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「ヨアヒム。このガンマ線の噴出は予測していたのか?」
「いえ、正直に言って予測していませんでした。ワームホールのデータが少なかったので」
超AIは手や指を猛烈に動かしながら顔だけをルビアのほうへ向けた。
「ガンマ線がもし、レザム星を直撃するコースだったらどうするつもりだった? 何か回避策はあったのか?」
「ワームホールを使った攻撃のあらゆる可能性に対応するために、策は講じてあります」
「それは?」
問われた超AIは「少し待ってください」と言う。誰かと会話を始めたようだ。それでも手と指は相変わらず動いていた。
「首相の了解が取れました。何しろ機密事項なので」
「ほう?」
「アポイサムの中心地にモニュメントがあります。そこの地下に大型の確率波形変換装置がセットされています」
「ふむ」
「もし避けられないエネルギー線などがレザム星に向かってきたとき、惑星全体をステルスモードにすることができます」
ルビアは言葉に詰まった。そして想像した。この惑星全体が暗黒の空間に包まれ、その中を高エネルギー線の光束が通過していくさまを。そんなことまで考えているとは。
「驚いたな。だからガンマ線バーストが現れたとき、冷静だったのだな」
超AIは口元を歪めてニコリとする。
「そもそも私はいつでも冷静です」
ルビアはふと思った。これほどあらゆる事態を想定して事前に対策を講じている超AIは、放っておいたら人類が自然消滅する現実にも何か対策を用意しているのだろうか。




