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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第一章 燦然と輝く廃墟
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 アケドラ号はスナル星の衛星軌道に乗った。アドナリムへ千キロまで近づいて追いかける形だ。今のところ危険な粒子線は観測されていない。

 ガス惑星スナルの軌道上にはうっすらとした塵や氷の輪が何本もある。輪の平面が恒星ラロスに向くと、はっきりと見えるが、それ以外のときはほとんど見えなくなる。衛星アドナリムもアケドラ号も輪の間の軌道を静かに飛んでいる。

 ライルはドローンを飛ばして問題の小惑星を観測する計画を立てた。モノポールを観測してその発生源を追跡する今までの行動については、母星レザムへ報告しているが、通信は往復八時間以上かかるため、まだ返事が来ていない。ライルはクラカマ・ダモエから中央の指示を待ちましょうと進言されたが、一光分内のトップという地位を惜しみなく利用するつもりだった。

 それに、中央科学機構や評議会に属する人間たちが報告を受けても、おそらくまとまった指示はないだろう。危機管理を担当するセクションも存在しない。事の重要性を理解してすぐにメッセージを寄こすのはヨアヒムのはずだ。そのメッセージが届くまで数時間はある。

 臨時の船長に就任したライルを含む四人は、アケドラ号のブリッジに集合した。ブリッジは船尾から船首へ向かって狭くなっており、緊急時にはここが船体から切り離される。直径二十メートル長さ三十メートルの小型宇宙船がアケドラ号には埋め込まれているわけだ。ただし、母星へ帰還するだけの性能はない。恒星間宇宙船に比べれば存在しないに等しい推力のエンジンを備え、生命維持が可能な環境も数ヶ月しか持たない。

 何十年も誰も座ったことのない真紅のキャプテンシートに座ったライルは、船首の方向にある巨大なディスプレイに映ったアドナリムを見つめていた。この映像は光学観測によるものだった。

 手前のコンソールには立体的な映像を浮かばせるホログラムが多数配置され、その一つには本船と十機のドローンの位置が表示されていた。

 後ろの副官たちの座る複数のシートには、クラカマやその部下二人が落ち着き、ドローンを操作したりいくつもの観測機を操っていた。

 やがて、ドローンは連携を取りながら、重力がないに等しい小惑星アドナリムを周回し始めた。ライルが最初に指示したのはミュー粒子による透過映像法だった。ドローンは指向性の強いミューオンを放出すると同時にミューオンを受信する。物体の密度やコンポジションによってミューオンの損失が起こるため、複数のドローンが採取するデータによって内部の構造がわかる。

 目の前のホログラムに、ゴツゴツしているもののかろうじて球形を保っている小惑星が、除々に姿を現し始めた。ドローンが移動するにつれて、輪切りの線が積み重なっていく。そこには密度の高い岩石のコアと氷やドライアイスなどの密度の低い層が何層も現れていた。

 アドナリム全体の四分の一程度の画像が得られたとき、巨大ディスプレイが輝いた。ドローンが次々と爆発していったのである。手前のホログラム映像の進行もそのまま固まった。

「アケドラ号、今のは何だ?」

「ドローンが全機破壊されたようです」

「それはわかっている。原因は何だ」

「不明です」

「今の映像を解析しろ」

「わかりました」

 後ろからもアケドラ号の周囲をレーダーで監視していたミスカ・ウェムドの声が聞こえてきた。

「ライル局長。変です。スナルの輪が変形しています」

「なに? どういうことだ」

「本船の方向へ移動しているのです」

 同僚の若い男性ワロン・フジュがディスプレイを見つめるミスカの傍らに駆け寄った。

「本当だ。観測データの時間を短縮すると顕著です。我々の方向へ動いています」

「アケドラ号、事実か?」

「はい、事実です。本船の上下にしか輪がないはずですが、今は左右にも存在しています」

「そんなことがありうるのか」

「ライル局長、本船は輪の構成物質、つまり微細な塵や氷に取り囲まれました」

 巨大ディスプレイに目をやると、以前よりも視界が曇っている。アドナリムの姿に霧がかかっているようだった。

「ライル評議員、ドローンの映像を解析しましたが、爆発の原因は不明です」

 次々に発生する異常事態に、ライルはどうしたらいいのかわからなくなった。とりあえず、危険な場所から離れて考えるしかない。

「アケドラ号、この空域から脱出してくれ。緊急プラシージャを使って構わない」

「了解しました」

 AIの返事が終わるか終らないかのうちに船体が傾いた。座っていたライル、クラカマ、ミスカは、瞬間的に変形したシートにホールドされて急加速に耐えることができた。ところが、立っていたワロン・フジュはブリッジの船尾方向へ飛んで行ってしまった。

 その様子を横目で見ていたクラカマは、ワロンと壁の間の距離は十メートル以上あったことを思い出した。しかし、航行中の緊急回避のための急加速が想定される船内の壁は、柔らかい材質で造られている。打撲程度で済んでくれればいいとクラカマは願わずにいられなかった。




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