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「私たちと同じ人類を創造するということは、また自分たちでAIを創り出して頼ることになると思う」
考えてもみなかったことだった。イアインは八歳の少女からこんな疑問を突き付けられて答えに窮した。確かにルディの言うとおりだが、それではほとんど希望がなくなってしまう。
「未来がわかっていても精一杯生きることが知性を持つ人間の生きざまではないかと思うの。人類が生まれるきっかけは問題じゃない。今度の人類も結局AIを生み出すと思う。でも、いつまでもAIに頼らないで生きることを願う。これに賭けるしかないのよ。何回失敗してもまたやり直すしかない」
ルディがしくしくと泣きだした。今までこらえていたものを抑えきれなくなったようだった。またうつむいてしまった少女の頭をイアインは撫でた。すると、さらに小さい声が聞こえてきた。
「ごめんなさい。あなたの人類再興計画を否定するようなことを言って。行くのをやめてくれると思ったの」
「わたしも寂しいけれど、あなたは他の人たちと仲良く暮らして。そうだ……」
イアインは上半身をベッドの上で起こした。突然、体を離されたルディも腕を立てて身を起こした。
「これあげる」
胸をまさぐって一つのペンダントを取り出し、少女の首にかけた。
「母親からもらったものだけど、あなたに持っていてほしい。オルシアに分析してもらうと、何か面白いことがわかるかも」
それを手にとって見ているルディは、「ありがとう」とうなずいた。
「ルディ。お願いがあるの。あなたはみんなのためになることをしてあげて。今すぐじゃなくていいから。大きくなったらみんなが希望を持てるようなことをしてあげて。それがあなたの使命よ」
少女が何回かうなずいたのが暗がりの中でも見えた。
「そうだ、あなたにはまだ苗字がなかったね」
「うん。でもそんなこと考えたことなかった」
「よかったらルディ・ライントって名乗って」
「いいの?」
「もちろんよ」
「ありがとう」
イアインが横になると、また少女がしがみついてきた。だが、今度は何も言わなかったし泣くこともなかった。イアインは無言で少女の頭を撫で続けた。
翌日の起床推奨時間になると、横には誰もいなかった。いつの間にか少女は寝室を出たようだ。もしかすると、イアインを見送る最後の瞬間に耐えられなかったのかもしれない。