぅん、全員から免許皆伝だって言われました」

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 うわっ、びっくりした。

 VIPルームって防音性が高いからギルマスの声が物凄く反響した。


「お、おまえ。いや、貴方様は、そのお歳で、聖女様と魔女様、それに剣姫と同等の能力を身に付けていると、そうおっしゃるのですか?」

「えっと……あの、普通に話してくれると嬉しいです」

「そ、そうか。それで……どうなんだ?」

「だから、五回に一回勝てるくらいですって。もちろん、みんなに習ったことを駆使して戦えば勝てると思うけど、それじゃ弟子としてはまだまだですもんね」

「ははは……」


 うーん、やっぱり呆れられてしまった。お姉ちゃん達の弟子として恥ずかしくないように、もっと精進しないとダメだなぁ。



 しばらく沈黙が流れ、驚きから立ち直ったギルマスが問い掛けてきた。


「そ、それで、英雄の彼女達は、今どこでどうしているのだ? とくに聖女様」

「システィナお姉ちゃんとパメラお姉ちゃんは、人里離れたところでいまものんびり暮らしてますよ。エリシアお姉ちゃんは……」


 お姉ちゃんとの別れを思い出して胸が痛くなった。


「まさか……聖女様になにかあったのか?」

「うん。魔王を滅ぼしたときに瘴気を浴びちゃってたんです。それで身体が少しずつ蝕まれて、ある日いきなり身体の感覚がなくなって……最後は、家を出て行ったんです」

「ならば聖女様は、もう……」


 こくりと頷き、僕はエリシアお姉ちゃんがいなくなる直前のことを思い出した。

 忘れもしない、誕生日を控えた前の日の夜。

 僕はいつものようにお姉ちゃん達にご奉仕をしてもらっていた。だけどそのとき、僕はエリシアお姉ちゃんの反応がいつもと違うことに気がついた。


 それを指摘したとき、エリシアお姉ちゃんは真っ青になったんだ。

 そのとき、エリシアお姉ちゃんは初めて、自分の身体が瘴気に冒されていて、身体の感覚が鈍くなっていることに気がついたみたいだった。

 そして――


「やだ、そんな……嘘っ。こんな、こんな不感症みたいな身体じゃフィーくんに上手くご奉仕してあげられないよ! 私、お姉ちゃん失格だよ――っ!」


 エリシアお姉ちゃんはそんな風に取り乱して、蝕まれた身体をなんとかするって家を飛び出して行っちゃったんだよね。


 だから、次の日に僕は家を出ることにした。


 エリシアお姉ちゃんの提案で、ご奉仕は必ず三人一緒って血の盟約を結んでいたから、システィナお姉ちゃんやパメラお姉ちゃんに獣化を抑えてもらうことが出来なくなったから。


 だから、獣化を抑えてくれる女の人を探すと同時に、お姉ちゃん達みたいな立派な冒険者になろうと決意したんだ。


「……まさか、聖女様が死んでいる、なんてな」


 重苦しい空気の中、ギルマスがぽつりと呟いた。……って、あれ? どうしてそんな結論になったんだろう?

 僕、エリシアお姉ちゃんが死んだなんて、一度も言ってないよね?


「エリシアお姉ちゃんは生きてますよ?」

「そう、だな。家を出たのなら、いまもどこかで生きているかもしれんな」

「間違いなく生きています」


 きっぱりと訂正する僕に向かって、ギルマスは何故か痛々しげな顔をした。それと同時にアリシアお姉さんにぎゅううううって抱きしめられた。

 僕の頬にポタポタと熱い雫が降ってくる。


「アリシアお姉さん、どうして泣いてるの?」

「……なんでもな、なんでもないわ。大丈夫、大丈夫よ。フィールくんは一人じゃない。私が側にいるからね。だから、大丈夫よ」


 もしかして……エリシアお姉ちゃんがいなくなって、僕がほかのお姉ちゃん達にご奉仕してもらえなくなったことに気付いたのかな?

