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プロローグ 1


今日は特別な日だ。普段着け慣れない頭に巻いてる黒い帯が鬱陶しい。振り替えれば、控える部下達の精悍な顔つきに頼もしさを感じる。


高まる鼓動とは裏腹に、曇りのない白が一面に広がるこの広場は静寂に支配されていた。広場の中央に(そび)え立つ大きな時計塔が時を刻む。


運命の時間が刻々と迫る中、隣に気配を感じ視線を移す。血の気を感じられないほど肌白く赤色の瞳がやけに映える優秀な補佐官が、胡散臭い笑みを貼り付けていた。


「ネロ様。準備はよろしいですか。どうやら相手方も準備ができているようですよ。」


時計塔のさらに奥の方で、白い羽根をゆったりと羽ばたかせている集団が見えた。先頭に立った人物が一際大きな羽根を優雅に操り地面へと降り立つ。それを合図に先頭に続く集団が次々と地面へ着地した。


「そのようだな。それにしてもお前が出てくれるなら戦力的にも助かるのだが。」


そう告げれば以前から今日は不参加の要望があった補佐官は、浮かべた笑みを強くさせた。


「ネロ様にそのような評価をしていただけるとは光栄ですねぇ。ですが、私がいないと天族には勝てませんか。魔王であるあなたがいるにも関わらず。」


相変わらずの毒舌に思わず苦笑がこぼれた。魔族で俺にそんな態度がとれるのはお前くらいだ。


「勝敗に絶対はないが負けるつもりはない。参加するつもりがないなら早くその幻影をとけ。時間だ。」


時計塔に目を配れば運命の時を刻むまで後数秒となっている。


「そのようですね。では、ご健闘をお祈りしておりますよ。」


補佐官は深々とお辞儀をすると同時に透けて消える。俺は大きく息を吸った。


「約束の時が間近に迫っている。目指すは天族の司令官である天界神ヴァイスだ!司令官を倒し、魔族の勝利を勝ち取る!」


大きな鐘の音が時計塔から鳴り、運命の時が刻まれたことを知らせる。


「皆、俺に続け!」


部下達の雄叫びが響き渡り、この白で支配された広場が魔族と天族でごった返すのはあっという間だった。


立ち塞がる天族を殴打し突き進む。ゴキュリと嫌な音を立てて天族は倒れこむと透け始め音もなく消えた。視界の端では魔族は強化された肉体で天族を押さえ込み、天族は白い羽根を使い魔族を凪ぎ払う姿が映る。


相手の司令官を目指し、目の前の天族を蹴りあげようとした所で嫌な予感を感じ背後へ飛ぶ。その瞬間、先程まで俺が立っていた所の地面が抉れた。


上を見上げれば、微笑みながら大きな羽根を広げ見下ろす1人の天族の姿があった。一際大きな羽根は神々しく、威圧的だ。


「随分と大暴れしてくれたみたいじゃん。自ら先陣切って正面からやって来るのはネロらしいよ。」


「後ろで控えているのは性に合わない。」


「まあ、予想はしていたけどね。俺を探していたんでしょ。」


相手は重力を感じさせずにゆったりと降り立つと一歩一歩歩みを進める。俺との距離まで数メートルとなったところでピタリと止まった。


「今日は見れるといいな。神殺しの異名を持つネロの実力をさ。とってもこの時を楽しみにしていたんだよね。ネロの負けて悔しがる姿が見れると思ってさ。」


「天界神ヴァイス。俺はもうあんたの手のひらの上で踊るのはごめんだ。敗北の2文字を味合わせてやる。」


「残念だけど、俺に従わざる得なくなるから。敗北した上でさ。」


それが戦闘開始の合図となった。間を一気に詰め寄り、鳩尾(みぞおち)目掛けて拳を振るう。鳩尾に拳がめり込んだ感触を感じたと同時に、頬に衝撃が走った。視界が揺れて地面に叩きつけられる。


視界に入りこんだ白色に、羽根で叩きつけられたのだと理解した。追撃とばかりに大きな羽根が身に迫るのを確認すると、横に転がりこむ。破砕音と共に地面が粉砕し、砂粒が体中に当たり痛みが走る。


このままでは相手のペースになることを感じ、素早く起き上がると背後へ飛んで距離を作った。


あの馬鹿でかい羽根が邪魔だな。リーチが広い。


柔らかそうな見た目に反して凶悪な破壊力を持つ羽根に舌打つ。羽根が大きいため威力が大きく、リーチも広い。だが、大きい故に攻撃速度はやや遅い。つまり、攻撃速度は俺の方が早い。ならば…。


駆け出して再度間合いをつめる。羽根は俺を目掛け払いのけようとするが、体を反らし回避する。


羽根を忙しなく動かしているくせに、涼し気な顔をしているヴァイスの懐に詰め寄ると顎に拳を振り上げた。一瞬羽根の動きが遅くなるのを確認すると、間髪入れずに横腹に蹴りを入れる。


ヴァイスの膝が崩れ無防備に晒された後頭部に、最後の一撃をと足を振り上げた。後は足を振り下ろすだけという所で、眉を潜めながらヴァイスは口角だけあげた。


「…ネロ、お前はさ。この闘いのルールを理解しているかい。」


そう彼が呟いた後の展開はあっという間だった。その大きな羽根で反対の頬を殴られながら後ろ側へと思いっきり吹き飛ばされた。


痛みに顔をしかめながら起き上がろうとしてはたと気づく。自らの手が透けていることに。慌てて全身を確認すると手だけではなく足も、体幹も全て透け始めたいた。


何故だ!俺はまだ意識を飛ばしてない!


混乱した頭で必死に自身が透けている理由を考えていると先程のヴァイスの言葉が頭に浮かんだ。


『この闘いのルールを理解しているかい。』


恐る恐る頭の方を確認するが手に触れるものは自身の髪だけだということに落胆する。唖然としていると後ろに吹き飛ばした張本人であるヴァイスが優美に空を飛びながら此方へ向かってきた。


「残念だったね、ネロ。」


そう言って見せびらかすように見せたのは俺の頭からとれた黒い帯だった。



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