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裏幻想郷 ~黒死異変~  作者: ザ・ディル
裏幻想郷 ~黒死異変エンド~
36/50

35話 打開策


 銀色の短髪が(なび)くほどの速さを出していたのか分からないが、妖夢の――裏妖夢の髪は揺れ動いていた。そして魔理沙をいつの間にかお姫様抱っこしてる状態で助けていた。

 

 「助かったぜ妖……夢? あれ? いつもの妖夢じゃ……ない?」

 

 「私は裏幻想郷の妖夢ですよ『表』の魔理沙さん」

 

 そう言いながらにこやかに笑うが魔理沙は少し疑問に思うところがあった。それは幻想郷の妖夢とは別の姿で分かるものをみていたからだ。

 それに気づいたのか裏妖夢は苦笑しながら答える。

 

 「ああ、これですか――」

 

 そう言いながら触るのは右眼――失った眼を覆っている眼帯だ。その裏には自身を自傷し、眼に風穴を開けたかのような瞳を――否、瞳さえもない眼が見えてしまうだろう。

 今は咲夜たちの戦闘後から暫く経ったとはいえ、その眼は見るに堪えない。

 

 「――これは……馬鹿な私だから付いた傷ですよ。『表』の妖夢さんに関係することではありません。だから気にしないでください」

 

 「そう……か、分かったぜ……」

 

 魔理沙でさえも返答に困った。それほどゾッとするものを見ていた気がした。

 

 「魔理沙! 妖夢! 『黒』が来てるっ!」

 

 霊夢の声が聞こえ、魔理沙は理解した。『黒』はまだ倒してもいないのだ。裏妖夢のチカラで魔理沙に取りついた程度の『黒』を()ぎ払っただけなのだ。

 『黒』はなおも以上な数の『黒の球体』を作り出して霊夢たちに放っている。

 

 「霊夢さん、魔理沙さん、手は出さないで下さい」

 

 言葉で場を征し、二つの刀を鞘から引き抜く。そして――、

 

 「元正斬(げんせいざん)

 

 刀を『黒』に当てることで正される。そして『黒』は(ことわり)の範疇内に移動。故に、『黒』は無いものとみなされ消滅。無かったことにされる。

 

 「すげぇ……!」

 

 あれほど苦戦していた『黒』という存在自体を目の前で消せばそんな単純であるような感想しか述べられない。

 しかし、

 

 「……ルーミア……」

 

 刀剣士――魂魄妖夢は友人、ルーミアのことで頭の中に渦巻きが発生している状態で、そんなことを凄いとは何も感じていない。

 その独り言が聞こえた霊夢は、

 

 「やっぱり、あの中にルーミアがいるのね」

 

 「……えぇ、いる……はずです」

 

 それは確信は無かったように見えないが、いると考えてしかいない妖夢の考えが窺えた。

 それを間近で見ていた博麗の巫女はあるアイデアを思い、率直に述べる。

 

 「私が貴女を……無敵の状態にするわ。だから行って」

 

 「……む……てき……?」

 

 会話の意図が把握仕切れない妖夢を見て霊夢はあることを失念していたことに気づく。

 

 ――ここの霊夢は夢想天生が使えない……。

 

 奥の手とも言えるような夢想天生をあの二人の霊夢が使えないことを今、知り得た。だから――、

 

 「無敵状態について説明する時間はないけど、感じとってもらうわ」

 

 その言葉の意味を反芻しても妖夢は理解できない。だが仕方ない。いきなり「私の能力は空を飛ぶ程度の能力。そしてその能力は人を『浮かす』ことで無敵状態になる」と、言っても意味が伝わりにくすぎる。だから妖夢の直感を信じた。

 霊夢は意識する、妖夢を『浮かし』、無敵状態にすることを。

 無敵状態となったとき、ほとんどの者はなんとなくだがある感覚を受ける。それは無敵状態になったことへの理解だ。

 

 「これが……無敵になったという感覚……? しかし本当に無敵なのですか……?」

 

 至極当然の疑問。

 だが、それで納得して貰うしかない。そうでなくては何も始まらない。

 

 「信じて……!」

 

 まだ出会って間もないこの状況である。当然難しい。

 

 「……信じるのなら……私に信用を勝ち取らせるつもりなら……、今、咲夜たちがどこにいるのか教えて……。私は幽々子様に無理を行ってここまで来たんです。だから……教えていただけませんか?」

