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そのとき、3-Dディスプレイが赤い文字を点滅させ、ピンピンピンと軽い音を連続させた。
びっくりしたのはラナンで、「ぎゃっ!」と奇声を発してディスプレイから離れ、この船のシステムとつながっていたすべてのチャンネルをキャンセルした。
「ほらほら、おいたが過ぎたようね。怖~い怪物AIのお出ましだよ」
「や、やめてください。あなたは私を庇ってくれるんでしょうね。情報を提供したではないですか」
「どうしようかな」といいつつイアインは立ち上がり、ドアのボタンを押した。ディスプレイには来客を告げるメッセージが点滅していたからだ。
ドアの向こうには、案の定、小型AIが一番会いたくない相手が立っていた。
「何か?」とイアインが訊ねると「ちょっと話があります」といつもの澄んだ目で超AIが答える。
ヨアヒムが部屋に入ると、ラナンはベッドの下に隠れてしまった。
「話って?」
「これから起こることです。あなたには話しておきたい。もしかするとまた騒ぎを起こすかもしれないと思いました。前科がありますから」
「これから起こること? ではラナンの情報窃盗が用件ではないのね。そうだって、助かったよ」
小型AIの手がベッドの下から現れた。おそるおそる頭も出てきて顔を天井に向ける。そこにはひきつった笑顔があった。
「大丈夫みたいよ」
「そうですか」
這い出したラナンは、しおらしくベッドの脇に座った。
「さきほどの情報漏洩はたいした問題ではありません。いずれレザムの人たちには公表するつもりでした。ただ、もう少し黙っていてください。わかりましたか?」
超AIが念を押すと、下位の小型AIは「はい」と答えた。しかし、黙っていることが可能だろうかとイアインには思えた。
「では話を進めます。これから独立自然主義者同盟逮捕に向かうわけですが、本当の目的はザマラと名乗るレベル5AIの破壊です。レザム法によって、レベル5AIの存在が許されるのは私だけです。自由に振る舞えるレベル5AIはこの宇宙にとって脅威になります。排除せざるを得ません。この準光速船が重武装しているのはそのためです。自然主義者同盟たちの逮捕は二番目の目的です。もし、彼らが投降せず、逃走を図るのなら、容赦なく破壊します。この点を予め知っておいてください」
それを聞いたイアインの顔色が変わるのを超AIは見逃さなかった。
「場合によっては小型AIとあなたを拘束する必要がでてきます」
この発言で場がしばし沈黙した。




