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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第二章 超AIの罪と罰
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 さきほどからラナンはご主人さまとの会話も忘れて、3-Dディスプレイに表示されるデータを睨んでいた。光学的リンクを駆使して、珍しい武装型準光速船の詳細を調べているようだった。ロボットのくせに、興味深いデータを発見すると鼻息が荒くなる。その様子を見てイアインはおかしくなった。

「何か面白いことは見つけた?」

「待ってください。この船、はっきり言ってすごいんです。なんといっても推進機構が。これは現在のラロス系文明の、いや宇宙内での頂点ともいえる技術です。相転移エンジンですよ? 相転移! 信じられません。実はいま私は防壁を突破して情報を盗み見していますが……。あ、これはあのセカンドレベルから得た手法でして……。

 まあ、そんな些細なことはどうでもいいですが、そう、相転移エネルギー。たとえば一立方メートルの空間を限定的に相転移させて得られるエネルギーは標準的な恒星が一生かかって放出するエネルギーと等しいらしいです。だから、この船を動かすには数立方センチメートルの空間の相転移だけでOK。ラロス系を端から端まで往復できるようです。すごい! ここまでやるかヨアヒムっていう感じです。感動しました……。エネルギーを搾り取られた空間を押しつぶす方法についての情報がもっと欲しいです……。どこかに……」

「はいはいはい。わかったから、すごいすごい。要するに情報を盗んでいるのね?」

「あ、ちがいま、そうです。そんな些細なことはいいですから。この船の武装もすごい、信じられない新兵器ばかりです。しかし……。こんな兵器をなぜヨアヒムは開発したのでしょうか。さしあたって、この兵器を使う相手はラロス系内にはいないと思うのですが」

「それこそヨアヒムに聞いてみたら? それともハッキングしてみる?」

「そんな恐ろしいことを! ハッキング仕掛けたとたんに、おそらく私は爆発するでしょう。彼は量子暗号だって数秒で解いてしまう計算力を持っています。大人と子供、いや、大人とミジンコほどの差が……」

 あははは。とイアインが笑った。

「だったらこの船を探るのもやめておいたほうがいいかも。とっくに私たちの行動は把握されているでしょうから」

「そうでしょうか……。そうかなあ……」

 面白いことに、小型AIの生体素子でできた顔が若干青くなっていた。

「でも、強力すぎる兵器ってどんなの?」

「聞きたいですか。それは、相転移エンジンからエネルギーを流用する形の主力兵器が一つあります。それはもう、恒星のフレアのような高エネルギー粒子線やプラズマをレーザーのようなコヒーレント状態にして放出します。こんなのにやられたら一瞬で何もかも溶けて蒸発してしまうでしょう。ただ、射程は意外に短いようです。短いといっても三光日くらいまでは大丈夫そうです。それから電磁砲。これは電磁気で弾体を飛ばす原理的に簡単な兵器。そのほか従来の兵器を強力にしたものも多数ありますが、極めつけなのがリプリケータです」

 ベッドに仰向けに寝ながら小型AIの言葉を聞いていたイアインだったが、知らない言葉にぶち当たり、顔を上げて問い返した。

「リプリ、何?」

「リプリケータです。これは分子機械のことで、接触した物質すべてを分子に解体して材料とし、自分と同じ構造物をコピーして増殖する恐るべき疑似生物です。ミサイルの爆発によって吹き飛ばされますが、殺すことは不可能だし、リプリにやられたらこの船だって生き延びることはできないでしょう」

「そんなのがあるの? 開発が許されているの?」

「それです! 私の記憶データが正しければ、リプリの研究・開発はラロス系内では禁止されているはずです。従って、このレイスタニス号に搭載されていることはありえないはずなのです」

「ふ~ん」と鼻を鳴らしたイアインだったが、確かに数々の強力な兵器は、ただの人間集団である自然主義者同盟を逮捕するために必要だとは思えない。ステルス機能を発揮する確率波形変換装置だって無力化できると言っていたし、AIロボット軍団がステーションや準光速船にたくさん乗り込めばそれで終わりのはずだった。何か知らない事態が進行しているのだろうか、とイアインは思った。

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