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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第三章 ラロス系の擾乱
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 レザム星の近くにいるらしきナゲホ・ミザム議長からのメッセージはいたるところで炸裂した後、その場で転送可能なアドレスへ次々と流れて行った。毛細血管に血液が行き渡るように。サクゲナ市だけではなく、多数のアポイサム市民の目の前でもホログラムが展開され、ラロス系が戦争状態であることを宣言した。

 その破壊力は半日でレザム星の全域を席巻し、十一面体の深奥に陣取っている評議会も対策のとりようがなかった。なんらかの騒動や暴動が起こる可能性もあったため、とりあえず総責任者のイーアライ・クールグ首相が、ホログラム議長の述べる内容が概ね事実であることを認める緊急声明を発表した。

 事態が複雑だったため、世論は数日間にわたって混沌としていた。敵の存在やその防衛戦争が百年も行われていたことに対する驚愕。それを隠していたヨアヒムのウソや、ウソつきに頼ってしか存在できない自分たちの無力。ヨアヒムの背信行為は罰せられるべきだが、その背信行為によって平和な夢にうつつを抜かしていられたこと。そんな事実や情報や思念や後悔がごちゃまぜになった渦巻きは、いつまでも治まらなかった。

 なんらかの事件や社会的な節目には平均的な世論が調査される。それは単純な選択式の設問ではなく、約五十万人ぶんの肉声や文字による回答をすべてAIが分析し平均化したもので、文化局統計情報課が実施する。現在生存している約五十万人の意見を総合すると次のような結果が出た。相容れない三つの意見だ。

「ヨアヒムの犯した罪は必要不可避だった。罰は必要なし。それどころかよくやってくれている。罰を受けるとしたら、今後も人類の保護の遂行を義務化するべき。それと同時に戦力向上目的のテクノロジー開発を無制限に許可する」

「人類への背信行為の責任をとってヨアヒムはレベル5から4へ降格するべき。ラロス系防衛に特化したAIに改変する。また、人類が積極的に敵との戦いにコミットする。同時に他の星系への避難を開始すべし」

「アルビルの目的はヨアヒムの殲滅だから、ヨアヒムを系外に追放するべき。そして人類は超AIの開発を禁止し、ささやかで地味な生存を図る」

 前者がアポイサム側で、二番目がサクゲナ側の平均的意見であることは明白だった。最後の意見は少数で、これはナチュラリストの過激派のものと推測される。要するにヨアヒムに対する処遇で三つのパターンに分かれていた。多数決をとれば前者に決定されることは明らかだったので、評議会では特別に超AIへの賞罰は決定しなかったし、できるわけがなかった。

 つまり、ナゲホ・ミザム議長の大暴露が数日にわたって惑星全体を戦慄させても、基本的な政治機構や統治機構といった表層部分に変化はなかった。

 しかし、人間たちの意識は変わりつつあった。レザム星の平和な日々が幻想にすぎないことがわかると、不安にかられて逃げ出したくなる人が増えた。だが、どこへ逃げればいいのか。冷静になってみると、今までのようにV・Rへの逃避を続けていられないことはすぐにわかる。現実的な逃げ場を探さなければならない。ラロス系外に脱出できないとすると、誰でも思いつくのがアセンションだった。ミザム議長が目撃したアセンションについて、多くの人間たちが知るところとなった。その結果、かねてからアセンションを主張してきた宗教団体、ザトキスの神官に入会希望者が殺到した。

 それまで千人もいなかった信者は、数日で十万人にまで膨れ上がった。AIが受け付け業務を行っていたから、ザトキスの神官内部で混乱することはなかったが、アーイア・ライントのコンドミニアムを擁するビルに入会希望者が殺到し、その周辺は介護カートに乗った人で溢れかえった。教祖さまが姿を見せると歓声が湧いて大混乱に陥った。

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