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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第四章 終末の詠唱
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 オーバースロー作戦に参加する重武装大船団は、惑星スラーを離れてすぐにステルス状態へ移行した。いずれの船も身の丈に合わせた暗黒空間に包まれている。この状態の不便な点は、外の様子がわからないことだ。そのため、敵に感知されないよう数センチあまりのセンサーを有線で前方に出す必要があった。各船の間で交わされる連絡も、その小型デバイスを通じて行うしかない。

 一個のセンサーは小さくてもそれが数千個もあれば目立つが、恒星系内は外宇宙に比べてガスやチリなどの密度が高い。見分けるのは不可能なはずだ。

 ラロス系の誇る大艦隊は、二つのグループに分かれて白色矮星に近づいていった。一つの船団の広がりは十光秒もある。というのも、ステルス状態にある船は、ふつうの物質とは相互作用しないが、ステルス状態の船同士では衝突してしまう。位置情報を伝達する電磁波は最小限に抑える必要があるし、周囲から入ってくる情報は豊富ではないし、これだけの数の船のフォーメーションを維持して飛行するのは難しいことだった。人間にはとてもできることではない。

 やがて、迎撃予定地点まで八光分の距離に来ると、恒星ラロス並みに輝いていている白色矮星を、肉眼では直接見ることができなくなった。惑星レザムやスラーほどの大きさしかなくても、放出するエネルギーには凄まじいものがある。

 その後ろに伸びているはずの問題の尾は、白色矮星の飛翔コースからずれたときに見えてきた。今のところ目立った変化はない。いよいよオーバースロー作戦の発動するときが迫っていた。

 すでにレイスタニス号はガスピル号に横づけされ、アンカーでつながれている。ステルス状態の範囲内にいれば、電磁波による交信は可能だ。

 いまや総司令官と呼ばれているルビア・ファフは、すべての情報を表示する半円形のスクリーンに囲まれて座っていた。目の前には五隻のガスピル級戦艦と各艦長のステータスが表示されている。艦長はルビアが面接し、経歴の資料を鑑みて指名した者たちだ

★ガスピル号艦長 ルビア・ファフ/★ホイスト号艦長 ウイラ・ドゥバン/★トランド号艦長 ケオス・ハン/★メヒカラ号艦長 ウース・ダナオ/★クイラト号艦長 ナイハラ・ロダク

 これら人の乗った船は旗下に二十隻ずつの戦闘艦を擁している。白色矮星の尾を攻撃する戦艦たちが撃ち漏らした敵の侵入を防ぐ最後の砦となる予定だ。

 総司令官はAIガスピルに命じて音声メッセージを各艦に配信した。

「これより我々は戦闘状態に突入する。ラロス系に敵が侵入してきたのは初めてのことだ。白色矮星という迎撃・排除不可能な盾を使われてしまったために許してしまったのだ。

 できるだけ早く撃滅するために、迎撃ポイントはエヌテン星の軌道に設定した。ここから一隻も敵船を内側に入れるな。人間の乗っているガスピル級戦艦は、最後の一隻になるまで戦ってくれ。生身の人間としての意地を見せてやろう。私も諸君と共にあり、不退転の覚悟だ。一時間後に先鋒艦隊が総攻撃を開始する。後衛には二重、三重の防衛戦を張っている。敵艦の動きをよく観測して一隻も逃すな! では諸君の幸運とラロス系の安寧を祈る! 以上、返信は不要だ」

 短かったが自分にしては立派な檄を飛ばせたと思った。副艦長を務めるバリー・セナジが後ろでうなずいている。

 スクリーンには白色矮星のコースやそ後方の尾が示され、その周囲には迎撃するラロス艦隊が点滅している。白色矮星の進む先には旗艦のガスピル号やレイスタニス号を表わす点がある。それに矢印が重なり、ゆっくりと前進していることがわかる。

 先鋒の艦隊はすでに凶星を過ぎて、ガスを主成分とする尾を取り囲んでいる。スクリーンの右側にヨアヒムの顔が映った。画像の下にはレイスタニスと表示されている。

「ルビア総司令、気になることがあります。矮星の尾の中に敵艦以外に何かが潜んでいるかもしれません」

 スクリーンに尾の拡大映像が映し出されるが、特に以前と変わった点はない。

「どういうことだ?」

「ふつう、恒星から飛散する物質のほとんどがガスです。もちろん、放射線やプラズマも含まれますが。今回の尾には、ガスでは説明できない質量を観測しました。赤外線を透過しないのです。ガスのような気体ではなく、何か重くて異質な物質粒子が存在しています。それが何なのか、レイスタニス号で観測したい。許可をいただけますか?」

 ルビアは考えた。戦闘が始まったら近くにヨアヒムがいて欲しい。自分やバリー、あるいはガスピル号のAIだけでは心もとないような気がする。しかし、ガスピル号以下、重量級の戦艦は十一面体の防衛局にいるヨアヒムとリアルタイムで接続している。また、防衛局には確率波形変換装置を搭載している数千もの船から光速を超えて情報が入ってくる。人間である我々の頭ごしに、最前線のAIたちに的確な指令が届くはずだ。人間たちが全滅しても、超AIが的確な指令を出してくれる。

「わかった。観測に向かってくれ。十一面体とリアルタイムで情報リンクを確立しておいてほしい」

「もちろんです。では、私は先行します」

 アンカーが切り離され、レイスタニス号が遠くなっていく。ステルス状態の範囲を抜けると、その姿は見えなくなった。

 一時間後、スクリーンの上部に表示されていたカウントダウンがゼロになると、いままで青かった船団の輝点が赤くなった。最前線に位置するガスピル級戦艦から送られるリアルタイム映像にも、今までの黒い世界からうって変わって星やまばゆい白色矮星やガスの尾が現れた。

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