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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第三章 ラロス系の擾乱
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 ラナンにはしばらくルディの相手をしてもらうことにして、イアインはゴンドラに乗った。最近のブリッジには、人が三十人ほど常にいる。というのも、船を操る航法チームや、武装をコントロールする火器管制チームが勉強や訓練をしているからだ。そして情報収集チームもブリッジとつながったCICに詰めている。ブリッジの中央には、七つのシートが扇形に配置された。そこにはリーダーとサブリーダーの席があり、何かがあると集まることになっていた。

 今回のアーイアの演説では集合はかからなかったが、サブリーダーの半分が席についていた。ブリッジに現れたイアインを見て、フロリナ・バロアが立ち上がり手招きする。真ん中のシートに誘導している。

 そこに落ち着くと、前方の巨大スクリーンに大群衆が映った。以前に首相から見せられた十一面体のデモよりは人数が少ないようだが、アポイサムの中心地にあるグラウンド・ゼロ――モニュメントの塔がある広場――には、数万人が詰め込まれていた。その中には、介護ロボットの上で寝たきりの人や、カートに座ったままの人もたくさん含まれている。

 モニュメントの下には仮設の演台があり、照明が煌々と輝いている。群集はザトキスの神官の旗を揺らし、時々鬨の声のような騒めきが響く。

 そんな珍しい光景に感嘆する声や溜息がブリッジからも聞こえた。仕事を中断して数十人が巨大スクリーンを眺めていた。

「すごいね。あなたのお母さんて。こんなに人を集めるんだもの」

 隣のフロリナが素直な感想を述べる。

「昔からあんな感じだったけど、今のほうが熱気がすごいかな」

「へぇ~」

「母親が信者に演説すると、みんな必死に聞いているの。その様子を不思議な感じで眺めていた記憶がある」

 スクリーンから一段と凄まじい騒めきが起こった。音響システムが優秀なのか、まるでその場にいるようだ。

 演壇に大きな旗が揚がった。それと同時にバックのモニュメントにも照明が入り、青い氷のような塔が出来上がった。群集が両手を上げて万歳している。まさに狂信的な集団だった。

 アーイア・ライントは、真っ白なワンピース姿だった。頭にもあっさりした白い花冠をつけている。ごてごてに飾りたてていないが、かえって神聖な雰囲気を醸していた。その姿は美しいといっていい。群集は目の前に女神が出現したと思い込んでいるのだろう。

 女教組は群集と同じように両手を上げた。さらに高まる騒めき。しかし、女神が手を降ろすと、騒々しさが瞬時におさまり、不思議な静けさがその場を支配した。

「みなさん。時は来ました」

 その一言で群集が再び沸いた。しかし、アーイアが右手を上げると静かになった。まるで群集は操られているようでもある。

「待ちに待った約束の時が来たのです! 私たちザトキスの神官が予言していた終末のときが! 私たちの信ずるところによれば、人類はすでに使命を終えています。超知能を生み出すという。その使命を果たした今、私たちは宇宙から祝福を受ける権利を得ました。実はその権利を得たのは今ではありません。超知能が生まれたとき、つまり数百年前にすでに手に入れていたのです。

 しかし、政府や世論はそれを認めませんでした。なんという愚かさ、なんという臆病者でしょう。

 このアポイサムに住む多くの人は私の、私たちの言葉を受け付けませんでした。何も考えず、何も行動せず、ただ、ベッドで寝ているだけです。赤子や老人のようにAIに介護され、衰弱し、快楽を感じるはずの脳でさえ退化し、人工的な幻想の中で、ただ、ただ、生きながらえています。

 そんなのは人間ではない! 私たちは彼らのようなゾンビとは違う! 私たちは人間に残された最後の誇りを持っている! 私たちは人間に許された最後の道を選択する! 私たちはその選択によって人間以上の存在へと昇華する! 

 この選択は絶対に間違っていない! それが最後の使命であり、自由であり、存在することそのものの尊厳であり、解放であり、神への接近であり、私たちが唯一手にすることができる希望である!」

 ほとんど叫ぶように一気にまくしたてた教祖さまは、さすがに息が切れたのか、少し間合いを取った。誰もが次の言葉、神とのメディエーターのお告げを静かに待っていた。

 群集が犇めく地上から七十キロ上空にいるオルソア号のブリッジでも、みんな聞き入っていた。

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