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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第三章 ラロス系の擾乱
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 イアインがそういうと、ラナンはしぼみ始めた。その様子を見てロロアがまた笑う。

「冗談はこれくらいにしたほうがいいんじゃない? やっぱりご主人さまと一緒にいたいみたいだから」

「そうだね」

 かつて誘拐犯と被害者だった二人の再会はこんな感じだった。プルプルと体を震わせている小型AIを横目にしばらく世間話をしたあと、二人はサブリーダーたちに挨拶に行った。それが終わると、ロロア・ライーズは準光速船にすでに確保されている自室へ向かった。

 イアインにはまだやることが残っていた。気になるルディの様子を見に行くこと。ここ数日、あの七歳の女の子のことで頭が一杯だったし、時間があれば接触していた。とはいっても、なんとか通じそうな言葉を考えて発しても無駄に終わることが多かったが。

 最近は、年長者のコフィ・モイサンのいうことを聞いて、他のシミュレーションに没頭しているという。自分で拵えた生物たちが進化する過程で、自然に発生する言語体系をいくつも作って遊んでいるらしい。

 以前の殺戮ゲームより格段にマシだが、そもそもシミュレーションに没頭して他の子たちとコミュニケーションができない、あるいはしないという姿勢は、これから準光速船の閉鎖系で生きるためには多少の支障が生じるかもしれない。その一方で、あの大きさを誇る船の中では、何十年も誰とも顔を合わせないで生活することも可能だ。そう考えると、イアインはルディにどのように接していいのかわからなくなってきた。少なくとも、リーダーとしては彼女と会話ができる程度の関係にはなっていたいと思った。

 すでにルディは準光速船のほうに引っ越していた。そこへ向かうために居住棟から出たとき、日差しがまぶしくてイアインは手を眉間にかざした。すぐ目の前には巨大な船が二つ見える。その姿に圧倒されてすぐ近くにあるような錯覚を与えるが、エルソア号まで歩いていくと船底にある入口まで二十分以上かかった。

 なので、準光速船と居住棟の往復には小型のカートがよく使われている。台車の上に手すりがつき、前進・後進レバーとハンドルがついた簡素なものだった。

 イアインが居住棟の出口を見回すと、幸いなことに一台のカートが乗り捨てられていた。それで準光速船のほうへ移動すると、数人乗りのカートとすれ違った。まだ顔や名前を憶えていない年下のメンバーたちが「こんにちはリーダー」とあいさつをしてくるので「楽しそうね」と手を振って返事をする。

 確かに楽しそうだった。明るい顔をした子供もいる一方で、ルディのような子もいる。イアインはコフィの気苦労を思いやった。

 船の真下に到着すると、もう全体が見えない。青白い金属のかすかな湾曲面がずっと向こうまで続いている。そこの一部に口が開き、地上からかけられた手作りらしき階段が唯一の出入り口だった。急ごしらえで追加された無数の支柱が船底を支えている。ラロス文明の粋を集めた準光速船も重力の支配する地上ではずいぶんと居心地が悪そうだった。 

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