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ちょうど、一斉に発射されたミサイルがガスの尾の中で大爆発を次々に起こしている場面だった。
一体の作業ロボットが二つの折り畳み式イスを持ってきた。それを受け取ったラナンがイスを展開し、ロロアとフロリナを座らせた。
「はい、私もちゃんと仕事をしていますよ」
二人の女は小型AIの頭を撫でて、キャプテンシートのすぐ後ろに座った。すると、サブリーダーのオルシア・ルノンとマストリフ・ネスラがイスを持ってきて近くに座った。
「久しぶり、キャプテン」とオルシアが声をかけてくる。イアインは振り向いて二人に挨拶した。
「最近全然会っていなかったから、どうしていたのかと思って。代役はこの子がちゃんとやってくれていたけど」
マストリフが傍らに立っている小型AIの頭をポンとたたいた。
「ええ、おかげさまであなたとはずいぶん論争しましたね。とても我々は仲良くなれました」
ラナンが皮肉っぽいことを言うと、フロリナが「これこれ!」と笑う。
「サブリーダーとか目ぼしい人たちの間ではもう、この子アイドルになっているんだから」
「そうだったの。私は色々と考えることがあって……、結局いまも考えはまとまっていないけれど」
「ちょうどいい機会だ。ラナンを含めて議論していたのは、ドゥーテを出発する時期だ。あなたの意見を聞きたい」
オルシアが真面目な顔をして、話しやすい距離まで体を寄せてくる。そして周囲のざわめきが増した。スクリーン上の戦況が、混戦模様になってきたからだ。
「私は、白色矮星をやり過ごしてからでもいいと思っているけれど」
「なぜ?」
とオルシアが詰め寄るようにしてくる。
「あれが気になる。私の母親がそのときに何をするのかが」
イアインのまわりに固まっていた四人が黙った。だいたいの事情は知っていた。
「それをどうしても見たいと思っています。もし許されないのなら、私だけここに残ってもいい」
まだ四人は黙っていた。この船にいる人間の半分以上が、すぐにでも出発したいと思っていたからだ。呪われた星系から早く脱出したいのだ。
「その場合」と発言し始めたのは小型AIだった。
「戦艦マリステスにご主人さまが残って、矮星通過を見届けてから追いかけることになるかもしれません。それでもいいと私は意見を言っていました」
「出発のときにリーダーがいないというのはどうかという意見もある。だけど自分は正直にいって、矮星の通過を見たい。スラーまで移動すれば十分に離れていて、影響はない。イアインの意見に賛成する」
「自分もこの星系で何が起こるかを見ておくことは重要だと思う。リーダー会議ではそのように決定しよう。フロリナもいいな?」
マストリフが確認すると、フロリナもうなずいた。
「あらあら、ずいぶん非民主的な決定ですね」
そういったラナンの頭をマストリフが撫でた。
「ある程度は仕方がないさ。我々はこの船の最高意思決定機関なんだからな。もしこの船で犯罪が発生したら、犯人の処分を決定するのも我々だ」
「ま、そうなるとは思っていましたが」
そのとき、ブリッジに喧噪が渦巻いた。イアインに抱かれるように座っているルディも身を乗り出している。
スクリーン上では、巨大な球形の敵戦艦に対峙するガスピル級戦艦が、集結してフェイザー砲を撃っていた。粒子線の束が敵に向かっていく。しかし、強烈な重力波パルスによって屈折し、上下左右に曲がる。敵戦艦はガンマ線バーストとほとんど同じ凶悪な粒子線を、見えない盾で跳ね飛ばしながら進んでいく。