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裏幻想郷 ~黒死異変~  作者: ザ・ディル
裏幻想郷 ~黒死異変エンド~
46/50

45話 8vs1


 時はチルノが暗闇の世界に囚われた時間。

 咲夜たちは霊夢たちと合流していた。

 

 目の前に見える暗闇に思わず咲夜は訊く。

 

 「霊夢、あれは何があったのかしら?」

 

 「ルーミアの身体をもった『裏』のサグメが『カード』でアレを作り出して、それで『裏』のチルノを暗闇に取り込んでいったのよ」

 

 「「「「…………」」」」

 

 その瞬間、空気が凍る。

 なぜ、紫たちに裏サグメの相手を任せたのにどうしてここにいるのか分からない。

 それぞれ考えることは違う。紫たちから逃げて先回りされた。もしくは紫たちを倒してしまったと考える者もいた。そして何より、ルーミアの身体をのっとったことを誰も知らない。

 だが、しかし、それでも目の前で起こっていることに対しては冷静に、そして迅速に対処しなければならない。

 

 「……どうしたんだぜ? そんな黙って………」

 

 沈黙が続き、我慢できなかった魔理沙はその疑問が頭の中で巡りめぐっていて、故に質問した。

 カイは答える。

 

 「……『裏』のサグメは今、紫たちと戦ってるはずなんだ。なのに、今ここにいる。だから驚いたんだ」

 

 「「「……!?」」」

 

 魔理沙、霊夢、妖夢は驚きを隠せない。

 紫を倒したかもしれない。どうしてもそのような考えになってしまう。

 

 「まぁ……、それはいい。今はしっかりとサグメを対処しよう。そのためには……誰かあの暗闇を対処した方が良さそうだな。誰かあの暗闇からチルノを助け出す術をもつやつはいるか?」

 

 「……(わたくし)が行きます」

 

 咲夜はそう言い、すぐにチルノを助けに行った。

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 サグメは怒りをぶつける場所がなく、自身が展開した暗闇の世界で適当な『黒』を作り出して、『嘘』を使ってその『黒』をいたぶりつくし、ストレスを軽減する。

 暫く続けて、呼吸を整いたあと、暗闇の世界を解除して裏幻想郷の霧の湖に姿を現す。

 そして再び、怒りを露にする。

 

 「ふざけんなよ……! どうしてこうなる……!? 私はこんなの望んでないのに……、いつもどうしてなんでこうも異常なまでに上手く事を運べない!?」

 

 ただただ、ギャーギャーと騒ぐ子供のように怒りを言葉として表し尽くすのは、異様で異質なチカラ(能力)をもつ、ルーミアの身体を乗っ取ったサグメ。

 

 「……お前の目的は結局なんなんだ?」

 

 その言葉を発したのは先ほど諦めかけて死を受け入れていた裏幻想郷のチルノだ。

 まだ、四肢は痛むらしく、表情に苦痛が見え隠れしている。

 

 狂者は真剣に、悪辣にいい放つ。

 

 「『表』を殺すことだ」

 

 「……じゃあなんで『裏』であるアタイを殺そうとする?」

 

 「クソみたいな『表』の(やから)を保護しようとしているからに決まっているじゃないか!!」

 

 「……そもそもお前が『表』を憎んでいる理由ってのは『裏』に被害を与えたからだろ? それなら今お前がやってるのはいたちごっこだ。お前が憎んでいる『表』とやってることが変わらないじゃないか。違うか?」

 

 純粋に、疑問だったからチルノは訊いた。

 その質問にサグメは、

 

 「いや、『表』に協力しているお前らがいけない」

 

 「…………」

 

 話にならない。言っていることが滅茶苦茶で、何一つ(まか)り通ってない。

 常人の範疇を軽く超えていて、変人という範疇も超えて、ただただ異常なモノが喋っているだけ。そうとしか思えない返答だった。

 

 「現に今、裏幻想郷の一部も私を殺そうとしてリンチ状態にしようとしているだろ?」

 

 確かに構図としてはリンチと言っても仕方がないのかもしれない。

 

 『嘘』だけを扱うサグメから逃げて咲夜、ウドンゲ、こいし、カイが霧の湖に合流した結果、8対1の状況だ。

 状況は絶望的で、しかし情況では怒りを満たし続けているサグメ。

 絶望的なのに、絶望しない。

 怖いもの知らず。そう言えば勇猛果敢な気はするけれど、本質は子供でも分別できるような絶望を拒み、ただただ憤怒を貫くだけ。

 

 「死ねっ!」

 

 それはただの暴言ではなく、暴言を吐くと同時に、霧の湖から『黒』がサグメ以外に襲いかかる。

 

 各々はそれを撃墜する。

 だが、

 

 「ペストカード発動! 黒世界『ザ・ダーク』!」

 

 一人だけ暗闇の世界に囚われる。

 

 それは……咲夜だった。

 

 「また……! あのとき(嘘の世界)と……似ている……!?」

 

 「ライカード発動! 嘘扱『ライ・アクト』!」

 

 咲夜が驚愕している間にサグメはすぐ手をうつ。

 それは『黒』を『嘘』で固めること。異質に異質を重ねる。するとどうなるか?

