23話 隠れし者はまだいたようです
今現在、霊夢は裏幻想郷の博麗神社である程度の情報を得ていた。いつの間にか、魔理沙とこいしは楽しげに、和気あいあいと喋ってるようだった。
だが、霊夢はまだ多く話をして情報共有しないとマズイ状況だと察していた。幻想郷側と本来は連絡をとるはずだったのがとれない、そんな状況に陥ってしまったのだったから。
そんなとき、裏霊夢――風を操る霊夢が口を開き話す。
「あー、私も裏幻想郷の一人として聞きたいことがあるんだーけど、言ってもいー?」
「どうぞ」
少し無愛想に霊夢は振る舞い、答えた。
「幻想郷は今、ヤバすぎる状態にあるのー?」
「どういうこと?」
あまりにぼんやりとした言い方なので霊夢はあまり意図を理解できなかった。
「だってさー、ルーミアが動くだけのモノに成り果ててからもう2年ぐらいの歳月が経っているからー。今までその黒死病ってヤツを放置してたのー?」
空気を操る裏霊夢は、『重力』の霊夢との融合で得た情報をシェアされていたので、そこからその疑問に到っていた。そして今、その疑問をふと口にした状態である。
「2年もたってるの……!? ……、これは、私の推測だけどそれでもいいなら……」
自信なく、霊夢はそう答える。
裏霊夢は「どうぞどうぞー」と言ったので霊夢は喋り出す。
「恐らく、ルーミアが発生させた黒死病が充満し続けた結果、なんらかによって漏れ出して――」
「――それはー、裏幻想郷では黒死病にかかってる妖怪や人間がいるって前提でしょー」
「うっ……」
正論を言われ、ぐうの音もでない。
しばらく、というか10秒後くらい経ち、裏霊夢は「やっぱりかなー」と言い出しながら言葉を紡ぎ出す。
「これ、黒幕は絶対にいるよ」
「紫はそう言ってたわよ」
互いに硬直。
硬直を打ち消したのは裏霊夢だ。
「なーんで……なんで最初に言わないかな、その前提条件をさー」
「だってルーミアが死んで2年たったで、いきなり黒幕について考えられた状況だと思う!?」
「思うねー!というかさっき黒幕がいるかの話をしたと思うんだけどー!
っとと、脱線は避けなきゃいけないねー。結構危機的情報かも分からないからー、早いに越したことはなーい、ってねー」
そう言い、再び本題に戻り裏霊夢は喋りだす。
「黒幕はいる。検討はある程度はついてると思われるかなー」
「それを私にも共有しようという発想には到らないのね、残念だわ」
先ほどの正論を返されたのが相当悔しいのか分からないが再び悪態をつき始めている霊夢がいた。
だが、裏霊夢はそんな霊夢を華麗にスルーしながらも話を進める。
「いや、共有以前の問題だろーね。紫は恐らく検討はつけているが誰にも教えていないよーな状況だと思うよー」
「それは……?」
「黒幕が私の相方、『重力』の私を騙したからな。無理やりにでも情報を教えれば相手は戦況が分かってしまう。だから戦況を黒幕に分からないように撹乱してるだろーね。もし、教えるなら自身をも偽れるような人物――幽々子ぐらいだとおもーよ」
「なるほどね……。……あっ、興味本位だけど1つ訊きたいことがあるわ」
霊夢は急に思い出したかのようにそう言った。
「言ってどーぞ」
「なんか分からないけど、裏幻想郷に来てから上手く自分の能力が使えない、言い換えれば能力が制限されているような気もするんだけどそんな状況なのよ。幻想郷の住民は裏幻想郷に来ると何か不利になるように勝手にされてるのかしら?」
「それは幻想郷と裏幻想郷のある程度のズレがあるからだとおもーよ」
「それは……例えば……?」
「例えば……ねー。例えば確かだけど幻想郷と裏幻想郷は酸素濃度が少し違う。重力も同じように違う。さらには博麗大結界も違うのよー」
色々と裏霊夢が例を出してくれたが気がかりなことが霊夢にはあった。
「博麗大結界が違うのはいくらなんでもマズイ気がするんだけど……」
「大丈夫よー。博麗大結界だけで言えば幻想郷よりも安定してるからー」
「それはどういう……?」
「簡単よー。裏幻想郷に霊夢は二人いる。つまり博麗大結界は二個あるのよ、そっちとは違ってねー」
「はあっ!?」
博麗大結界が裏幻想郷には二つある。その事実を知り霊夢はこれ以上ないほどに驚く。
「よくよく考えれば分かるでしょー。裏幻想郷に霊夢が二人いる理由が博麗大結界が二つあるってことにならないと思わなーい?」
「それとこれとは別でしょ。なんで二つも……」
「それはねー、それほど多くのイレギュラーが裏幻想郷にはあるんだよねー。裏幻想郷にはー、イレギュラーは付き物だからねー」
さも当然のように裏霊夢は話しているが納得するのは難しい。それほど、だ。
ここで新たに疑問が霊夢に生じる。
「じゃあ、博麗大結界が二つ有るなら片方壊れても問題は無いのかしら?」
「問題多ありだねー。だから二つあるんだけどー、それがどうかしたー?」
「……まぁ、どうかしたってほどでは無いけど、裏付け、というか根拠みたいなものはしっかりあるわけね」
霊夢は少し変な納得をしてしまい、裏霊夢に違う印象を与えてしまう。
「やめてくれよー。その言い方じゃーまるで私や他の裏幻想郷の住民が幻みたいな言い方じゃないかー」
「……あぁ、ごめんなさいね。裏幻想郷があること自体、今日知ったようなものだから誤解を生む言い方をしたわね」
「別にいーよー、許すー。……っと『表』の私にある程度説明したから次に聞くこと聞かないとー。悪いけど魔理沙とこいしを読んでもらえるー?」
その言葉に霊夢は従い、こいしと魔理沙を呼ぶ。そして裏霊夢が話を切り込む。
「霊夢にはあらかただけど、裏幻想郷のことについて、今回の異変については伝えたよー。それで『表』のこいしは何を教えてくれるのかなー」
「……どういうことなの……」
いきなりの話に頭が混乱する霊夢が、そこにはいた。
そこに魔理沙が耳打ちをする。
「霊夢に裏幻想郷の情報を教えればこいしがとっておきな情報を教えるって話になってるのぜ」
「へー……、というか最初は私にこの話をする気は無かったってことかしら?」
「そうらしいぜ」
霊夢は合点がいった。なぜ、裏幻想郷の情報を敵の可能性も有るかもしれないのにこれほどの情報を提供してくれたのかが分かったからだ。
「情報というかー、助っ人を呼んできました! 霊夢たちが戦ってるときだけどね。でてきてー」
「やあ、空気の霊夢……久しぶりね。アタイのこと覚えてるかな?」
「「「――!」」」
何もないところから急にとある者が姿を見せる。
その正体はチルノ――正確に言えば裏幻想郷のチルノ、裏チルノだった。




