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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第二章 超AIの罪と罰
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 シャトルに一人で乗ったイアインは、ガザリア号に到着するまで、シャトルの外壁――上下でいうと底の凹みにへばりついているラナンが気になって仕方がなかった。ロボットとはいってもラナンの皮膚は生体素材だ。真空にさらされたらどうなってしまうのだろうか。

 二千五百メートルもある準光速船は大きかった。小さな窓に顔を近づけてみると、全体の姿はすでに把握できず、眩しい白い壁が見えるだけだ。何回も発着ポートをシャトルで行き来しているが、それでも暗黒の空間に浮かぶ巨体にはいつも圧倒される。

 自動操縦でポートに着き、エアロックをくぐり抜けると、そこにはロロアと子供たちがいた。そのほか、大勢の老若男女たちも並ぶ。ロロアは車イス状のカートに座っている。幹部らしき人たちは四人くらいしかいない。それに議長の姿は見えない。

「ロロア、大丈夫だったのね」

 イアインは、胸のあたりにプラスティック製の機械を装着した病み上がりの女の子に駆け寄った。

「ごめんなさい。私たちのためにこんなところまで来てもらって。また会えるとは夢にも思わなかった」

「本当によかった。あなたのお父さんも助かったのでしょう?」

「ええ。この場にはいないけど。あれから、私はあなたに謝る機会を待っていたの」

「そんなことはどうでもいいよ。ロロアはレザム星に戻るんでしょう?」

「議長からはそう命令された。だからそうします。私は直接行動した誘拐犯だから、裁判にかけられ、有罪になるでしょう。でもあなたはここに残る。それがとても残念」

「残念じゃない。また会えるから。心配しないで」

「そうなの?」

「裁判のとき、私が証言するから」

「ありがとう。でも大丈夫だから」

 ロロアは怪訝そうな顔をした。この船はラロス系外を目指すはずだったから。 

 その後、イアインは客室に軟禁状態にされた。ドアには二人の幹部が張り付いている。机に付属するイスに座ると、そっと胸のペンダントに手を当ててみた。ここに来る前、ヨアヒムに言われたとおり、ほんのりとした温かさが戻っていた。ということは、ここにセカンドレベルがいるのだ。

 作戦は、ペンダントが赤く変わったら始まることになっていた。その時点で、百九十人はレイスタニス号に移っているはずだ。同時にガザリア号内では、まずラナンがこの部屋の前の二人を倒し、イアインを連れて準光速船の後部へ移動する。そこに数百基もある脱出ポッドかシャトルで離脱する。それを確認したら攻撃開始という算段だった。

 そのときは二時間後に訪れた。ペンダントが軽く振動して赤く変わった。それを確認するとイアインは戸棚から外宇宙用スーツを引っ張り出してせわしなく着替えた。また脱出ポッドに乗るのは嫌だったが、今度はラナンもセカンドレベルも最初から一緒だ。なんとかなるはずだ。

 ガシーンという振動が壁から伝わり、ドアが無理やり開かれた。顔を出したラナンが手招きをする。

 ドアの外には二人の男が倒れていた。

「殺したの?」

「いいえ、気絶しているだけです。それにしても私はどうして人間を攻撃できるのでしょうか。まったく機能停止しませんけど」

「それは気にしないで」

 イアインは先行するラナンの後に続いて走った。船首に近い場所にいたから、千メートル走になってしまった。息が上がる。

 途中で不思議な音が船内に響いていることに気がついた。それは音楽のようにメロディがあるわけではなく、それでいてどこか心の中に浸透してくる力を持っている。イアインは走るのを止めて、聞き方によっては女の声のように感じられる音波にしばらくとらわれてしまった。どうにも心地よく、どこか懐かしく、しんみりとした寂寥感をベースにして、その上に優雅さやエネルギーに満ちた悦楽を含んでいた。

「何? この音……音楽?」

 走り去っていたラナンがご主人さまのところへ戻ってくる。そして耳をそばだてる。

「これは……。この音は…」

 そして、船体を引き裂くような金属的な不快な音も聞こえてくる。何かが船内で暴れまわっているような地響きを伴っている。壁に手のひらを当ててみると、不規則な振動が感じられた。

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