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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第四章 終末の詠唱
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 目まいを起こすほどの光の横溢。広場を取り囲む建造物からの乱反射。人いきれ。汗。潮騒のようにうねる喧噪。涙。失神。陶酔。広場には人間たちのありとあらゆる極限的な姿があった。煉獄の炎に焼かれて逃げ惑い、挙句の果てに見つけた一筋の光芒へすがろうと、群集がステージに押し寄せている。凄まじい光景だ。これほどの情動に憑かれた人々の組織的な動きをを、いまだかつて見たことがない。アポイサムという都市では史上初の現象だった。

「なんだかこっちまで気持ち悪くなってくる」

 フロリナがそう言うと、ラナンが「お茶でもどうぞ」と応じた。

「ありがとう」とフロリナがティーカップを取る。このエルソア号内では、こんな映像さえ流れていなければ、安全と安寧と心の静謐は保証されていた。

 画面の中では女教祖が右手を天に突き上げていた。人差し指が直上を向いている。そのまましばらく固まって静かになるのを待っているようだ。五分すると広場が静かになった。

「では、これから私の命をかけた詠唱を行わさせていただきます。そして、アセンションが始まります。みなさん、何が起こっても決して怖がらないでください。これから起こることはすべて昇華のプロセスです。

 それでは、神の祝福があらんことを祈って、詠唱させていただきます」

 女教組は右手を降ろし、両手を胸にあて、天を仰ぐようにアゴを上げた。その口から流れてきたのは、今まで誰も聞いたことのない詩だった。

《静かに始まる私たちの朝は

 暗い夜のあとに続き

 闇に潜むものも

 光の中に宿るものも

 イーアのゆらぎが作る幻想

 二つのものが一つになるとき

 神聖なるものも

 邪悪なるものも

 突出した頂きから降りて

 私たちの元に還ってくる

 時間さえもつれの海へ戻ってゆく》

 よく響く高い声が広場に行き渡り、都市全体が共鳴しているようだった。イアインは、こんなに美しい声で歌う母親を初めて見た。隣のルディも何かを感じているようだ。目が輝いている。ロロアもフロリナもティーカップを手に持ったまま映像に見入っていた。

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