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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第三章 ラロス系の擾乱
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「何事だ? 再びワームホールを開いて反撃するつもりなのか」

 二人の人間は、またシートについて、戦況を見つめた。

「レイスタニス号に停船を命じて観測させています。ワームホールの発生した場所に何らかの物理的現象が起こっているようです」

「ヨアヒム、迎撃用意だ!」

「了解」

「ミサイルの残存は?」

「およそ三十%」

「今度はワームホールの向こうを攻撃するのではなく、侵入した敵艦を攻撃する。ミサイルの設定変更をしてほしい」

「モードの変更をするだけです」

 バリーも映像をかじりつくように観察した。するとさきほどのワームホール形成とは明らかに違っている。光の渦ができずに、ワームホールのあった部分が全面的に青白く光り始めたのだ。まるで円盤のように。

「レイスタニス号を横方向へ退避させます」

 ヨアヒムが冷徹な声で報告した瞬間、ものすごい光が円盤から噴出した。閉じかけていたワームホールを強制的に開いてしまう高エネルギー粒子線の奔流だった。映像は再びホワイトアウトした。

「ガンマ線です。直径八百八十メートルのコヒーレントなガンマ線。これは!」

 バリーが解析グラフの数値を見て叫んだ。

「バリー。この現象は何だ」

「超新星爆発のガンマ線バーストと同じです。要するに、ワームホールの向こうで相転移爆弾が爆発したのです。そのエネルギーが入口から侵入してこちらに到達したのでしょう」

「なんだと? そんなことがありうるのか」

 ヨアヒムもうなずいている。ということは正しい分析結果だ。しかし、ガンマ線バーストがラロス系内に向かっているとしたら、ただ事ではすまない。

「ガンマ線のコースは? 速度は?」

「コース近くにはちょうどエヌテン星がありますが、影響は軽微と予想。その後は恒星ラロスを直撃します。しかし、吸収されるだけでこちらにも何の影響もないでしょう。速度は光速の七十~八十%です。いま計算しています。計算しました。惑星レザムはラロスの裏側にいて影響を受けません」

 防衛局長官は冷静になることを心がけた。すると、エヌテンには今のところ誰もいないはずであることを思い出した。

「ヨアヒム。ガンマ線のコースを正確に計算して、被害を推定してくれ。影響を受ける可能性のある場所にいる人間にすぐ退避命令を出せ」

「了解しました。レティピュール星に駐在する人間が数名います。コースから離れているため影響はないはずですが、一応アラートは出しました。系内の船舶の飛行コースを照会中です。ガンマ線の経路を警告します。そしてこの事態は首相に連絡済みです」

「わかった。ありがとう」

 ふう~と深いため息をついて、ルビアはシートに座った。攻撃は成功したらしい。その小型の超新星爆発はワームホールの入口周辺の敵を蹴散らしただろう。しかしトンネルのこちら側までガンマ線が噴出してくることは予想していなかった。被害は少ないようだし、一応、今回の攻撃は成功したといっていいだろう。

「長官。補足ですが、敵艦を追っていた二十五席の戦闘艦がガンマ線に飲み込まれました。おそらく敵艦も同様です。残っているのはガンマ線のコースから外れたレイスタニス号だけです。そのレイスタニス号もダメージを受けたようです」

「そうか。こちらもかなり損害を被ったわけだな」

 ルビア長官はバリーの報告を聞いて冷や汗がでてきた。もし首相たちに止められていなかったら。オペレーション開始前は、自ら出撃するつもりだったのだ。

 気がつくと、目の前のホログラムには、ラロス系全体が浮かび、ガンマ線のコースが赤く示されていた。破壊的なエネルギーの矢がこちらに向かってくる。だが、直径わずか八百八十メートルしかないことが幸いした。もしワームホールが全壊していたら、ラロス系はガンマ線やプラズマの大津波に襲われていたはずだった。

 すっかり冷えたティーカップをとって、ルビアは興奮と緊張で渇いた喉を潤した。横ではまだヨアヒムが仮想ディスプレイをものすごいスピードで操作している。収集したワームホールのデータをいじっているようだ。

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