 

 「えっ……?」

 

 あまりにも突拍子な発言のソレは脈絡のないものとしか思えない。それ故、何故か自然と妖夢の無敵状態を解除してしまう。

 

 「咲夜たちは来てないぜ」

 

 霊夢が放心状態のため、その質問に答えたのは魔理沙となった、のだが……、

 

 「では……咲夜たちはルーミアの『黒』に呑み込まれた……とでも?」

 

 「……? どういうことなのぜ?」

 

 その情況をみることで妖夢は理解を得る。

 

 「――! 私はルーミアに特攻します」

 

 その言葉とほぼ同時に『黒』の、ルーミアのいるところに駆けていく。

 

 「「――!?」」

 

 当然、驚く。それも仕方ない。二人は妖夢の内情も、咲夜とウドンゲの行方も、何も知らないから。

 

 異常なまでの速さでルーミアのもとへ駆けていくその姿は自殺行為のようにしか見えない。もっともそれがなんら策のないことであればだが。

 ルーミアは、否、『黒』は反撃を開始するためなのか再び『黒』を変化。『黒の球体』、さらには『影』のようなものを伸ばして妖夢に襲いかかる。

 

 「元正斬(げんせいざん)

 

 だが、関係ないのだ。『黒』は妖夢の所持している刀によって一刀両断される。

 剣士は肉薄、『黒』の水面にたどり着く。そして――、

 

 「元正斬(げんせいざん)

 

 すべてを正そうとする、が――、

 

 「……何も……変化……しない……」

 

 『黒』は正すチカラをまるで無効化したかのように『何も起こらなかった』ような状態を維持していた。明らかに『黒』という存在は異常を表しているのに、強制的に正常とさせるチカラが効かなかった。

 

 「――!?」

 

 妖夢は水面だけを見ていた、故に気づかなかった。

 『黒』が妖夢を覆っていた。

 妖夢は反撃するために刀を振るうが――、

 

 「――間に合わない」

 

 それほど『黒』が速かった。既に『黒』は妖夢の手元まで憑かれ、自由を失っている。

 

 「くっ……!」

 

 刀を振れば消滅できるのにできない。そんなもどかしさに襲われながらも、今はどうにかして脱出できなければ、死ぬ。

 しかし、脱出など不可能だ。

 呼吸は既に拒まれ、息はできない。頭に酸素が送られず、判断する力が曖昧にされる。足を、手を、身体を動かそうとするが『黒』に雁字搦(がんじがら)めにされて身動きすることすら許されない。そして気を失ってしまった。

 

 

 * * * * *

 

 ここは『黒』の水面のすぐ隣の、ただただ平坦な芝。そこに――、

 

 「妖夢大丈夫か……?」

 

 「んっ……?」

 

 声が聞こえ、自然と目が開き、声の主を見る。そこには――、

 

 「妖夢、私だよ。チルノ――ブイリェ・チルノだよ」

 

 ルーミアの友達、そして妖夢の友達でもあるチルノが目の前にいた。

 

 「『黒』は……?」

 

 妖夢は焦点があってないからか、チルノの姿がぼやけて映る。

 

 「いるよ……」

 

 「――!?」

 

 ぼやけていた故に妖夢は見えていなかった。その異常な光景に。

 大量の『黒』がチルノに襲いかかっていた。

 

 「チルノ! 危ない」

 

 「チルカード発動

 凍黒『ブラックフリーズ』 」

 

 『黒』はおびただしいほどの氷によって遮られる。そして、消滅。

 同時に妖夢は気づく。チルノはこの技で妖夢を助けてくれたということを、だ。

 

 チルノは妖夢の右眼が無いのか疑問だったが、それが最近、それもつい先ほど失ったという気づく。それは妖夢が片眼に慣れてない仕草をこの短時間の間でもとり続けていたからだ。

 それ故に、妖夢を心配し――、

 

 「妖夢は休んでて。後は、私たちにまかせて」

 

 その言葉には熱の篭った言葉で、しかし極めて冷静を保ち続けているようなそんな目で、そういった。

 

 「――いえ、私も行きます」

 

 「……分かった」

 

 だが、それは妖夢の目にも宿っていて、それ故、チルノは拒むことができなかった。


物語は佳境へと入る。だからだろうか。『偽り』に塗りたくられたものは直せない。

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