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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第三章 ラロス系の擾乱
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 そのころ、十一面体の内部でもエルソア号のように上空へ避難したほうがいいのではないかと囁かれていた。デモ隊がどこからか入手した携帯型の迫撃弾を打ち込んできたからだ。しかし十一面体はそんな小火器の威力では傷一つつかない。核融合弾でさえ、さすがに近くで炸裂すれば揺り動かされて移動するが、おそらく内部の生物に実害は及ばない。原始的な武器を持ったデモ隊が周囲に犇めいていたとしても、この黒々とした威容を誇る建造物の内部では、そんな下界のことを忘れて優雅にお茶を飲むこともできた。

 とはいっても、政府の関係者や職員たちは地上の交通路が遮断されてしまったため、屋上からシャトルで出入りするしかなかった。すこぶる不便である。いっそのこと、カイアラ大陸の南に位置する孤島に移動したほうがいいという意見も出た。

 ちなみに、こんな状況の原因を作ったアーイア・ライントは、かつては十一面体の内部をフリーパスに近い状態で歩き回れたのに、今は保健局のガラスの檻の中で壁に背をもたれてひざを抱えていた。

「アーイア。頼むから本当のことを教えてほしい」

 ぶ厚い気密性のガラス越しに声をかけたのは、かつて同じ場所で同じ目に遭った元ライル・ニアームだった。その両隣には首相とヨアヒムも立っていた。

「考えてみれば立場逆転ね。ライル。あのときはあなたがここにいた。外にいたのは私」

「だから……。私は恩人であるあなたを助けたい。ここから出したい。それにはヨアヒムと何を約束したか言ってもらうしかないんです」

「言うわけないでしょ」

 アーイアは顔をそむけたままだった。

「では、最悪なことをしなければなりません。記憶のサルベージです。あれは非人道的なので禁止されていますが」

 その言葉を聞いて一番動揺したのは首相だった。ヨアヒムは相変わらず背筋をピンと伸ばして微動だにしない。

《ルビア。本当にやるのか?》脳のインプラントから首相のメッセージが流れてきたので《脅しているだけです》と答えた。

 アーイアがおもむろに立ち上がり、三人のほうへ近づいてきた。すでに数日監禁されているのに、その顔には余裕があった。いつもと変わらない豊かな表情が残っている。

「やればいいじゃない。でもその前に私は自決する。とっくに私は覚悟を決めている。その証拠に、私の頭の中を透過撮影してごらんなさい。そこにある装置で」

 ヨアヒムが動いた。ロボットアームを操作して、気密室内のデバイスをアーイアに近づける。すると、テーブルの上にあるディスプレイに、女の頭蓋骨がうっすらと映った。そして二人の人間が固まった。首相は「なるほど」とため息を漏らす。

 そこにはミュー粒子線を強く反射する、はっきりと白く輝く小さなインプラントが認められた。

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