プロローグ 3
人界に行く方法は2つある。1つは第1階層から第3階層まで繋がっているエレベーターに乗っていく方法。できればこちらの方法を取りたいのだがそう甘くない。
やっぱりろくでもないことだったと心の中で愚痴り、右胸に刻まれた隷属紋章を眺める。
『ただ行くだけなのはつまらないでしょ。だから、隷属魔になって召喚されていきなよ。』
そう、もう1つは隷族魔になり人間に召喚魔法で召喚される方法だ。隷属魔は召喚した人族の支援と守護を目的とした者であり、天魔戦争に人族を巻き込んでしまったことへの天族、魔族による償いの象徴である。
天魔戦争で世界中に大きな被害が出たが、一番被害が大きかったのが基礎能力が劣る人族だった。終戦後、世界の平和協定を結ぶ際に人族への助力という理由で天族、魔族を隷属魔として使用することが認められた。
だが、天族、魔族も役割があり特に序列が上の者は持っている仕事の量や、部下や民を仕切らなくてはならず隷族魔から必然的に外される。
そのため、本来なら魔王である俺は隷属魔の対象にはならないが、ヴァイスは面白いからの一点張りで隷属魔法を解除しない。スキアーに至っては「ネロ様の代わりは私がするので安心してください。」とのことで、辞めさせる様子もない。
「それでは、隷属魔初心者のネロは不安でいっぱいだろうから、僕が隷属魔になって早3年の子を呼んであげよう。ナシタ、おいで!」
ヴァイスの掛け声にやって来たのは玉座の間の扉の前で声をかけてきた少年姿の天族だった。彼は小走りでヴァイスに駆け寄ると俺に隷属魔のことについて教えて上げてと伝えられている。
「そ、そんな。僕が知っていることなんて一般的に知られていることだけですし。」
「大丈夫、大丈夫!ネロは隷属魔になったことないし、わからないことだらけだから。例えば、召喚されたら挨拶程度に『我が力を欲する者よ。我が名はネロ。魔族を統べるものなり。汝、名を述べよ。』って言って名前を聞いたら、そいつの名前を言って『汝を主と認め、我が名を渡そう。』って言えばいいとかさ!」
召喚頭にそんな恥ずかしい言い回しをしないといけないのか。
先のことを考え、つい頭を抱えたくなる。溜め息をついたところで、俺の足下が発光していることに気づく。首を傾げ足下を見ると、足が透け始めていることに気づいた。どうやらその変化に目の前の2人は気づいていないらしく会話を続けている。
「そ、それは挨拶程度にしてしまう「大丈夫だって!そうそうネロを召喚出来るような人族はいないからさ。例え、召喚できるような高い魔力を持っているとしても、それを制御するのは難しいから暴走させて召喚不発になるのが目に見えてるしね!」
「では、早くネロ様の隷属魔法を解いて差し上げたらどうです。貴方の甘い考えはすぐに撤回した方が良さそうですよ。」
先程まで鳴りを潜めていたスキアーが話し合う2人に声をかける。怪訝そうに顔を歪めヴァイスはこちらを見た後、すぐさま顔色が悪くなった。ナシタに至っては小さく声を上げ、大きな目を更に見開いている。
慌ててヴァイスが何かの呪文を唱え始めたが、俺の体はもう全身が透けており意識もだんだんと遠退いていくのを感じた。
最終的に目の前が真っ白になる直前に見た光景は、眉間に皺を寄せながら必死に呪文を唱え続けているヴァイスと、狼狽えるナシタと、優雅に手を振るスキアーだった。
次に目に飛び込んできたのは1人の少女だった。少女は頬を赤らめ伏せ目がちの瞳でこちらを見ていたが、徐々に顔色を青くすると思った以上に見開いた目で凝視し始めた。そして、俺は教えられた言葉を口にする。
「我が力を欲する者よ。我が名はネロ。魔族を統べるものなり。汝、名を述べよ。」
そうこれがベアトリクス・ローゼンバーグとの出会いである。




