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広い草原にポツンと立つ小さなログハウスに、夕陽が当たっている。いつもと同じ、遅い午後のそよ風が吹き、足元の草がかすかな擦過音を立てる。
木製のテーブルの上には、ティーカップが三つ、銀色のポットの周りに並んでいた。
コツンという音を立ててルディの手からスプーンが落ちた。それを取り戻そうとして少女がテーブルの上に身を乗り出す。横顔に夕陽が当たり、垂れてカーテンのようになった金髪が輝いた。その様子を眺めていると、何の根拠も道理もないはずなのに、人類は再びこの宇宙に生まれなければならないという声が聞こえてくる。その声が誰の声なのかわからなかったが。
母親は「いまこそ超越的なものの中に人類は還る」と言った。しかし、観測可能な宇宙の内部に存在するすべての物質のうち、生命体と呼ばれる物質のほうが圧倒的に希少で、それゆえ普通の物質よりは超越的なような気がする。意識のない物質の世界からすれば、生命の持つ、意識や知性や感情こそ超越的なのではないか、とイアインは思った。
こんな風景の中ですでに一年も過ごしていた。レザム星の上空でテラリウムに通っていたころは、ルディと二人きりだったが、今はロロア・ライーズが一緒にいることが多い。時々フロリナ・バロアも加わる。
かつて「あなたたちって親子か姉妹みたい」とロロアに言われたことがあるが、ルディの隣に座っているロロアを見ていると、この二人のほうが姉妹のように見える。どちらも金髪だし、顔だちが似て目の色も同じだ。
お茶をすすりながら、イアインは二人を見比べて、そんな感慨を抱いた。
ログハウスの階段に座っていたラナンが歩いてきて、三人のティーカップを覗き込む。空になったルディのカップを見ると、ポットからお茶を注いだ。
「ありがとう」とお礼を言った少女は、イスの上からヘッドセットを持ち上げて頭や顔に装着した。これだけは相変わらずだった。