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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第二章 超AIの罪と罰
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 その後の会議では、ロキ大陸に数万人いるナチュラリストたちと、誘拐を行った独立自然主義者同盟の二百人は別物だということ。そして独立自然主義者同盟を逮捕して事情聴取をしなければならないこと。AIの警察部隊を派遣すること。そのオブザーバーとして評議員かそれに代わる者を派遣しなければならないこと、などが決まった。

 最後に当事者の意見を聞くことになり、議場のドアが開いた。ドアからは周囲を珍しそうに眺めながら、十一面体にふさわしい白いワンピース姿の女性が入ってきた。

 隣の控室で待ちくたびれていた誘拐被害者は、首相に促されてテーブルの末席に座った。こんな会議に出ることになるとは思っていなかったらしく、いままでの待ちくたびれ感が吹っ飛び、イアインの顔は緊張の面持ちに変わった。さすがに十一面体の最深部は雰囲気が異様に重たいし、空気を吸ってみれば息苦しい。

「今回は酷い目に遭いましたね。イアイン・ライント。ふだんからの警備が至らずにお詫びしたい」

 一番遠くに座っている首相がそういうので、イアインは「とんでもないです」みたいなことを言いそうになった。しかし口をつぐんだ。

「そんなことよりも、あのナチュラリストを逮捕しに行くと聞きましたが、彼らはすでにあのステーションを脱出しているかもしれません」

 その発言には非人間的に背筋を伸ばして座っているヨアヒムが答えた。

「まだ彼らは動いていません。しっかりと監視はしています」

「近づいたら脱出すると言っていました。おそらくどこかの星へ……」

「それも知っています。しかし追いかけてでも逮捕しないとラロス法は遵守されません」

「私は誘拐されたのではなく、自分の意思であのステーションへ行ったのだと言ったら?」

 議場がざわついた。しかしヨアヒムは表情をまったく変えなかった。

「あなたの感情については推測ができます。あなたは彼らに恨みを抱いていない。それどころがなんとかして助けたいと思っている」

「その通りです。彼らと接しているうちに共感できる部分をたくさん発見しました。彼らは私たちアポイサムの人間たちよりも必死に生きている」

「それもわかります。しかしあなたが誘拐されていないと主張すると、それは偽証になります。それでも主張を続けるのですか」

 しばらくの沈黙が続いた。首相や評議員たちはテーブルから上半身を見せている女がわなわなと肩を震わせているのを見ていた。

「ヨアヒム、あなたは私と一緒にいたのでしょう? セカンドレベルとかいうらしいけれど。だったらすべての出来事は把握しているはず。確かに最初は拘束されて自由がなかった。でも自分を犠牲にして自由を与えてくれた人も中にはいた。今回のことで彼らを非難するつもりはありません」

「あなたは被害者です。たしかに被害者の感情も考慮する必要はありますが、客観的には誘拐が成立している。これを放置することはできないのです」

「そうですか。では、お願いします。彼らをそっとしておいてあげてください」

 そういいながら、イアインはロロアの手術は無事終わっただろうかと心配になった。二十%。議長はそういった。助かってくれればいい。それに……。強烈な閃光と共に散ったラミイのことを思い出すと、思わず目頭が熱くなってきた。

「イアイン・ライント、君の気持はわからないでもないが、彼らには裁判を受けてもらう」

 そう話し始めたのは首相のイーアライだった。

「そして、裁判が始まったら君が証言すればいい。被害者の発言は重いだろう。刑は軽くなるはずだ」

 イアインは威厳に満ちた法廷の雰囲気とそこで証言する自分の姿を想像した。しかし、それでいいのだろうか。彼らは逮捕されるくらいなら宇宙船ごと自爆するような気がする。ロロアやラミイの行動を思い出すだけでそう断言できる。レザム星に戻されることは彼らにとって絶望を意味するからだ。

「そうですか。わかりました。でもこのニュースがロキ大陸の人たちに伝わったら、どうなるでしょうか」

 再び議場がざわついた。ナチュラリストだったら独立自然主義者同盟に共感するはずだ。その数が二万人もいればレザム星は大混乱に陥るかもしれない。

「その点は憂慮している。しかし法は法だ。ナチュラリストだって理解するはずだ」

 そういった首相は少し自信がない様子だった。


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