 それは、今まで『黒』だけならば、『嘘』だけならば解除できたものが、二つ同時に存在するようにしたこと。それらは絡みつきほどきにくい。

 それを一番理解していたのはサグメで、その安心からか、

 

 「本来、暗闇の世界は私を見えないためのもので、同時に幻想郷や裏幻想郷からも隔離できるものだ。でも私はお前の為に暗闇から姿を現す」

 

 そして、暗闇の世界のはずなのに咲夜はサグメが見えた。

 咲夜は思っていた考えをサグメに話す。

 

 「貴方は…………いいえ、貴方たちは二人いるのかしら?」

 

 もし一人だけだったら移動するのがあまりにも早すぎるのだ。

 どうしても、二人以上はいるとしか考えられない。

 

 「ん? まぁ平たく言えばそうだよ。でも“本体”の方は失敗したって聞いた」

 

 「……本体……?」

 

 「あぁ、本体だ。お前は死ぬからな、種明かししても問題ないな。私の能力は嘘を司る程度の能力。でもなぁ、嘘でもう一人の私がいるという嘘は不可能だった。だからもう一人増やすことよりも、ルーミアの魂を『嘘』のチカラで支配することにした。そして、ルーミアの精神が私だと嘘を吐く。それによって私は実質的には二人になった。もっとも、本体の方が弱くなるとは考えてもいなかったけど……」

 

 「……私が死ぬと思っているのならもうひとつ、教えてくれないかしら?」

 

 「なんだ?」

 

 「スペルカード発動! 世外『ディメンションモーメ――……!?」

 

 声を出していたはずなのに、いきなり声が出なくなっていた。

 

 「そうか……、私を油断させてここから簡単に逃げ出そうとしてたのか。まぁ、この世界から逃げ出すことは既に無理だと思うが、先に『暗闇』で『カード』を使いまくって正解だったな」

 

 サグメは既に先手を打っていた。

 

 暗闇の世界では、サグメの姿を消す以外にも様々な効果を発揮する。それが、暗闇の世界に囚われた奴に聞こえないように『カード』を発動できることだ。

 さらに言えば、暗闇の世界に囚われた奴は感覚器官をどれだけ研ぎ澄ましても、サグメのことは『無』の状態に感じてしまう。否、サグメのことを感じとれない。

 どれだけ探知能力が長けていようとも探知できない。

 

 そして、咲夜が知らない間にサグメは無数の『カード』を使った。

 主に、相手が反撃をしてきた場合という条件で。次点で逃げた場合という条件で。

 

 「攻撃も逃げもしないなら、言葉は普通に話せるからな……。思う存分、嘆いて悲観的になって絶叫してもいいよ。私が許すし、私はそれを好んでいる」

 

 「……外道が…………!」

 

 「外道で結構。私はいつも外道だ。何より『表』を滅ぼすこと自体が外道と言われてきた。もう慣れているさ……、慣れきっている……」

 

 サグメの瞳から涙が溢れている。それは狂者故かそれとも――、

 

 「………………(わたくし)も昔は外道とよく言われたものよ」

 

 「……同情でもしたのか……? そんなことを話し始めて」

 

 「まあそういうことにしとこうかしら。私は人だったのに怪物と、化け物と戦うために、常人の感覚を売ったことがあるわ。それで手に入れたのが『空間を操る能力』。でも、私はその能力(チカラ)に頼り続けて、負けた。そして自分も人間の化け物であると諭された。だから自分は外道だと思ったわ」

 

 「それで……お前は何が言いたい?」

 

 「貴方も私と一緒に道を歩いてくれないかしら。外道という道ではなく、……例えば、正義の道を歩いてはくれないかしら?」

 

 咲夜は考えていた。

 どうすればこの状況から逃げられるか。

 どうすれば、この状況からサグメを倒すことができるのか。

 考えて、考え抜いた結果、サグメを一時的に無力化することに至った。

 サグメには大人の感覚というものがまったくないように見える。何も知らない頭幼児が偶々強大なチカラをもってこの異変を起こしているようなものだと咲夜は思っている。

 だから最善策と思われたのは信用、信頼だ。

 これを勝ち取ることは一般的には人生の経験の歴が、長ければ長いほど難しい。

 しかし、彼女は浅い。というよりもほぼない。なら、それが有効ではないかと咲夜は捉えていた。

 

 「ダメだ。私は正義の道には逆らってしまう」

 

 「なぜ……?」

 

 「狂うことしか叶わないからだ」

 

 「…………」

 

 異常な会話に終止符を打つような一言だった。

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