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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第二章 超AIの罪と罰
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 評議会が開かれているちょうどそのとき、十一面体の地下では自殺したはずのライル・ニアームが真実に覚醒していた。自分の住んでいた世界が突然違ったものに見え始めたのだ。

 彼はさきほどヨアヒムに連れられてこの部屋に入った。ついてきたアーイア・ライントも入ると、気密ドア並に重い扉がガタンと閉まった。そのとたんに部屋の照明が点灯して、全景が明らかになる。奥行二十メートルほどの情報集約室が現れた。一見しただけで、ラロス系のすべての情報がここに集まっていることがわかる。中央にはラロス系の光学的モデルが鎮座しており、リアルタイムの惑星の位置が示されていた。よく見ると、その外側には輝線や輝点が無数にある。

「これはすごい」

 ライルは乱舞する光が自分の腕に反射しているのを眺めた。そのうち、部屋の暗さに目が慣れてきた。よく見ると、巨大なディスプレイが七基あり、その前にはヨアヒムが七人座っている。ふつうのヨアヒムはあのようにディスプレイにへばりつく必要はないので、おそらくセカンドレベルだろうとライルは推測した。そして、ころあいを見計らったらしい超AIが、この部屋について教えてくれた。

「ここはラロス系の防衛本部です。戦況監視および戦術指令室です」

「戦争?」

「そうよ。ライル、あなたは今何歳?」

 後ろからアーイアに声をかけられて、ライルは振り向いた。

「五十八歳だが……」

「だったら、ここはあなたが生まれる前から続いている戦争を統括する指令室よ」

「なんだって?」

 ライルの記憶のすべては平和なレザム星で暮らした日々で占められている。戦争といわれてもピンと来ない。

「まあ、順を追って説明しましょう。こちらへ」

 超AIが別の小さな部屋へ、驚愕の表情を浮かべている新参者を案内する。そこには小さなテーブルに五つのイスがセットされていた。

 その一つにライルが座ると正面にヨアヒムが座った。その右隣にはアーイアが陣取る。

「あなたはもう忘れているかもしれません。こんな現実を見せつけられれば。しかし順を追いましょう。まず、エヌテン星でのあなたの見たものからいきましょうか」と、超AIが切り出した。

「あれだな。系外の光とリュクレリウムだ」

「そうです。あなたの見た光は本物です。あの宙域では戦闘が行われていました。そしてリュクレリウムはその残骸から発生したものです」

「だから、誰と誰が戦っているんだ」

「それはまず置いておきましょう」とAIがすました顔で言ったとき、ライルはイライラして気色ばんだ。その様子を見てプリエステスと呼ばれる女が小さく噴き出した。

「せっかちなのね」

「そして準光速船で観測したモノポール。これも本物です。衛星アドナリムの軍事工場で生産されている次世代型相転移エンジンから発したものです」

 そのようにぬけぬけと言われた男は口をあんぐり開けて固まった。相転移エンジンの開発は凍結されたはずだ。ところが目の前に座っている超AIは、悪びれることもなく相転移エンジンを製造していると言ってのけたのだ。

「それからリプリケータ。これもアドナリム製です。アケドラ号は私たちの製造したリプリケータに破壊されました。あのとき、リプリケータはガス惑星スナルの輪に隠れて偽装していたのです」

 恐ろしい記憶がよみがえった。金属やガラスや樹脂製の船体が氷が溶けていくようにみるみるうちに侵食されていく。ライルは頭がこんがらがってきた。整理が必要だった。まず初めに浮かんだ疑問を口にした。

「101号衛星にいたとき、お前のセカンドレベルと会話した。同時に私は超AI用の思考モニターを観察していた。だが、ウソは検出されなかった。なぜ光の明滅についてウソがつけたのだ?」

「それは簡単なことです。あなたと会話していたのは私だからです。セカンドレベルではありません」

「しかし、リアルタイムで話せる距離ではなかった。レザム星とエヌテン星は二百五十光分も離れているんだぞ」

「ええ。慣性質量をコントロールする確率波形変換装置から副次的に生まれる機能で、距離に関係なくリアルタイム通信が可能になっています。これも発表していませんでしたが」

「距離に関係ないリアルタイム通信だと?」

 それを聞いてライルは頭がまたクラクラしてきた。そんなテクノロジーが開発され、しかも秘密にされていたとは。

「量子もつれ現象を利用した情報伝達技術です。恣意的なデコヒーレンスが可能になったことで実現しました。今から百年前のことです。それを101号衛星に積んでいたのです。セカンドレベルとの会話は、リアルタイムで私との会話とすり替えていました」

 言葉が出なかった。そして恐ろしくなってきた。

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