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首相とヨアヒムは特に何も自分たちの意見をつけ加えてはいなかったが、わざわざこのシミュレーション結果を送ってきた意図は明白だった。惑星レザムとスラーは兄弟星で、原始的な生物相に限って言えば、ほとんど同じだった。人類再興計画を実施する惑星として再有力候補になる。
だったら、移住団がスラーに戻ればいいはずだった。ほとんど母星と同じ環境になるのであればだ。しかし、以前に首相たちが送ってきたチュートリアルでは、人類再興計画は第一にAIの存在しない環境が望ましいとされていた。もちろん、この計画にはAIが必須だが、役目を終えると機能停止する仕組みだ。すでに知的な生物がいたり、文明がある惑星は不適格とされていた。
そこでイアインは迷った。移住船団がりゅう座に行くのであれば自分は戻り、もし移住団がスラーに戻ると言い出せば、りゅう座に行く必要があるのだ。この悩みを打ち明けたのは、小型AI以外ではロロアだけだった。それ以来、ロロアは彼女と行動を共にしている。そして、彼女が行動を起こすのであれば、ルディをロロアに預けるしかない。
この平穏そのものの草原で、二人の女が憂慮していたのはそのことだった。
「一緒に連れていくことは考えていないの?」
ロロアにそう問われて、イアインはゴーグルの中の何かを追いかけている少女を見た。
「私と二人きりで一生を終えるのは不幸だと思う。もう一人ラナンがいるとはいえ。少ない人数でも、やっぱり社会の中で役割を持って生きたほうがこの子のためになる」
ロロアも少女を見ながら「それはそうだよね」と溜息を漏らす。
「この一年間で私以外にもあなたやフロリナとは喋るようになったし、他の人とは挨拶だけならできる。もし元に戻ってしまったらと思うと……」
イアインが率直な懸念を表に出すと、ロロアもうなずく。
「でも、もう八歳だし、それほど心配ないような気もするけど……」
その六時間後、船内の睡眠推奨時間になると、リビングにいたルディが寝室に入ってきた。それまでに彼女は話す決意を固めていた。ルディは目を酷使することが多いため、よく手の甲でこすっている。ひどく眠そうに見えるが、イアインはベッドの縁に座らせ、正面に立った。
「ルディ、お話があるの」
背は伸びたが、顔の大きさは変わらない。その小さな顔が見上げているが、目はイアインのほうを見ていなかった。