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オルシアが前に出て、聴衆に向かって軽く挨拶する。
「不肖、オルシア・ルノン、サブリーダーの一人としていまのキャプテンに送辞を捧げたいと思います」
それに対しても拍手が起こった。
「本人を前にして恥ずかしいのですが、このイアイン・ライントは最初に会ったたときから私個人の、いや全人類にとっての希望の象徴でした。
自分でもはっきり認識していたようですが、確かに戦艦とか議会とかのリーダーにはこの人は向いていません。しかし、そんなことはどうでもいい。そんなレベルの低い仕事は我々がやればいい。この人が近くにいてくれたことでどれだけ勇気づけられたことか。
そして、本当にイアイン・ライントは最後の最後まで人類の希望を保証してくれる女神でした。それが今回明らかになりました。だってそうでしょう? 人類をまた生み出すんですから。そんな大それたことは我々にはできない。このイアイン・ライントにしかできません。
我々は、我々が経験しているような生きている感覚。人として思考したり感じたりした同じ体験が、またあの惑星スラーで、数億年後とはいえ、復活するのかと思うと、信じられないくらい嬉しくなるのです。それはやっぱり我々の希望なんです!
みなさん、寂しくなるけれど、イアイン・ライントの仕事の成功を祈りながら、拍手と共に送り出しましょう!」
うるさいくらいの拍手と歓声が金属の壁にこだまして渦巻いた。オルシアはイアインに近づき、その体をハグした。すると聴衆からは「なにしてんだ!」「こら、離れろ」という声が飛び交った。
次はうっすらと目じりに涙をためているフロリナとハグした。
「せっかく仲良くなれたのに残念だけど、あなたの母親が言っていたように、使命を果たして。私たちもがんばるから」
耳元でそう囁かれたイアインの胸の中には寂しさが広がった。親しんだ仲間と離れて、これからはラナンと二人きりだ。しかし、この船に関して一番気がかりなのは、数日前に部屋を飛び出していった少女のことだった。
「ルディとロロアの面倒を見てあげて」
ハグを終えたフロリナの顔がうなずいていた。