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意外な行動はガザリア号からの脱出を阻止しようとしたロロアに影響されたのかもしれない。目的のためには自己犠牲をもいとわない。あの時のロロアの気持ちが痛いほどわかる。そのままの状態で睨み合いがしばらく続く。誰も動かない。
「よしなさい」と傍らの首相が手を伸ばしてくる。それを左手で払ったあとは自分の行動がよくわからなくなった。ただひたすらがんばっていた。
「こんな騒ぎを起こした責任を取ります。でも、無実の人たちは必ず助けてください。お願いします」
そう言ってイアインは引き金を引いたつもりだった。強力な磁気で弾体が発射され、どこかに跳弾するヒューンという音も聞いた。しかし、視界に何の動きもなかったのに、気がつくとヨアヒムに押し倒され、右手をつかまれていた。
時間が止まり、あたりは静寂に包まれる。そんな中、ごく小さなささやき声が聞こえた。
「こういうところ、君は母と祖母にそっくりだ。血は争えませんね」
近くにある超AIの澄んだ目に見つめられて、イアインは何も言えなかった。体を支えられ、かろうじてよろよろと立ち上がった。それをラナンも手伝う。
イアインから離れたヨアヒムが十一面体の総責任者の方へ顔を向ける。
「首相。お話があります」
話しかけられた男は苦笑した。顔が皺だらけになった。
「内容はおよそ想像がつく。さっそくライルを呼んで検討しよう」
二人の幹部が歩いていく。同時に警備員やロボットも囲みを解いて離れていく。イアインは呆然としていた。何かを成しえたのか。何も変わらなかったのか。今しがた交わされた二人の幹部の会話の意味もわからなかった。
そんなご主人さまの様子を見てラナンが微笑んでいた。
「要求は通ったみたいですね」
最後まで現場に残っていた一人の警備員が二人に近づいてきた。
「たったいま、首相から指示がありました。あなたの要求に応えたいので休憩室で待機していてくださいとのことです。案内します」
「よかった」といってイアインはかがみ、小型AIを抱きしめた。




