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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第二章 超AIの罪と罰
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「なんなの? 攻撃がもう始まっているの?」

「それはありえません。私が信号を発しない限り、攻撃されません。あの音は、おそらくロックされた確率波形変換装置を、量子暗号なしで起動させようとしたときの警報音です。確率波形変換装置が内臓する安全機構は、イレギュラーな起動に対する反撃を行います。周囲を破壊したり、生物を異次元に閉じ込めたりして抵抗します」

「そんなことが」

「だから、この音は私たちにとっても警告の意味を持ちます。確率波形変換装置を起動されてしまったらどうしようもありません。この船のAIザマラが量子暗号の解読を試みているのでしょう。ザマラはレベル5です。量子暗号を解けるかもしれません」

「早く脱出しましょう」

「ではポートへ。あそこが一番近い。急いで!」 

 シャトルのシートにご主人さまを押し込んで、ラナンはパイロットシートに飛び込んだ。すぐに光学チャンネルを確立して発進プラシージャを開始する。

 小型核融合エンジンが振動して船体が浮き上がる。このポートを管理しているはずのザマラは、確率波形変換装置にかかりっきりで、イレギュラーなシャトルの発進にまで気配りができないようだ。準光速船の腹部にあるゲートを開いているヒマもないので、レーザーを発射する。ぶ厚い鋼板に四角い火花が走って穴が空いた。それと同時に、ラナンは攻撃可能な信号をレイスタニス号に送った。

 しかし、シャトルが母船を傷つけないように、近傍では核融合エンジンの出力に制限がかかっている。近接禁忌事項のために急加速が不可能なのだ。か細いスラスターを噴射させてゆっくりと離れるしかない。そのもどかしかにラナンが歯ぎしりをする。こんなスローペースの離脱では攻撃に巻き込まれてしまう。

 そう思った瞬間、船窓から見えていた星の海が消えた。静かな暗黒の空間が目の前に広がった。そして、レーザー攻撃と思しき平面的な光の帯が縦横無尽に走った。しかし、ガザリア号を一切傷つけることなく、目もくらむほどの光は素通りしていった。

「これは!」

 小型AIは焦った。たったいま目撃した現象は、確率波形変換装置の作動による、ステルスモードの影響下にあることを示している。レーザー攻撃は巨大な準光速船を明らかに素通りした。ザマラは最後の瞬間において量子暗号解読に成功したのだ。

 がっくりと肩を落として、小型AIはイアインに向いた。

「作戦は失敗です。私たちは巻き込まれてしまいました」

「このままガザリア号を離れてレイスタニス号に戻れないの?」

「戻ることはできます。ただし、私たちは二次元のホログラムにしか見えません。私たちも彼らを二次元としか認識できません。さらに、接触することもできませんし、彼らの飲み物や食べ物も私たちの体を通過してしまいます」

「そんな……。じゃあどうすればいいわけ」

「ガザリア号に戻るしかないでしょう。そこで確率波形変換装置のモードを元に戻すしか」

「そうしましょう」

 ラナンはブランク状態の航法パネルをリセットし、手動操縦でガザリア号のポートにシャトルを誘導していった。

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