プロローグ
いつもとは色々な意味で毛色が違う新作です。
また、なろう的に性描写はありませんが、描写外では性的な行為が多発する内容でR15としています。その辺が苦手な方はご注意ください。
僕には三人の育てのお姉ちゃんがいた。
育てたのならお母さんじゃないかなって思うかもだけど、育てたのはお姉ちゃんだ。というか、お姉ちゃんって呼ばないと、拗ねてしばらく口を利いてくれなくなるのだ。
そんな三人の優しいお姉ちゃん達は、魔王を倒した英雄でもあるらしい。
エリシアお姉ちゃんは聖女と呼ばれていて、当時十二歳の若さであらゆる治癒魔術を使いこなし、魔王を討伐するパーティーの仲間達を支えていたんだって。
ちなみに、エリシアお姉ちゃんが僕を拾ってくれた人だ。
でもって、システィナお姉ちゃんは魔女と呼ばれていて、あらゆる攻撃魔術や補助魔術を使いこなし、パーティーのダメージディーラーとして活躍していたらしい。
ちなみに、年齢は……良く分からない。今も昔も見た目がちっとも変わらなくて、エリシアお姉ちゃんから二百歳は超えてるって聞いたことがある。……ホントかな?
最後にパメラお姉ちゃんは伝説の踊り子で、二振りの剣を舞うように扱って、立ち塞がる敵を斬り伏せていく。その美しさから剣姫って呼ばれていたらしい。
そんな、優しくも強いお姉ちゃん達に育てられた僕は、フィールって呼ばれている。本当の名前は分からないけど、僕を拾ってくれたエリシアお姉ちゃんがくれた名前なんだ。
そんな僕は、四歳のころに拾われて、それからずっとお姉ちゃん達に育ててもらってる。
それまでの記憶はうっすらとしかなくて、自分がどこの誰で、どうしてお姉ちゃん達に育てられることになったのかは分からない。
お姉ちゃん達は知ってるみたいなんだけど、絶対に教えてくれないんだ。
ただ……お姉ちゃん達が魔王と倒した時期と同じくらいに拾われたから、たぶん魔族とかに両親を殺されたとか、そんな感じなんじゃないかなって思ってる。
でも、別に知らなくても良いとも思ってるんだ。
僕を産んでくれた両親には感謝してるけど、僕を育ててくれたのはお姉ちゃん達。そのお姉ちゃん達とずっと一緒にいられるのなら、それだけで良いって――思ってた。
ちなみにエリシアお姉ちゃんに拾われた頃、僕はほかのお姉ちゃん達にはあんまり好かれてなかったことを覚えている。
理由は分からないけど、エリシアお姉ちゃんが僕を育てることを反対してたみたいだ。
当時のエリシアお姉ちゃんは十二歳だったから、子供に子供は育てられない、みたいな理由だったのかもしれないけど、そういうのとはちょっと違った気もするんだ。
でも、時の流れとともに、パメラお姉ちゃんの態度がなんとなく変わってきた。
エリシアお姉ちゃんが側にいないとき、気付いたらパメラお姉ちゃんが遠くから僕を見守っている。そんな感じの日々が何ヶ月か続いた。
そんなある日、酔っ払ったパメラお姉ちゃんが、僕に剣の使い方を教えてくれた。
僕はナイフを握るのもやっとだったけど、パメラお姉ちゃんが構ってくれるのが嬉しくて、頑張って剣の扱い方を練習した。
そしたらパメラお姉ちゃんは筋が良いって褒めてくれて、僕はもっともっと頑張った。
その頃、かな?
