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十機のシャトルが並んでいるのが窓から見える。気密室の前にはエルソア号のサブリーダーたちや目ぼしい人間が集まっていた。イアインはそれぞれハグしたり握手したりして最後の別れを惜しんだ。ラナンも同じような待遇で頭を撫でられたりした。その場には、やはりルディとロロアがいなかった。そして気密室に小型AIと一緒に入るときには拍手が起こった。
シャトルで戦艦マリステスに移り、ブリッジに入ると、イアインはAIに話しかけた。
「人類再興計画を実行します」
マリステスが中性的な声で答える。
「手続きを行ってください」
ブリッジの最前にある小さなコンソールが左右に開き、中から台が出てきた。そこにペンダントを置くと、ブリッジの雰囲気が変わった。全体的なインテリアの色彩がグレーから明るいクリーム色に変化した。その様子をラナンがキョロキョロして眺めている。
「量子暗号の認証終了。プロジェクト、ヒューマンリバイタライゼーション始動。イアイン・ライントの存在を確認。各セクションのAIの起動。まず最初に実施する惑星の評価・選定を行います。イアイン・ライント、希望する惑星はありますか? なければAIが検索を開始します」
「ラロス系の惑星スラーがいいと思う」
「惑星スラーは計画実施条件に適していません。他の候補を」
「あちゃー。アップデートされていないんですね」とラナンが呟いた。
「ラナン。データを渡して。マリステスはそれを参照して」
二体のAIが黙っていた時間は短かった。
「惑星スラーのデータを参照した結果、最適だと判断しました。では、そちらに向けて飛行計画を作成します。しばらくお待ちください」
マリステスがそんな答えを返す前から、船は微速でエルソア号から離れていた。徐々に遠ざかるエルソア号の姿が巨大スクリーンに映っている。
ラナンがイアインに近づいて肩をつつく。そしてスクリーンの一部を指差す。
そこには、船首の脇にある全面ガラス張りの展望ルームがあり、二人の女の小さな姿が見えていた。
「マリステス、エルソア号の船首部分を拡大」
小型AIの指示通りに二人のアップが映ると、そこにはルディとロロアがいた。ルディは右手を振っている。そして胸には昨日渡したペンダントがかかっていた。
「マリステス、エルソア号の左舷展望ルームと双方向の音声通信を確立」
気を利かせた小型AIの指示を実現するのに少し時間がかかったが、やがて「さようならー!」という子供の声が聞こえてきた。
「ルディ! 元気でね! ロロア! ありがとう!」
イアインの叫びが聞こえたのか、少女が後ろを振り返ったりしている。だが隣のロロアに促されてまた正面を向いた。その顔は泣いていない。笑っていた。
「お姉さんとの約束は必ず守る! だからお姉さんもがんばってね!」
「ルディ! みんなと仲良くね!」
「わかってる! さようなら!」
会話はそれで終わった。二隻の船が離れるにしたがって、ルディ・ライントの姿がどんどん小さくなっていく。イアインはいつまでもそれを見守っていた。泣かないと決意していたが、一筋の涙が流れていた。
そして、展望ルームが判別できないほどまで離れたとき、エルソア号から上の方向へ光芒がが数本走り、花火が次々に展開した。
「あれは、ミサイルですね。祝砲のつもりですね」とラナンが笑っていた。
「飛行ルートの設定が完了しました。加速を開始します。シートについてください」
マリステスのアナウンスと警告音が響いた。イアインが近くにあるキャプテンシートに座ると、太ももや両脇、頭の部分がせり出してしっかりと補足された。
「私もOKですよ」
小型AIが後ろで合図すると、ラロス系へ向けた強烈な加速が始まった。