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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第三章 ラロス系の擾乱
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 ファーミン空港の敷地には、大人の移住希望者四十人あまりのグループが使うもう一隻の準光速船が加わり、一辺が二・五キロもある巨大なトライアングルができていた。イアインを団長とする少年グループの乗る船はエルソア号。随行する物資運搬船はオルソア号。大人たちの船はメイザー号と命名された。まだ準光速船たちの改造は完了していないらしく、トライアングルの周りはロボットたちがアリの大群のように行き来していた。

 すでに三ヵ月以上にわたり改造工事が続いている点に参加者たちは訝っていた。動力源とか武装とか、根本的な変更がないかぎり、こんなに時間がかかるとは思えなかったからだ。しかし、政府から派遣されている工事の責任者によると、あと一カ月で完了するということだったから、いよいよ出発する時期が見えてきた。毎日のように開かれている移住グループのリーダー会議は、そんな現状報告が行われた。そして、一カ月以内に、参加者全員が居住棟から準光速船内に引っ越すことが決定した。

 といっても、すでに二百人以上が準光速船内で生活していたから、居住棟に残っているのは、地上とのやりとりが多いイアインと六人のサブリーダーを含む五十人程度だった。

 定例会議が終わって居住棟に戻ったイアインは、ラナンに命じてお茶の用意をさせた。いつものお茶とは趣向を変えて、ナチュラリストが好むハーブティーを用意させた。

 というのも、会議が終了すると同時に心待ちにしていた来客の予定があったからだ。

 ソファの前の小さなテーブルには、ティーカップが二つ用意され、執事のように小型AIが脇に立ち、熱湯を入れたポットやナプキンを載せたトレイを持っている。余計なことを一切言わず、直立不動の状態でラナンはさっきからずっと立ち続けている。最近の小型AIは非常におとなしい。

「いったいどうしたのかしらね。そのお行儀よさは。とても気持ち悪いのだけれど」

 着替えを済ませたイアインが寝室から出てきて声をかけた。

「いえ、何か勘違いしているようですが、そもそも私はこのようにお行儀良いロボットなのです」

「あなたこそ勘違いしていない? みんなラナンのことはお茶目な子だと思って、欲しいって言っている人多いよ」

「あれは言い過ぎでした。反省している次第です」

「あれって何? あれだったら別に気にしなくてもいいのに」

「でもご主人さまはあのとき確かにお怒りでしたから」

「そう? 別に怒っていないけれど。まあ好きにしてくれていいよ」

「また放置ですか」

 イアインはクスクスと笑った。いつまでこの自主的な行儀良さが続くか見ものだ。

 来客を知らせるチャイムが鳴った。イアインは立ち上がって玄関のドアを開けた。そこにはすっかり健康を取り戻したロロア・ライーズが立っていた。ふつうの服装をしている。以前のように車いすに乗っていないし、特殊なコルセットをつけてもいない。

「お久しぶりです。イアイン」

 ロロアの顔がほころんだ。

「よくいらっしゃいました。どうぞ」

 部屋の主に促されて来客がリビングに入ってきたときも、ラナンは直立不動だった。その姿を見てロロアもちょっとだけ立ち止まる。

「この子はあの小型AIでしょ?」

「そう。ちょっと変になっているけど、あのときと同じラナン。とりあえず座って」

 ロロアがソファに座ると小型AIは動き出した。客の前のティーカップにポットからお茶を注ぐ。

「ありがとう。いい香りだね」

「このお茶はサクゲナ市長のマクモ・ゾーラ氏ご推薦の銘柄です。ご主人さまのご命令でご用意させていただきました」

「気を使ってくれたのね。ありがとう」

 ロロアはさっそくカップを手に取って口に近づけた。

「確かに美味しいね。初めてかもしれない」

 ラナンは自分の仕事がうまくいって満足したらしく、キッチンのほうへ下がった。

「ところで、体のほうはもういいの?」

 対面のイアインに訊かれて、ロロアは右手で少しだけ胸のあたりの服をはだけて見せた。

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