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一年ほど前、イアインはアポイサムにいる母親に会いに行くために、戦艦マリステスに乗った。そのとき、ブリッジの前方を見てみると、チュートリアルが示していたとおりのものがあった。
そしてペンダントを置く台は現在乗っているエルソア号にもある。首相はこちらに置けと言っていたが、おそらくどちらに置いても同じだとイアインは思っていた。エルソアもマリステスも同じく人類再興計画を実行する能力を備えているはずだ。
エルソア号はすでに乗員がいるし、荷物もたくさん積んでいる。人々の生活の場として欠かせなくなっている。実行するとしたら無人のマリステスしかない。
1001号室の寝室に戻った彼女は、荷物の整理を始めた。といってもエルソア号にある私物は、服や食器類のような生活品しかない。そして、分子アセンブラが設計図を元に作り出し、いくらでも船内で支給される。何も思い入れのあるものがないことに彼女は気がついた。一つだけ、胸にかかっている母親からもらったペンダントを除いて。
「まだ戻っていないようですね」とラナンがリビング側から顔を出した。
「ロロアのところに引きこもったままね。さっきも連絡があった」
「このまま会わないつもりなんですかね。もう八歳なのにそれくらいできないと」
ラナンの小言をイアインは聞き流した。明日はマリステスに移乗する予定になっている。
睡眠推奨時間になってベッドに横になり、うとうとし始めると、隣に小さな体が動くのを感じた。そのまま気づかないふりをしていると、四肢を使って体にからまってくる。イアインはルディの方へ体を向けた。暗くてその表情はよく見えない。
「ごめんなさいね。一年とちょっとしかあなたとは過ごす時間がなかった」
すると、少女の顔が上を向いた。
「考えたの。イアインがどこかで人間を創造するのって、わたしが遊びでやってたシミュレーションと同じだって。でも、やっぱり遊びのシミュレーションとは違う」
「そうよね」とイアインが相槌を打つ。少女は小さな声で続けるが「でも……」と何かを言い淀んでいる。
「なに?」
「新しい人類も、結局AIがいなかったら生まれてくることができなかったことになるでしょ?」
そういわれてイアインは返す言葉がなかった。ルディの言うように、新しい人類が生まれるきっかけからしてAIに頼ることになる。
「それに……」
まだ言いたいことがあるようだった。