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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第三章 ラロス系の擾乱
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 ファーミン空港の居住棟の部屋で目が覚めたイアインは、自分がソファで寝ていて、しかも服装もそのままだったことに気がついた。朝のような気がするが、遮光装置が窓を閉じていて正確な時間はわからない。しかし、体を起こすと照明がついた。

 壁のディスプレイが初期画面を表示すると、まだ午前中であることがわかった。そろそろ定例会議が始まる時間だ。メッセージの着信を告げるアイコンが点滅している。

「メッセージ一覧表示」

 出にくい声を出した。すると、着信が五件あり、そのうち二番目は首相からだった。

「二番目を読み上げ」

 AIの中性的な声がゆっくりと聞こえてくると、イアインは喉が渇いていることに気がついた。いつもだったら小型AIが用意してくれる。しかたなくキッチンに向かった。声が追いかけてくるので、聞こえなくなることはない。

《昨日はご苦労だった。君の母親は一応逮捕した。事情聴取に応じない。黙秘している。ただ、AIの破壊は認めた。それに武器の所持。その事実によって拘禁されている。何も話してくれないので困っている。

 それからヨアヒムには記憶がない。とても信じられないことだ。できれば君に何があったのか聞きたい。返信を待っている。疲れが回復してからでかまわない。よろしくお願いする》

 ボトルに直接口をつけて、少しだけハーブを利かせた水を飲んだ。全身が重く、ボーッとしている。しかし頭が回らなくても考える必要があるようだ。

 要するに、母親はヨアヒムを脅迫していた。自分の娘の命を取引材料にして。だが、あれはヨアヒムではなかった。母親はスピルク・ライントと呼んだ。

 その前の会話もあったことをイアインは思い出した。アセンションした? スピルク・ライントが? 

 そう。アセンションした人間と話したことがある。ナゲホ・ミザムと一緒に。独立自然主義者同盟の人間たちだ。

 ということは、ヨアヒムの中にスピルク・ライントが憑依しているのか。

 そのスピルク・ライントに母親は何かを強要していた。それに、人類復興計画とは何だろう。元々母親が実行することになっていたようだが。私の使命とはそれなのか。ずっと昔に母親は私には使命があると言っていた。昨日の衝撃的な場面から得られたものは、だいたいそんな内容だった。しかし、最後にスピルク・ライントがしぶしぶ承諾していたことは何だったのだろう。さっぱりわからない。ただ、最後に母親が言っていた「人類にはまだ希望が残っているのよ」という言葉は、なぜか信用できるような気がする。あの母親自身が人類の最後の希望といわれていたのだから。

 イアインはソファに戻って頭を抱えた。会議に出なければならない。今日は緊急時の情報伝達経路や方法、船内での集合場所や行動基準、人員の健在確認法や指揮系統の序列を決める予定だった。それに、あの子はどうしただろうか。昨日、腕の中ですやすやと寝てしまったルディ。あの子はもう起きて……。また残酷なシミュレーションをあのリビングで始めているのだろうか。

 切断されてバラバラになっていた感情や記憶が整ってきた。とりあえず自分はこうして無事に生きている。昨日の件は首相たちがなんとかしてくれるはずだ。私は私の使命を果たす。母親に言われた言葉はもっともだった。

 シャワーを浴びて服装を整えたあと、大ざっぱではあったが昨日のことを文字ファイルにして首相に送信した。

 居住棟の一階までゴンドラで降りると、エントランスの前には人だかりができていた。ざっと百人程度の大人から子供まで、座ったり立って話をしたりしているが、ほとんどが、大きな荷物を抱えたり背負ったり、小型AIに持たせている。そして、その周囲を警備ロボットが十体以上取り囲んで、移動できないようにしていた。人間の警備員もいる。

 こんな辺鄙な場所にこれだけの人が集まっていることを怪訝に思いながらも、自分とは関係ないことだろうと、イアインはいつもエントランス近くに放置されているカートを探した。それに乗れば、まだ会議に間に合うはずだった。ところが、彼女の姿を見つけた数人が騒ぎ出した。

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