エリシアお姉ちゃんがズルイ、私も教える! って言いだして、パメラお姉ちゃんに対抗するように、僕に治癒魔術を教えてくれたんだよね。
僕はやっぱり嬉しくて、治癒魔術の練習もたくさんした。そうしたらエリシアお姉ちゃんが上手上手って褒めてくれて、僕はもっともっと頑張った。
そうして二人が僕を構ってくれるようになると、システィナお姉ちゃんが仲間になりたそうにこっちを見ていることに気がついた。
だから僕は、システィナお姉ちゃんに魔術を教えて欲しいってお願いした。そしたらシスティナお姉ちゃんは凄く喜んで魔術を教えてくれるようになった。
僕が頑張って覚えると、私以上の天才だって、色々な秘術も教えてくれた。
その頃から、フィールは治癒魔術に育てる、いや黒魔術士じゃ、なにを言ってるの、双剣遣いに決まってるじゃない! みたいな感じでお姉ちゃん達が言い争いを始めた。
けど、僕が頑張ってみんな覚えるから喧嘩しないでってお願いしたら、時間を分けてみんなで教えてくれることになったんだ。
仲良くなったお姉ちゃん達はほかにも色々なことを教えてくれるようになった。
まずは自分達のことや一般的な常識について。
自分達が周囲から見るとすっごく規格外でほかの人達とは常識がずれていることを教えてくれて、一般的な常識についても教えてくれた。
その他にも、この国のことについてや、色々な生活習慣なんかも教えてくれた。
僕はちっとも知らなかったんだけど、十歳になった男の子は、女の子に毎日ご奉仕してもらわないと、魔力が暴走して獣になっちゃうんだって。
それで、パメラお姉ちゃんに助けてもらうようになったんだけど、最初は自分が変になっちゃいそうで怖かったのを覚えてる。
でも、怖かったのは最初だけで、すぐにそれが嫌じゃなくなった。
それどころかパメラお姉ちゃんがしてくれないと、なんだかモヤモヤするようになって、あぁ、これが魔力が暴走して獣になりかけてるんだなって分かるようになった。
でもある日、パメラお姉ちゃんが酔っ払って寝ちゃったんだ。
このままじゃ獣になっちゃうって、僕がエリシアお姉ちゃんに相談したら、パメラお姉ちゃんを叩き起こして大げんかを始めちゃった。
喧嘩しないでってお願いしても聞いてくれなくて、僕はこのままじゃ獣になっちゃうって泣きそうになって、心配して話しかけてくれたシスティナお姉ちゃんに相談した。
そしたら、その日はシスティナお姉ちゃんが面倒を見てくれたんだけど、翌朝になって添い寝してもらってたのを二人に見つかって、今度は三人での大げんかになった。
僕は泣きそうになって、喧嘩しないでって頑張ってお願いした。そしたらどうしてか、その日からは必ず、三人一緒でご奉仕をしてもらうことになった。
そんな平凡で、穏やかな日々が嫌いじゃなかった。
……嘘だ。
僕は優しいお姉ちゃん達に囲まれて過ごす日々が凄く凄く大好きだった。だから、ずっとこんな日が続けば良いのになって思ってた。
……でも、エリシアお姉ちゃんは、魔王を倒したときに瘴気を浴びて、それが原因でずっと身体が蝕まれてたんだ。
そして僕が成人――十四歳になったとき、側にエリシアお姉ちゃんの姿はなかった。
僕は人里に降りて冒険者になることにした。
エリシアお姉ちゃん達がいつか語って聞かせてくれた冒険が凄く楽しそうで、僕もお姉ちゃん達のようなS級冒険者になりたくなったから。
「だから、僕は冒険者になるよ」
「……うむ、分かっておった。いつかフィーがここを出て行く日が来るとな。だから、止めたりはせぬ。ただ、最後にもう一度、旅立つ前にわらわと快楽を――あいたっ」
パメラお姉ちゃんに頭を叩かれたシスティナお姉ちゃんが涙目になって頭を抱えている。凄い音がしたけど大丈夫かな? お姉ちゃん、刺しても死なないから大丈夫だよね。
「エリシアとの約束でしょ。諦めなさい」
パメラお姉ちゃんはため息をついて、それから僕に濡れた瞳を向ける。そうしてチロリと唇を舐めると、自分の下腹部に手のひらを添えた。
「フィール、よく聞きなさい。あなたがこれからどんな風に過ごそうと、あたし達はあなたの家族で、ここがあなたの帰るところよ。だから、いつでも返ってきなさいね」
「うん、ありがとう。ときどき帰ってくるよ。そのときは……僕が獣にならないように毎日助けてくれたお礼に、なにかお土産をもって帰るね」
そう言って笑うと、パメラお姉ちゃんはなぜか困った顔で視線を彷徨わせた。
「そ、その話、まだ信じてたのね」
「……ふえ?」
僕はこてりと首を傾けて、パメラお姉ちゃんをじぃっと見つめる。
「うぐっ。その、えっと……そう。いまのフィールなら、少しくらいはご奉仕がない日が続いても大丈夫なはずよ。だから、安心しなさい」
「わぁ、そうなんだ? うん。お姉ちゃん達と離れちゃうから、これからどうしようかなって思ってたんだけど、それならなんとかなりそう」
最近の僕は獣になりたくないからと言うより、お姉ちゃん達に優しくしてもらうのが嬉しかったんだけど……エリシアお姉ちゃんとの約束があるから我が儘を言っちゃダメだよね。
二人にしばらくの別れを告げた僕は、人里目指して旅立った。