5話 『表』と『裏』の違い
前話の改稿前の文章、文脈が明らかにメチャクチャ過ぎたので応急処置程度ですが直しておきました。
紫の境界から出てきたのは何故か藍だった。
「よいしょ。紫様は今手が離せないので私が今回の異変と裏幻想郷の関係について話そう」
「「「「……!?」」」」
あまりに唐突過ぎる発言に、そこにいる全員が驚愕する。
「――? なぜそんなに驚くんだい? 」
「いやだって驚かない方がオカシイのぜ。異変だけならともかく裏幻想郷とかいう訳が分からない言葉を聞いたぜ!?」
「あぁ、それは失礼した。事態が急を要するものだから内容を飛ばしてしまったよ」
「じゃあその内容を早く教えてくれ」
カイは先ほどの驚きを置いておき、藍に話を進めるようにする。
「分かった。まず、早苗の暴走は今回の異変に深く関わってる。それはある身体の部分が黒くなっている──黒死病が証拠だ。黒死病は嘗て外の世界ではヨーロッパなどで盛んに発症したものだ。そして本来暴走することは無いし、黒いオーラが出ることも無い。だが、早苗が暴走したのは間違いなく黒死病にかかったのが原因だ。そして──」
「ちょっ、……待って。それってどういうことか説明してくれるよね!? 黒死病は本来は暴走しないのか!?」
諏訪子は藍の話を聴くうちに戦慄し、話に割り込んだ。その理由は今回の異変は殆ど兆候を見せずに起こり、洩矢神社の現人神──早苗が被害を受けたからだ。
「あぁ、そうだ。黒死病は本来、風邪の上位互換程度のもの……その程度の認識でも問題無い。だが、幻想郷において黒死病は人間や妖怪を暴走させるものも追加される」
「待ってくれ! 俺の記憶だと幻想郷で今風邪を引いているのって言ったら……」
「レミリア、こいし……それにさっきの話で出た永琳。しかも永琳にいたってはもう黒死病にかかってる」
霊夢は焦る。
ここまでの危険がある異変は初めてだ。しかも、早苗みたいな感染者が他にもいるかもしれない。それに恐怖を覚えない方がおかしい。
だからアイツを呼ぼうとして『──』を緩める。が、来ない。
魔理沙も若干焦りを覚える。というのも──
「おいおい、勘弁してくれよ。何でそんなに風邪引いてる奴がいるのぜ? まさか、その全員が黒死病にかかってるなんて言うんじゃないだろうな」
「その可能性は低いだろうさ、感染者がいても一人だろうな。感染するにも空気感染ではないはずだ。さらには接触しても黒死病にかからないようにも思える」
その憶測がある考えに、カイは疑問した。
「それは……安心していいのか? 守矢神社で二人は被害者が出てるんだ。これ以上増やす訳にはいかないだろ」
「勿論だ。だから紫様は風邪を引いてる者に会いにいき、ついでに裏幻想郷にいけるか訊いて欲しい、だそうだ」
「……それは伝言か? それとも今ここで言ってるのか?」
「…………」
カイは藍の発言に違和感を覚えていた。故に鎌をかけている。
「今だって俺たちが知ることのなかった言葉を喋ることで時間を稼いでいるようにしか見えなかったぞ、紫。出て来たらどうだ」
「どうしてバレたのか気になるけど……まぁ正解よ」
そう言いながら境界から守矢神社に姿を現す。
「紫様! 今コチラにきたら!」
「いいのよ藍。どんなことでも幻想郷を守るためなら問題ないわ。それと一つ訊きたいわ。カイ――貴方はどうして私がいたのが分かったのか……喋ってはくれないかしら?」
「……ん? あぁ……。勘も少しあるんだが、どうも自分で喋ってる言い方ではなかったし、伝言でもあそこまで臨機応変には対応できないだろ、だから紫の境界で話を聞いて、藍に答えさせていたんじゃないかって思ったんだ」
「……やはり、貴方は人間としてはとても優れた能力を持っているわね」
「──紫、なぜ今になってでてきたのかしら。私が結界を緩めても出てこないのは初めてよ」
霊夢が紫を呼び出すことは意外と簡単で、博麗大結界を緩ればいい。先ほど霊夢は結界を緩めたのだが出なくて内心結構焦っていた。
「……今回ばかりは幻想郷が破壊されるかもしれない。しかも解決方法は私が行きたくない場所にある。だからあまり出たくなかったのよ……」
紫からいつもの明るい雰囲気が感じられない。それはヤバい状況がこの幻想郷という場所で起きていることを醸し出す要因となる。
「で、裏幻想郷ってなんなのぜ? まだ訊いてないぜ」
