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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
終章 氷結時代の終わり
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 少女がヴァーチャルな世界に没頭して、周囲から遮断されると、向かい合った年長の女たちが話し始めた。

「いつ出発するつもりなの?」

 ロロアが小声で訊いてくる。

「もうそろそろだとは思っているけれど」

 イアインは煮え切らない表情をしている。

「待っていたのよね。リプリケータが去るのを」

「いなくなるまで二年程度だって首相が言ってたから。すでに一年たっていて、戻るまでに一年。ということは今がそのタイミングかな」

「そう」

 ロロアは寂しそうな顔をして小屋のほうを見た。そして隣の少女に目を移す。

「ルディだけれど……」

「私じゃあなたの代わりにはならないと思う」

「そうかな……」

「まだ言っていないんでしょう?」

「うん」

 二人の女の会話が途切れた。イアインにとって、いま一番大切なものだと思える少女は、無邪気にヴァーチャルな映像に反応して体を動かしている。その様子を見ているうちにイアインの表情が曇った。一年で少女の身長は十五センチも伸びていた。初めて会ったときの小じんまりした雰囲気が薄れている。

 アセンションという、あの光のイベントが収束し、ぽっかりと広がった空虚の中を、白色矮星が無事に通過した。当初の計画とは違い、レザム星は自らを消滅させることで凶星をかわすことに成功したのだった。

 だが、白色矮星のガスの尾の中には、レイスタニス号のヨアヒムが気にしていたとおり、リプリケータが潜んでいて、ラロス系内の人工物のすべてを食いつくそうと広がり始めた。

 慌ててその空域から脱出した準光速船は数隻に過ぎなかった。レザム星に帰還できなくなった難民たちは、しかたなく移住団が目指している、りゅう座シグマ星系へ向かった。およそ十八光年の彼方、航行期間にして二十二年かかる。気の遠くなるような航海に図らずも乗り出すことになったが、そこには母星とほぼ同じ環境の惑星があることが判明している。

 命からがら地表から脱出した直径五百メートルの十一面体は、りゅう座と反対の方向へ飛翔した。敵の残存艦やリプリケータの注意を引いて囮となるためだ。

 囮になると言いだしたのはヨアヒムらしい。百年前、アルビルと初めて遭遇したとき、攻撃をしなければこんなことにならなかった。すべては私の責任ですといって悔やんでいるという。

 その案に首相も賛成した。問題になったのは、まだ生きていたい他の評議員や職員たちだった。近くに準光速船はいないし、十一面体だけが、残存人類とは反対の方向へ逃走しなければならない。

 そのときに救世主のように現れたのが、今までラロス系内のどこかに潜伏していたナゲホ・ミザムの乗艦ガザリア号だった。五百人あまりもいた十一面体内部の人間たちを収容したあと、ステルス化してりゅう座の方向へ加速し始めた。現在も移住船団を追っている。

 そうした情報や首相からのメッセージは、ガザリア号からのレーザー通信で届いた。十一面体がその後どうなったのか杳として知れないという。ルビア・ファフ率いるラロス艦隊の安否も不明らしい。

 だが、身を犠牲にするような十一面体の囮効果は確かにあった。今までの道中で敵に遭遇しなかったからだ。そのおかげで一年もの長い間、イアインたちは平穏なテラリウム通いができていた。

 首相から受け取ったメッセージには、ヨアヒムのシミュレーションも含まれていた。白色矮星が通過したあとの、ラロス系の変動を予想するものだ。レザム星よりも外側の惑星は、強烈な重力で内側に引き寄せられ、恒星ラロスに近かった二つの岩石惑星は外側に引っ張られた。

 多かれ少なかれ、それぞれの軌道が変わったが、一番影響を受けたのは凍結状態を続けていた惑星スラーだった。ヨアヒムのシミュレーションによると、スラーはレザム星の軌道に落ち着く。

 ハビタブルゾーンの範囲にあるものの、ぎりぎり外側だったために凍結を免れていなかったスラーが、水が液体として存在できる最適な位置――すなわち、レザム星と同じ位置へ移動することになる。すぐにでも温暖化が始まる。

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