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そこへケオマ・ロカイがまた割り込んできた。
「話がずれてしまいました。重要なことはどうするかです。対策です」
「さきほど、ヨアヒムは大丈夫と言っていたのだが。具体的にもっと説明して欲しい」
このルビアの発言で、全員の視線が背筋をピンと伸ばして座っている超ＡＩに集まった。
「ケオマ・ロカイ評議員の発言にあったように、爆破も軌道変更も不可能です。したがって、ステルス機能を使います」
意外だったので、全員が驚きの声を出す。
「しかし、ステルスモードは準光速船専用だろう。あの機械がカバーする範囲は小さかったと思うのだが」とルミノアが疑問をぶつけた。隣のルビアが「バカめ」とでも言いたげな顔をしている。
「その点については首相にお願いします」
ヨアヒムが手を上に向けて指し示すと、首相は「うむ」といって喋り始めた。
「我々のアポイサムの地下には大型の確率波形変換装置がセットされている。これは、防衛網を突破した敵に包囲されたときを想定していたものだが、これで惑星全体をステルス化――二次元化することが可能だ」
場に感嘆の声が湧いて中断したが、首相が続ける。解決すべき問題はまだ多い。
「白色矮星がラロス系を通過する影響だが、恒星ほどもある巨大な質量が系内を通過するわけだから、各惑星の軌道が変わる可能性がある。場合によっては系外にはじき出される惑星もあるかもしれない。その詳細についてはシミュレーション中でまだ発表できないが、惑星の軌道を修復することは可能だ。慣性質量を軽くして推進装置を設置する。地道なその方法で元通りになるはずだ。時間はかかるが」
一同が感心してうなずいている。だが、ルビア防衛局長が第三番目の重要問題を指摘した。
「これをいつ発表しましょう。まだ一般市民は白色矮星のことを知りません。いつ知らせるのが一番安全でしょうか。混乱が起こらないタイミングということですが」
「そうだな。できればしばらく隠しておきたいとは思う。なぜなら白色矮星回避プログラムを完全なものにするにはもう少し時間がかかるからだ。プログラムにはわが十一面体の総力をあげて取り組むつもりだ。
しかし、白色矮星の出現は、もうすでに気づいている市民がいるかもしれない。昨日はなかったマイナス等級の星が突然北の空に出現すれば、気がつかないわけがない。さらにサクゲナ市ににはアマチュア天文家が多い。瞬く間にそのニュースは広がるだろう。我々も白を切ることはできない。
だから、これは私が表に出てただちに発表する。白色矮星回避プログラムの概念図を作成し、それも併せて発表する。完璧なプログラムであることを強調したい。
わが惑星の安寧を保つにはそれしかないが、今度こそ大きな騒ぎになるだろう。各セクションで対策を考えてほしい。
なお、今後は評議員の要請によって随時第一級会議の開催ができることにしたい。諸君には苦労をかけるが、どうかこの事態を乗り切るために頑張ってほしい。以上だ」
首相の発言には誰も異議を唱えなかった。その後は、アポイサムの地下にある例の装置の詳細データが発表されたりして、しばらく会議が続いた。
イーアライ・クールグ首相が自ら出演した緊急ニュースによって、白色矮星出現の事実がレザム星を駆け巡ると、予想通りの大騒ぎになった。今度は十一面体の周囲にデモ隊は押し寄せなかったが、いままでは三百人ちょっとしかいなかった移住希望者が、一気に五万人にまで膨れた。政府はその対応に追われることになったが、まだ時間には十分な余裕があった。しかもレザム星周辺に浮遊している準光速船は百隻以上あったから政府も市民もまったく焦る必要はなかった。
