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教会編 10

恐怖と不安が覆いつくすのは一瞬だった。(つんざ)く悲鳴と、度重なる爆発音が不協和音を奏でている。


(ようや)く音が途切れ、辺りが静寂に包まれた。ホッとしたのも束の間で、瓦礫を踏み潰すような音と威圧的な怒声が耳に入った。


「愚かなる家畜共よ!邪神に心を委ねる愚者共よ!神ニルヴァーナ様の声を聴け!神は解放を望んでおられる!」


ネロに抱き締められるような形で庇われているため、見えにくいが教会の出入口辺りで奇妙な格好をした人が数人立っている。爆発によって出入口付近は壁が半壊し、窓ガラスの破片や瓦礫が床へ散らばっていた。


出入口から運良く離れた場所にいたお陰か、瓦礫やガラスは足元に散らばっているものの私やネロ、ナシタに怪我を負っている様子はなさそうだ。まあ、私の場合はネロが庇ってくれたお陰もあるが。


だが、出入口付近にいた人は被害が大きいようで瓦礫の下で倒れている人や、血を流している人がいた。奇妙な格好をした集団のリーダー格らしき男は、辺りを見渡した後で床に倒れこんでいる1人の男に近づいていく。リーダー格の男がその男の元へたどり着くと髪を乱暴に掴んで持ち上げた。


「貴様は救済を望むか。」


持ち上げられた男は痛みのせいか顔を歪ませている。何か言おうと口をパクパクさせているがうまく声が出ないようだ。リーダー格の男は舌打ちをすると更に髪を引っ張りあげた。


「救済を望むのかと聞いている!」


持ち上げられた男は苦鳴を漏らし、か細い声で「のぞむ。」と発した。


「神ニルヴァーナ様に誓うか!」


「ち、ちかう。」


男がそう言うとリーダー格の男はそのまま髪から手を離した。自力で体を支える余力もなく持ち上げられた男は床に頭を叩きつけられる。


「では、貴様を救済しよう。」


リーダー格の男はそう告げると懐から銀色の短剣を取り出す。そして、迷うことなく取り出した短剣を床に横たわる男の胸へ突き刺した。思わず息を呑む。


突き刺された男は口から血を吐き出す。その様子を見ていたリーダー格の男は刺した短剣を胸から引き抜くと笑みを浮かべた。


「神ニルヴァーナ様。哀れな(しがらみ)から1人の魂を解放しました。どうか彼に加護をお与え下さい。」


背筋がゾッとする。狂っているとしか言いようがない。人を刺して笑っていられるなんてとても正気なはずがない。ネロを掴む手に力が入った。


「さあ、ここにいる愚者共よ。選ぶがいい!裁きを受けるか、救済を望むのか!」


リーダー格の男の声が響き渡る。どちらにしても私達に待っているのは死だろう。恐怖に心が支配される。体が震えてくるのがわかった。すると、背中を優しく叩かれた。


「ここは俺に任せろ。」


ネロを見上げると銀色の静かな瞳とかち合う。 ネロはナシタの方へと視線を向けて口を開いた。


「こいつを頼む。」


ネロはナシタの方へ私を渡すと、背中を向けて奇妙な集団の方へと歩いていく。


「貴様、止まれ!質問に答えろ!裁きを受けるか、救済を望むのか!」


ネロは足を止めた。


「俺はどちらも望まない。それに…。」


ネロが指を鳴らすと奇妙な集団の足元に大きな魔法陣が出現する。リーダー格の男は咄嗟に前へ跳んで魔法陣を避けたが、他のメンバーは避けきれず地面に吸い寄せられるようにして床へ叩きつけられた。見えない力で上から圧力をかけられているのか、魔法陣が描かれている地面が音をたてながら徐々に凹んでいく。


「あんたじゃ俺を殺せない。」


ネロは何もない空間から剣を取り出すと、リーダー格の男に剣の切っ先を向け不敵に笑みを浮かべた。


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