 やっぱりアイシャお姉さんは優しいなぁ。今夜もお姉さんに甘えちゃおうっと。



   ◆◆◆



 サーシャがベッドに横たわっていると、娘のミリィが少年を連れて帰ってきた。

 まるで女の子のように可愛らしい男の子で、名をフィールと言うらしい。そのフィールはどうやら、ここまで娘を送ってくれたようだ。


 娘がどこに行っていて、どこから帰ってきたのか聞きたかったのだが、フィールはすぐに用事があるからと言って帰っていった。

 その後ろ姿を見送るミリィの顔が印象的だった。


 それからほどなく、薬草を煎じた薬を持ったミリィが部屋に戻ってくる。


「はい、お母さん。お薬だよ」

「……ありがとう、いただくよ」


 身体を起こすのを手伝ってもらい、薬を喉に流し込む。薬草が持つ治癒の効能により、サーシャの身体は少しだけ楽になった。


「ありがとう、だいぶ楽になったよ」

「ホント? 良かった!」

「……でも、薬草は高騰しているはずなのに、どうやって手に入れたの? 無茶をしてないでしょうね?」

「だ、大丈夫だよ、危ない事なんてなかったから」

「……ミリィ。私はあなたが心配なのよ」


 怒っているわけではない。自分を心配してくれる娘を怒れるはずがない。だから、ただ心配なのだと、誤魔化そうとしている娘の瞳を覗き込んだ。

 その視線に耐えかねたのか、ミリィはふっと視線を逸らす。


「……ホントは、無茶しようとしたの。でも、フィールが薬草採取を手伝ってくれた。だから、ちっとも危ないことはなかったよ」

「……やっぱり危ないことをしようとしたのね。それで、あなたを護ってくれた男の子は、あなたの恋人なのかしら?」

「ふえっ!? ちっちちちっ違うよ! フィールはそんなんじゃないよ! って言うか、今日知り合ったばっかりだし、まだ早いって言うか、えっと……と、とにかく違うから!」


 どうみても惚れているようにしか見えない。

 いつの間にか娘が恋をする歳になったことにサーシャは感慨深いものを感じながら、けれどその恋が決して叶わないであろう現実に泣きそうになる。


 サーシャが患っているのは不治の病で、長い年月を掛けて身体を蝕まれた。いままで騙し騙し生きてきたが、それももう限界なのだ。

 そして、いつかこんな日が来ることを予期して蓄えたお金ももうすぐ底をつく。自分が死んだ後、娘達がどうなるかは考えたくもなかった。


 あの男の子、フィールがもう少し大人であれば、両親を失ったミリィやその妹を養ってくれたかもしれない。けれど、あの可愛くも幼い少年にそれを求めるのは酷だろう。

 だから、ミリィの恋は叶わない。


 だが、話してもどうしようもないことだ。いまはもう少しだけ夢を見させてあげようと、フィールは頬を赤く染める娘を見守る。


(それにしても、あの世話焼きのミリィが、こんなにも恋する乙女になるなんてね。あの男の子の魅力かしら? たしかに可愛らしい男の子だったけど……)


 挨拶を交わしたときのフィールのことを思い出す。

 礼儀正しくて優しい物腰で、どことなく護ってあげたくなるような男の子。ミリィは面倒見が良い女の子なので、彼に惚れるのは無理もないなと思った。

 むしろ、自分が若かりし頃に出会っていれば、きっといまの娘のようになっていただろう。


(なんて、お父さんに悪いわよね。あの人は不器用だけど、とても良い旦那様だったもの)


 いまは亡き夫のことを思い出し、ずきりと胸が痛んだ。

 もう十年ほどになる。サーシャの夫は若かりし頃の自分と娘達を残して死んでしまった。

 もし夫が生きてさえいてくれたら自分は寂しい思いをしなくて済んだし、娘の行く末を心配せずに死ぬことが出来たのに――と、そんな風に思わずにいられない。


「お母さん、これも食べて」

「……これは、なにかの果実かしら?」


 娘が差し出してくれた、見たこともない果実を前に小首をかしげた。


「フィールがくれたの。これを食べれば、どんな病気だって治るんだって」

「……そう。ありがとう。それじゃ、いただくわ」


 本当は、もう助からない自分のためじゃなく、貴方自身のためになることをして欲しい。けれど、娘の好意を無下にしたくもなくて、サーシャは果実のよそわれたお椀を受け取った。


