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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第三章 ラロス系の擾乱
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 船の中に入ると、右手首にはめているブレスレットがポーンと鳴り、どこからともなく音声が響いた。

「エルソア号へようこそ。イアイン・ライント。ゴンドラで目的の場所までご案内します」

 この船をしきっているAIだった。ラナンと同じく人格がある。イアインは「ありがとう、エルソア」と礼をいった。

 ゴンドラが居住エリアに向かって動き出した。居住エリアは長さ千二百メートル、幅百メートルもあり、三千もの区画に分かれている。したがって位置を表わす番地も三千個あり、ナビ機能を果たすブレスレットがなかったら、脚力に自信があっても目的地にたどりつくには苦労しそうだ。

 ブレスレットから浮遊するホログラムには、コフィたちの暮らす部屋の位置がマーキングされている。そこには2203という番号が浮かんでいた。近くのゴンドラ出入口で降りたイアインは、三分ほど歩いてチャイムを鳴らした。

 ドアが横に開くと、コフィが「こんにちは」といったあとすぐに背を見せて奥へ入っていく。いつものことなので、イアインもそのまま続いた。

 気になっている子はリビングルームにいるようだ。この宇宙船が用意する部屋は、居住棟の部屋と雰囲気は変わらない。明るいクリーム色で統一されている。ただ、床や天井、壁といった部屋を仕切る基本的な構造は、航行中の不意の急加速を考慮し、手で押しただけで凹むほど柔らかい素材が使われていた。

 そういった素材を使えば、部屋の構造は自由に変えられるという利点もある。もし長旅で部屋に飽きたら、AIに指示すれば作業ロボットたちが模様替えしてくれる。まだイアインは引っ越していないが、広い部屋が好きではなかったので、小さな部屋をたくさん作ろうと思っていた。

 リビングの黄色い床にはルディが座り、小さな背中を見せていた。いつものようにうつむいているのは同じだが、今日は立体パズルで遊んでいる。しかし、すぐ近くには例のホログラム投射機やタブレットが投げ出されていた。もしかすると、イアインが来ると聞いてやめたのかもしれない。気を使っているのか。それとも訪問されるのが嫌でその原因を見せないようにしているのか。いずれにしても、自分のやっていることが他人にどのような印象を与えるのか理解している。だが、問題はそんなことではない。

 イアインはルディの傍らに座った。

「こんにちは。ルディ」

 少女はうなずいた。手にした素材の形を眺める横顔にはいつものように表情がない。それに立体パズルはあまり面白くないようだ。

「何作っているの?」

 少女に変化はなかったが、しばらくすると「お人形」とポツリと漏らした。明らかに人形を作る気もないし、作り方もわからないようだ。

「今日は、お姉さんとたくさんお話しない? こっちおいでよ」

 イアインは少女の左手をとって立ち上がった。それにつられてルディも立つと、身長は彼女の腰くらいしかなかった。金髪がパラリと背中に落ちると、小さい顔が見上げていた。「何をするの?」みなたいな目つきで。

 ソファまで引っ張っていき、イアインは少女を抱きかかえるようにして座った。別に嫌がる素振りはなかったが、こじんまりとした体が硬くなった。両手をひざの上において、じっとしている。イアインの顎のあたりにルディの後頭部が当たると、頭が前に倒れて離れた。それを追いかけて、顎の下にルディの頭を導き、後ろから上半身全体を抱きしめた。すると、腕の中のこじんまりした体が少し震えた。二つの体の間で温もりが育っていく。

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