「悪いわね、話を取っちゃって。ここからは私が説明するわ。裏幻想郷はこの幻想郷と対をなす幻想郷なのよ。裏幻想郷は私たちと同じ人が住んでいる。そこにはある程度の違いがある人や妖怪、さらには外見は同じなのに性格が真反対だったりね。でもしてはいけない行為がある。それが裏幻想郷の住人は『裏から表には行ってはいけない』ってことなの。もしそれをすればソイツは消える。今回の異変は本来できないことをした妖怪か人間がいるから起きた程度の認識でいいはずよ。それで用件としては、貴方たちがその裏幻想郷に行って異変を解決してほしいのよ」
紫は裏幻想郷とその異変をある程度まとめて話すが当然疑問が絶えない。
「それなら裏幻想郷で起きてる異変がこっちの幻想郷でも起こってるのぜ?」
魔理沙は皆が疑問に思っていたであろうことを投げ掛ける。
「あら、言うのを忘れていたわ。この異変の元凶は裏幻想郷の妖怪だと思われるけれど、その異変の影響は表幻想郷、つまりここでしか影響を受けていないの」
「それはどういう意味なんだ、紫」
カイでさえも意味が分からなかったからか、紫は少し嘆息しながら言う。
「裏幻想郷が異変の原因なのよ。でも裏幻想郷の住人は気付いていない、見てきたから本当よ。しかも裏幻想郷は黒死病の感染者さえもいないようだったわね。だから表の幻想郷でしか気付けない、ということよ」
皆は納得する……かに見えたが霊夢が疑問をもち、質問を投げ掛ける。
「紫、なんでその異変が──」
「──霊夢、それは質問してはいけないわよ」
「「?」」
魔理沙と諏訪子は疑問符を浮かべたが、カイと霊夢は察しがつく程度には判った。
「これから私は冬眠しなくちゃいけないの。だから、この異変を解決するために裏幻想郷に行ってほしいの。そのために私の境界で裏幻想郷に行ける準備をするわ。そして──」
「おい、待てよ。霊夢の質問分かったんだろ? だったら答えるべきだぜ」
紫が霊夢の質問を遮る態度に魔理沙は腹が立ち霊夢の質問に答えろと命じるが──
「──!?」
「いい? 貴方はまだ幻想郷にある核の部分を知ってはいけないの。今の口答えは今後は無しよ」
紫は境界の能力で魔理沙の真横に移動し、耳元でそう囁く。
魔理沙はゾッとする。紫がここまでの事をするのは今までなかった。軽い警告ぐらいは受けたことがあるが、この異常なまでの警告は受けたことがない。だから従うしか無かった。
「……あぁ、分かったよ。話を聞けばいいんだろ」
「そうよ。それで私はこれから裏幻想郷の境界を開く。裏幻想郷までの境界は開きにくいから少し時間が必要なのよ。それまで風邪を引いている妖怪に会って黒死病かの確認。それが済んだら異変が起きて大変だから協力してほしいと言って」
「あぁ、そうか。分かった。んで、すぐに呼んだ方が良いんだよな?」
「でもね、その前に一つ。黒死病にかかった妖怪には『紫の約束』として守矢神社に来てほしい、と言ってほしいわ」
「これは質問していいのぜ?」
魔理沙が若干ビビりながら紫に聞く。
「場合によって回答は控えるけどいいわ」
「じゃあ質問だ。『紫の約束』、これを言わないといけないのは何故なのぜ?」
「回答できないわね。しかし言うのよ、絶対にね」
魔理沙は背筋がゾッとするのを感じた。今までの紫がここまでの威圧感を漂せたのはほとんど……否、天子が怒らせた一度しかない。そして今、魔理沙はその威圧に気圧されている。つまり、また従う他ないのだ。
「……分かったぜ。それ以外は何も無いのぜ?」
「ないわよ。じゃあ、守矢以外でどこに行くか決めて藍に言ってほしい。私は少し戻るわ。後は藍、よろしく」
「はい。承りました」
紫は自身の境界を使って守矢神社から去る。
「では、これから私は全員の行き先を発表する。異論があれば言ってほしい。まず、霊夢は地霊殿。魔理沙は紅魔館。カイは永遠亭に行ってほしいと考えている。諏訪子はにとりを守矢神社に連れてきてほしい。早苗と神奈子は安静。何か意見は?」
「特には」
「ないぜ」
「ないわよ」
「ないかな? 早苗にそう伝えとくよ」
「そう……か。じゃあ、これで話し合いは終わりだね。それぞれ目的の場所に行ってくれ。カイたちは『紫の約束』を忘れずにな」
皆がそれぞれ承諾し、散らばる。
こうして異変を解決するための物語に話は進む。
地獄と天国、夜と昼、月と太陽、これらはなぜ対義とされるのか。そして何故、表幻想郷と裏幻想郷は対なるモノなのか、分からない。