「それじゃ私、妹のご飯を作ってくるね!」

「……ミリィ、いつも済まないわね」

「うぅん。私は大丈夫だから心配しないで!」


 ミリィは明るく微笑んで、パタパタと部屋を後にする。

 そうして扉が閉められるが、扉の前にある気配は残っている。そして、静けさの中に聞こえる、わずかな嗚咽。ミリィは、サーシャがもう長くないことに感づいているのだ。

 そのうえで、サーシャに負担を掛けたくなくて明るく振る舞っている。


「泣いて罵ってくれたら、少しは私の気も晴れるのかしら……」


 ぽつりと呟いてみる。だが、無理だろうと結論づけた。たとえ罵られようと、それでも娘の幸せを望まずにはいられない。


「……ダメね、弱気になっちゃ。まだ少し、もう少しだけ娘達のために生きないと。そのために、うん。この果実もしっかりいただきましょう」


 娘がくれた優しさをそっと口にする。

 いままで味わったことがないような甘くて瑞々しい果実。ぽぅっと身体の芯が熱くなって、病で蝕まれていた部位を中心に熱が広がっていく。

 そして――


「うぐっ……あっ、ああぁあぁっ!」


 全身に耐えがたい痛みが走ってサーシャはうずくまった。病による発作かと思ったが、いままでここまで痛みを感じるようなことはなかった。

 それになにより、必死にやり過ごそうとしても痛みが去ってくれない。


「な、に……これ。身体がっ、身体が痛いわっ!」

「え? お母さん!? どうしたの! 入るよ!」


 そんな声とともに飛び込んできたミリィに手を伸ばす。


「ミリィ、身体が、身体が凄く痛いのっ」

「……え? だ、誰?」

「なにを、言ってるの、私よ、お母さんよ!」

「……おかあ、さん? お母さん!?」


 娘に信じられないという目で見られてしまった。


「どうしたのよ? どうして私が分からないの?」

「え? だって……え? ホントにお母さんなの?」

「そうよ?」

「ホントのホントのホントに?」

「他に誰がいるのよ」


 いつの間にか身体の痛みが治まっている。上半身を起こしたサーシャは、娘にふくれっ面を向ける。その途端、娘が「ぶっ」と吹きだした。


「どうして笑うのよ!」

「だって、お母さん……可愛すぎだよ。ちょ、ちょっと待っててね!」


 なんだか良く分からないことを言って、娘が部屋から飛び出していく。

 ホントになんなんだろうと不思議に思いながら、起き上がろうとしたサーシャはバランスを崩してパタリと転んでしまう。


「あいたた……どうなってるのかしら。なんだか、身体のバランス感覚が狂ったみたいで……あら? その代わり、妙に軽くなったわね」


 もう何年も付き合っていた気怠さがすっかり消え失せている。いまなら、どこまでだって掛けていけそうなほど清々しい気分だ。

 理由は分からないけど、病気が消し飛んでしまったみたい。これなら、本当に走り回れる。そう思って起きようとするのだが、やっぱりバランスはおかしくて転んでしまう。


「なに? 本当になんなの?」


 思わず自分の身体を見下ろしてあらっと首を傾げた。自分の視界の下を覆っていた胸の膨らみがずいぶんと小さくなっている。

 これなら手のひらに収まりそうだと両手で胸を手で持ち上げたサーシャは、今度はその手が小さくなっていることに気付いてまたもや驚いた。


「って言うか、手だけじゃない? 腕も、足も、なんだか小さくなってる気がするわ」

「――お母さん、銅鏡持ってきたよ!」


 そのとき、部屋に戻ってきたミリィが銅板を磨いた鏡をかざす。銅だから、そこまで綺麗に自分の姿は映らない。けど、おおよその姿を確認することは出来た。

 そして――


「ど、どうして私娘に戻ってるのおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 鏡に映る若かりし頃の自分を指差して、サーシャは心の底から叫んだ。

 

 

 このときのミリィは、まさか母親がライバルになるとは思ってもいなかった……


 エリシアの生存を予想した人はいたかもしれませんが、まさかこんな理由だと思った人はいないに違いないw


 *17日、最後の一文を二十歳から若かりし頃の自分と書き換えました。ご迷惑をおかけします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