39話 想定外な大妖怪
サグメの世界は完全に崩壊した。それを一番理解しているのは当の本人。しかし、崩壊しているようなその自我でも、世界の崩壊の理解はしていて、されど拒絶を言葉にする。
「はっ……? なんで、頭おかしいんじゃねぇの? なんで私の世界が壊れるんだ? 有り得ない……有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない!!」
髪を掻き毟り、顔を掻き……、異常なまでの狂いを見せる。
それを見てカイや咲夜たちは畏怖する。
だが、そんな彼女の行動は急に冷静に至ったのかやめた……。
しかし、冷静に至っていないことが次の瞬間わかった。
「――あっ……、何も慌てるべき時ではないよね。だって私には『嘘』があるんだから。ライカード発動! 嘘扱『ライ・アクト』!」
嘘を操り、とあることを真実にする理不尽極まりないその技は簡単に行使される。
今回、サグメが操った行為はサグメの世界が崩壊したのを『嘘』にする行為。それはつまりサグメの世界を再び展開することになる。しかし――、
「ライカード発動! 嘘扱『ライ・アクト』!」
サグメの世界は展開されない。
「…………はっ……? ……なんで……なんでなんでなんでっ! お前みたいなクズがそれを使えるんだふざけるなっ!」
カイはサグメの『カード』を使用していた。
そして、それに異常に反応してしまう彼女は激昂し続ける。
そんな姿を見ていたカイはため息をつき、
「知らなかったのか? 俺を『イレギュラー』という存在だと知っていたなら『カード』の能力をパクれるぐらい、普通であれば知っているはずだ」
「…………なんだ……ただそれだけなんだな。いや、そう言えばそうだったな、イレギュラーの能力というのは厄介で、でもバレれば対策しやすい……。それほどのことになぜ……なぜナゼ何故! 私は気づかなかったんだ! だから死ねっ! ライカード発動! 嘘幻『現世滅ぼし』!」
支離滅裂。無理やりな、いい加減でどうでもいいような感情によって、他者に殺意を向ける行為――卑劣で非道で無道で無惨で無情過ぎる、そんな彼女は完全に壊れている。
そんな彼女も知恵を、頭を捻りだして予想外の一手を繰り出すことは造作もない。
「なっ……!」
カイは気づいたときには再びサグメの世界に引きずりこまれていた。
さっきのサグメの『カード』は世界の一部分に『嘘』を撒き散らし、再びサグメの世界を造り上げるものだ。
「はぁ……ようやく戻れた……。今度はあの技は発動させないからな、イレギュラー……!」
その瞳は血が迸り、怒りしか見えない。
その怒りを含めた声を出し、
「ライカード発動! 嘘真『ライ&トゥルー』!」
裏幻想郷のサグメだろうがなんだろうが、人は、妖怪は、神は、幻想郷の住民は学習をする。当然、このサグメも例外ではない。
カイのネタばらしによって同じ『カード』を使わないようにしている。これがカイを一番倒しやすい方法だとサグメは考えていた。
『ライ&トゥルー』は『ライ・アクト』と表面上、ほとんど同じ効果を発揮する。『ライ・アクト』は『嘘』を操る。『ライ&トゥルー』は『嘘』を『真実』にする。似ているが非なるもの。
そして今回、『嘘』として指定したものは『カイはカードを使えない』というもの……。
これにより、カイは『カード』の使用が不可能になる。
――……何かないか……? 逆転の一手、探せっ……!
探して模索して策略を巡らせようと必死だが、『カード』の使えないカイにできることはほとんどない。だから暫く逃げながら考えようとするが――、
「……っ!」
サグメの世界は『嘘』によって、身体を動けないようにされている。それに気づかされた。
唯一、相手の懇願を聞き入れるかのように口だけは動かせるような状態にされているが、それでは今のカイはこの世界から脱出することは不可能だ。
「ようやく……ようやくだ……。これでじわじわとイレギュラーをなぶり殺せる。それもこの手で、だ。……カタルシスを味わえる! どれほどこの絶好の機会を待ち望んでいたことか! 私はイレギュラーのすべての心の中を知りたい。さっきの過去を見るだけなんて覚り妖怪なら誰でもできる。ああ、愉悦! 悦楽! 快楽! 滾る! 面白い! 相手が未知であればあるほど面白い! 貴様のすべてを見せろ……!」
そして狂者は口を開き、さらなる過去を真実を、より深いカイの真相を暴こうとし、
「ライカード発動!虚否実『心視』―― 」
「スペルカード発動! 世外『ディメンションモーメント』!」
突如、世界の境界など気にせずに瀟洒なメイド――咲夜はサグメの世界に侵入。カイに触れ、サグメの世界からカイと、咲夜は虚空に消え去る。
「はっ? なんで? 横取り? 横取りなのか? ふざけんな! クソ野郎ども! 私の世界に侵入して! 挙げ句の果てに、イレギュラーを逃すなんて! 『表』の咲夜だよなあれはぁ? 絶対に貶めてや――」
――る。
と、普段であればそんなこと言っていたのだろう。
しかしそこに思わぬことが起こる。
サグメの世界が再び消えた。
なんの脈絡もなく、無造作に、跡形もなく。
「はっ……? いやいや、ちょっと待ってくれよ! これは夢か? 1日に2回も私の世界が破られるとか? あり得ない! 誰だよ、こんなインチキみてぇなことやったやつは!?」
「私……と言ったら貴女は驚くのかしらね? 裏幻想郷のサグメ」
そこにいた彼女を見て、サグメは狂わずにはいられない。
「お前……事実上死んだだろ……。…………もしかして私こんなに狂っちゃったからこんな幻覚まで見ることになったのか――」
――な?
そんな他愛のない話をしていたが、
「いえ、正真正銘の現実よ」
それ故に、サグメは激昂する。
「はぁ!? あのときお前の意識は完全に操ったはずだぞ!? どうして私の方にくるんだ!?」
「どうやら制裁でも与えなきゃいけないようねぇ? これ以上幻想郷が歪まれていても困るから貴女は消えてもらうしかないわね……――」
彼女は妖艶な体躯で幻想郷一強いといっても過言ではない。
その彼女は――、
「私――八雲紫から直々のオシオキが必要ね」
裏幻想郷のサグメによって操られていたはずの紫だった。




