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緊急事態が起こるたびに駆けつけることが恒例になってしまったトリオが防衛局に入っていくと、スクリーンには超AIの姿が映っていた。それはレイスタニス号に乗っているヨアヒムだった。
ワームホールから噴出したガンマ線で小破したレイスタニス号は、ロボットたちによる修復作業をしながら、次に出現した白色矮星の後を追いかけていた。白色矮星に追いつくには、人間には耐えられない加速をする必要がある。最初から無人だったレイスタニス号は、慣性質量を制御した上での20Gという加速で、やっと白色矮星を視界に捉える距離にまで詰め寄っていた。
いまやラロス系に侵入した矮星は、恒星風を受けて長い尾を引いている。その尾の中に無数の敵艦が潜んでいると、レイスタニス号のヨアヒムが報告してきたのだ。いわば、絶対に破壊できない盾に隠れた合理的な侵攻だ。
この事実の発覚によって、ステルス機能で矮星をやり過ごすだけの計画では済まなくなった。ラロス系の総力をあげての迎撃が必要になったのだ。しかもできるだけ遠くで迎撃する必要がある。
メインスクリーンには可視光写真、紫外線写真など、波長の違う観測データが並んでいた。それらを合成すると、明らかにガスの中には不自然な個体群が存在している。
すでに数ヶ月は防衛局内で暮らしているバリー・セナジが合成写真を加工して、敵戦艦の姿を浮き彫りにした。そこには全長三キロ近い大型船が二隻、その周囲には多数の宇宙船らしき影が散らばっていた。
「総数はどれくらいだ?」
自分のデスクについたルビアに問いかけられると、バリーはすでにまとめてある分析結果を図示した。
「おそらく大型船二隻と二百あまりの船団が五つ以上はあります。つまり、敵船は千隻以上、といったところだと思います」
「十分に撃滅可能な数だな。よし、バリー、作戦を作れ、大至急だ。どのような迎撃が効率的かAIを使って計算しろ」
「わかりました」
命令を受けたバリーは、さっそく戦術用に分化させたAI機専用のコンソールへ向かった。
さきほどから防衛本部の様子をうかがっていたイーアライ首相は、ルビア・ファフ長官と、局長付きのヨアヒムの二人に防衛面での指揮をすべて任せようと考えていた。自分は内政に専念したい。でなければ身が持たない。首相は脳インプラントでルビアとヨアヒムに語りかけた。
《防衛局長とヨアヒム。私は防衛面から手を引きたい。老体には無理があるのだ。君たちでやって欲しい。責任は私がとる》
ルビア・ファフは振り返った。一瞬考えたが、肉声で「わかりました」とだけ答えた。すると、首相は満足そうな顔を見せて一回うなずき、防衛局を出て行った。
「スタッフのみんなはよく聞いてくれ。これから忙しくなる。戦術が形を成し次第、すぐに戦艦を想定迎撃空域に出航させるぞ。出られる船はいますぐに出してもいい。できるだけ遠くで撃滅する。わかったか? みんなで総力を尽くそう」
肉声と脳インプラントの両方でアナウンスすると、ほうぼうでスタッフが立ち上がった。それぞれが「はい」とか「了解」という返事を投げてくる。局長も満足して笑みを浮かべた。
「それから、希望者には出撃許可を与える。レイスタニス級戦艦は百隻以上ある。希望者を募ってくれ。艦長は私が指名する。これも大至急たのむ」
再び大勢からの返事が聞こえてきた。ルビア・ファフは今度こそ自分も出撃することに決めていた。




