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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第二章 超AIの罪と罰
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 ラナンからの攻撃可能な信号を受信したレイスタニス号は、周囲に散開させていた戦闘艦にレーザー攻撃の命令を出した。ウニのようにトゲトゲした球形の戦闘艦がステルスモードから覚醒し、ガザリア号を取り巻くように出現した。ほぼ同時に数本のレーザーが射出された。その光芒は見えないが、ガザリア号の船体に当たった時に成果がわかるはずだった。前方に向かって次第にすぼまっていく船体が、途中で切断される。しかし、いつまでたっても成果は見られなかった。そして、驚くべきことにガザリア号の姿も消えていた。

「おかしいぞ。確認しろ。ヨアヒム、どうなっている」

「目標が観測できません。考えられるのはステルスモードです」

「なんだと?」

「ザマラが量子暗号を解読したのです。レベル5AIでも解読に数千万年かかるはずです。それを解読できた理由は……。偶然……。そう、偶然しかありません。信じられない確率をザマラや独立自然主義者同盟は引き当てたことになります。運がいい」

「運がいい……。ということは我々の運が悪いということだ。どうしたらいいのだ」

「索敵ドローンを千個ばら撒きましょう。ドローンとは常にリンクを維持しておけば、リンクが切れた場所に目標はいるはずです。それしか手がありません」

「すぐにやってくれ。しかし、居場所がわかっても攻撃しようがないのではないか……」

「それはその通りです。ミサイルもレーザーも素通りします」

「では、再び目標の確率波形変換装置を支配下に置けないか?」

「不可能です。確率波形変換装置と通信は可能ですが、ザマラが設定した量子暗号を解読するのに数千万年必要です。彼らのように幸運が舞い込めば話は別ですが」

「装置と通信はできるのだな? では距離や方向はつかめるのか?」

「それはできません。電磁波と違ってメッセージが届くのには時間がかかりません。そのため距離はつかめません。したがって方向もわかりません」

「くそっ!」

 ルビアは険しい顔で毒づいた。握りこぶしでシートの背もたれを叩く。

「百九十人を取り戻すことには成功したが、その代償としてイアイン・ライントが再び誘拐され、さらにレベル5AIも逃すことになるのか」

 怒りがこみあげてきて、抑えきれなくなったが、ルビアはなんとか冷静さを保つために、やるべきことを探した。

「警備ロボットを積んでいる船をレジャーステーションに向かわせてくれ。ステーションの捜索を行う。彼らの向かいそうな場所のヒントを重点的に探してほしい」

「わかりました」

 事態の打開策はなさそうだった。百九十人と面会しているゾーラ市長にお伺いを立ててみるべきか。それとも、百九十人を訊問して逃走先を聞き出すか……。しかしガザリア号を追ってラロス系外に出ることはできない。そこにはレザム星ではまだ三人しか知らない敵が待ち受けている。

 それは逃走中のガザリア号とて同じことだ。彼らがステルスモードを解除しなければ安全は確保される。だが、ステルスモード中は外部の情報が得られないし、盲目的な飛行を好んで行うとは思えない。したがって、モードを通常に戻せば、敵からの攻撃に遭遇する可能性が高くなる。危険を察知して、すぐにステルスモードを再開してくれればいいのだが……。

 ルビアは心配していた。独立自然主義者同盟の八人のことではなく、イアイン・ライントのことだった。彼女は自分を救ってくれたアーイア・ライントの娘であり、そもそも人類にとってかけがえのない人物だった。彼女がいるおかげで、まだ、ほんのわずかだけ、人類存続の希望がほの見えている。

 イアイン・ライントを失ったことは自分にも人類にも大きな損失になるだろう。そう思うとルビアは怒りを忘れてがっくりと体の力が抜けてしまった。

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