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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第四章 終末の詠唱
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 イアイン・ライントや移住希望者の若者たちを乗せたエルソア号と、物資運搬船オルソア号の兄弟船は、レザム星の衛星ドゥーテの周回軌道上にいた。少し離れた場所には無人の戦艦マリステスの姿もあった。政府の用意した避難船団も同じ軌道上の、衛星をはさんで反対側にいた。

 結局、ファーミン空港から浮上したエルソア号は一回も地上に降りることなく、ドゥーテまで避難した。空港に詰めかけていた人々は、まだ地上に残っていたメイザー号に収容された。そのメイザー号もじきにここへ来る予定だった。そして移住船団は、白色矮星が通過するさいに惑星スラーの軌道に移動する予定だった。このとき惑星スラーとレザムは、主星ラロスを中心にすると、角度にして四〇度の位置にある。これだけ離れていれば宇宙船は安全だと考えられている。

 エルソア号ではフェリデ・ガータンのチームが、ラロス系艦隊の迎撃戦の情報を収集していた。それは主に十一面体からの情報だったが、準光速船が備える高度な観測機器を駆使して独自の分析も行っていた。

 戦闘が始まると、ブリッジの巨大スクリーンには十一面体からのリアルタイム映像が常に映されていた。これに興味を持ったのは主に火器管制チームだった。チーフのノイス・ライバンを筆頭に、総勢七人がブリッジのシートに座って観戦していた。さらにサラオ・ダイクの率いる航法チームも加わり、立ち見をしている者もいたりしてブリッジは混雑していた。

 そこへラナンとルディを連れたイアインが現れた。ブリッジの入口は四つあり、その二つが巨大スクリーンの横にあったから、その場のほとんどの人間が三人に視線を集中して黙った。しかし、それは一瞬のことで、また人々の視線は戦況に戻って行った。

 そもそも自分がこのブリッジの責任者という事実にも慣れていないし、七歳の女の子をこんな場所に連れてきたことに彼女は後悔したが、戦闘の様子を見たいを言い出したのはルディだった。

 座れる場所がないか視線を走らせて探した。空いているのは自分専用のシートだけ。さすがにそこには誰も座っていない。

 仕方なく、イアインはルディの手を引いて、スクリーンを眺められる特等席に座らせようとした。すると、少女は拒んだ。

「先に座って」と言われたとおりに座ると、股の間にルディが座った。その様子を見て小型AIが「チッ」と舌打ちをした。

「あら、ラナン、ご主人さまが相手にしてくれないもんだからやきもち?」

 不意に言葉をかけられて小型AIが振り返ると、そこにはフロリナ・バロアが立っていた。隣にはロロア・ライーズもいる。

「そんなことないですよ。私は大人ですからね」

「そうだったの? 家出したくなったら私のところに来てもいいよ」といって、フロリナもロロアもクスクスと笑っている。

 そんな状況にお構いなしに、ルディはスクリーンを見つめていた。この場所からは少し見上げることになる。頭をイアインの胸のあたりにあずけて前代未聞の大艦隊戦の様子に集中している。

「それにしてもこの子、よくなついたね」

 ロロアが率直な感想を言った。というのも、保育室の責任者であるセレナ・ラクライルと一緒に、ルディの面倒を何回か見たことがあるからだ。

「そうね。でもラナンよりも人懐っこいよ」

「それが信じられないのよ。私とかセレナがいくら話しかけても答えてくれなかったもの」

「やっぱり寂しかったんだと思う。この子、最初は無表情だったけど、すごく感情豊かだよ」

「気がつかなかった……」

「ずっとレジャー区画で一緒にすごしていたからね。仲良くなれたみたい」

 ロロアとイアインの会話の向こうで、フロリナとラナンが何か話していた。そこへイアインが割り込んだ。

「ラナン。イスを二つ持ってくるようにAIに伝えて」

「了解」と答えたあと、ラナンは「おー」と漏らしてスクリーンに注目した。周囲からも動揺とも感嘆ともつかない声がざわめいた。

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