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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第四章 終末の詠唱
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 近距離・遠距離レーダーで敵が識別できれば、到達時刻の予想有効範囲に向けて自動的にミサイルが発射された。それまでは静かだった艦内には、うなるような機械音と振動が続く。

 ガスピル号のスクリーンには、敵が識別され次第番号が振られ、そこへ向けた攻撃が完了すると、点滅する矢印でマーキングされる。見事に撃沈すると輝点も一緒に消滅する。目標は同時に千個以上も捕捉し攻撃を行うことができる。弾薬の使用率はまだ二十%に過ぎない。たとえガスピル号一隻でも、防衛網から逃れられる敵はいないはずだ。

 敵が発射したミサイルが感知されると、船体から直径二メートルのドローンが無数に放出される。ドローンはミサイルに体当たりしたり接近して自爆したりする。それをすり抜けてきた飛翔体には、あまり使いたくない近距離用レーザーで対応する。

 味方艦が周囲に多数いる場合は、レーザーやレールガンを使うと同士討ちの可能性が出てくる。やはり、敵味方の識別と誘導ができるミサイルが最適だ。まさに潰し合いのゲームが繰り広げられている。

 そこへ、十一面体にいるヨアヒムから映像が届いた。座っているはずのヨアヒムは相変わらず姿勢がいい。

「ルビア総司令、敵の大型艦が一隻だけ攻撃をかわしながら接近しています。座標を送りました。その戦艦は直径四キロの球形。進行方向に重力パルス弾で弾幕を張っています。定期的に発射しながら前進中です」

 スクリーンには、白色矮星の後方三十光秒の場所に、新たな点が出現した。ガスピル号たちと十光秒しか離れていない。それと同時に、小惑星のように見える敵艦の光学観測映像も現れた。

「重力パルスは、味方艦のステルス状態に有効であるばかりか、接近するミサイルも破壊します。空間を極端に歪ませるため、レーザーも屈折して散乱し、破壊力を失います。止められない状態です」

「どうすればいい?」

「すでにその艦へ向かうようにレイスタニスのヨアヒムに指令しました。おそらく、一番有効なのはフェイザー砲ですが、一艦の出力だけでは重力パルスを突破できないでしょう。

 現在、レイスタニス級、ガスピル級の戦艦は七十隻残存しています。一方向からの集中攻撃が有効だと判断します」

「我々も敵艦に向かえと?」

「そのとおりです」

 う~むとルビアは唸った。

「さらにレザム方面へ接近する敵艦がいたらどうする?」

「数としてはわずかでしょう。レザム周辺に待機中の予備艦隊だけで対処可能です」

「わかった。我々も敵艦の大将を迎撃する」

 総司令がそういうと、超AIの映像が消えた。

「バリー、航路を設定しろ」

「了解!」

 斜め下からGが猛烈に突き上げてきた。スクリーン上では、敵の旗艦らしき大型艦に向けて、味方のめぼしい点が動き始めていた。

 フェイザー砲は艦尾に二つついている筒型の相転移エンジンからエネルギーを転用し、艦の腹部にある発射口から高エネルギー粒子線として噴出させる。そのとき艦は後進してしまうので、釣り合うように相転移エンジンをふかして前進をかける必要がある。

 スクリーン上の敵残存率は一三・二八七となっていた。あと一息だ。それに対して味方の残存率は三十九・七八三だった。潰し合いゲームは着々と進行していた。なんという予想外の数字だろう。味方艦はこいつにやられていたのか。

 ルビアは怒りを感じてシートの端くれを掴んで爪を立て、必ず撃沈してやると誓った。

 会敵ポイントにほとんどの船が集合すると、ルビアはまた演説を始めた。

「みんな聞いてくれ。目の前の敵艦にはステルス機能が使えない。隠れても無駄だ。重力パルスでやられてしまう。

 我々はフェイザー砲をコヒーレント状態になるように発射する。各艦はなるべく接近してほしい。この迎撃が失敗したらまずいぞ。俺たちで必ず食い止めるのだ」

 人間が乗っている四艦から各艦長の映像と声が届いた。それぞれが「了解」と述べて次々に消えていく。

「バリー、目標までの距離は?」

「二光秒です。たったいま、光学観測で重力パルス弾と思われるミサイルの発射を確認。その数三十」

「一光秒になったらフェイザー砲による攻撃開始だ。ミサイルにはこちらもミサイルで迎撃せよ」

 七十隻のガスピル級戦艦と百隻の無人戦闘艦が一斉にミサイルを発射した。すると、重力パルスミサイルの一つが加速して前方に進出し爆発した。その重力パルスで味方の迎撃ミサイルの半分が無力化された。

「ミサイルがなくなるまで撃ち続けろ!」

 そのように総司令が激を飛ばすと、ミサイルの弾幕やレーザーの光芒が激しさを増し、敵艦との空隙を満たした。すさまじい撃ち合いが始まった。

 やがて、フェイザー砲の威力が最大限に発揮できる一光秒まで距離が縮まると、ガスピル級戦艦七十隻から、ひとまとまりのエネルギーの束が球形戦艦に向かっていった。 

 それを察知したらしい敵も、エネルギー粒子線の通り道に合わせて重力パルス弾を集中させる。まるで往古の機関砲のようにミサイルが発射されている。

 重力パルスが発生すると、その影響で粒子線の束はプリズムを通過した光のように拡散した。あらぬ方向へ曲げられて進んでいく。もちろん、敵艦には届かない。

 ルビアは焦った。このまま距離が縮まると、我々の船もパルスによって破砕されてしまう。

「なんでもいい。反物質ミサイルでも核融合弾でもレーザーでもすべて使い果たせ! そしてフェイザー砲を撃ち続けろ!」

 敵艦が距離を詰めてくる中、全艦がすべての火器管制をフル稼働させた。目のくらむ爆発が連続的に起こり、スクリーンにはその影響が現れてノイズが走る。やがて重力パルス波の影響も現れ、艦が小刻みに揺れ始めた。まるで硬い車輪の車で地上を走っているような、宇宙空間では経験したことのない振動だ。

 これ以上、持ちこたえられるのだろうか。フェイザー砲の光束は依然としてあらぬ方向へ飛ばされている。ルビア総司令は、抑えようがないほどに盛り上がってくる不安の中、さらに激を飛ばした。

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