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「イアイン・ライントだ!」
「おーい! 俺たちを助けてくれ!」
「お願いよ。私たちも一緒に連れて行って」
十メートルほど離れた声ははっきりと聞こえる。騒ぎは大きくなり、人々は彼女の方に押し寄せようとした。が、ロボットたちの作るサークルに押し戻される。
「何するんだ!」と男が叫ぶがロボットは垣根を作って制止する。
それを見ていたイアインに、人間の警備員が近づいて「この人たちは準光速船に乗ると言っています。政府に照会しましたが、彼らのIDにはそのような許可はありません。なので、止めています」
「そうなの。何かと思った」
事情を理解したイアインは、移住集団のリーダーとして何か言う必要があると思った。ロボットたちの隙間からうかがっている人たちのほうへ近づいた。
「みなさん、ご希望はわかりました。準光速船には定員の余裕がたくさんありますから、焦らないでください。ただ、騒いだり事故が起こったりするとご希望に沿えなくなるかもしれません。落ち着いて待っていてください」
そう言うと人々からは歓声が上がった。彼女は横倒しになっていたカートを警備員と一緒に立て直して、準光速船に向かった。
ブリーフィングルームに入ると、六人のサブリーダーがテーブルについていた。リーダーが入ってくると、フロリナ・バロアが駆け寄ってきた。
「大丈夫なの? 何かあったんでしょ。疲れているようだけど」
全員の視線を浴びながら、イアインは笑顔を作ってみせた。
「うん。なんでもない。それよりも白色矮星のことで何か会議しているんでしょう」
「そう。あの発表があってから、参加希望者が集まってきているの。その対応について」
「さっき、私も居住棟の前で見ました」
イアインが席につくと、フロリナが参加者の希望に沿うという方向で会議が続いていたことを話してくれた。最初にクリアした問題は、その受け入れ方法だった。自分たちは首相やヨアヒムが自動的にやってくれたが、新しく集まった人たちはどうすればいいのか。やはり政府に相談する必要があるが、それどころではないことは容易に想像できる。したがって自分たちでやることにした。
技術的には簡単だった。希望者のIDをブレスレットとペンダントに移すだけ。その手続きをオルシア・ルノンが主体となって行うことがすでに決定していた。ただ、移住希望の受付をいつまで行うかが決まらなかった。
アポイサム出身のくせに珍しくもサブリーダーに選ばれたフェリデ・ガータンという青年が、シャトル内でラナンが言ったとおり、早く出発すべきだと主張していた。
それに対して、同じくアポイサム出身の女子、オーミ・サハルは希望者をより多く収容するためにぎりぎりまで出発は待つべきだという。
イアインの部屋に来たことのあるオルシア・ルノンとマストリフ・ネスラは頬杖をついて考えていた。しかし、こればっかりは考えてもわからない。今後レザム星がどんな状況になるのか予測できない以上、当然だった。それに、政府も移住・脱出希望者には船を用意すると発表している。脱出希望者がわざわざこんな辺鄙なファーミン空港まで来る必要はない。
「でも、実際に大勢来ているわけだし」
と発言したのはフロリナ・バロアだった。
「白色矮星はラロス並の重力を持っているから、この先、どんな恒星系規模の異変が起こるかわからない。だから、この船独自の情報収集チームの編制を提案したい」
そう発言したのはマストリフだった。彼によると、準光速船のCIC(情報集約室)と十一面体の情報網をリンクさせて独自にラロス系を観測する必要があるという。これは宇宙へ出たときの訓練にもなる。航行中は自分たちの力で危機管理をしなければならない。頼りになる十一面体は存在しないのだから。
その意見にみんな頷いている。




