20話 マゼンタ+黄色=赤
「はっ?」
霊夢がまた1人増えたという摩訶不思議なことが起き、魔理沙のパートナーの霊夢が困惑し、出た声がそれだった。
「……助かったよ……」
「じゃあチャッチャカ働いてほしいかなー。それにしてもいくら相手が二人とはいえアンタが負けるとはねー。オマエらはー……処刑だ」
その霊夢は親指を下に向け、いかにもヤバそうなヤツだと霊夢、そして魔理沙は感じ取っていた。さらに服装も裏霊夢、霊夢と違う色の巫女装束――黄色と白を基調としていた。
相手のやりとりを見て霊夢は理解する。
――仲間か……この二人は。
会話からしてそうとしか判断できなかった。
新たに来た霊夢は「それじゃあ」と一拍おいて、
「モード:ウィンド、ってーねー」
「――っ!」
異常な速さで動き出す。それは幻想郷の霊夢と同じぐらいの速さ。そして一気に魔理沙に肉薄。
魔理沙は逃げるが、それ以上の速さで追いかけられる。結果、もう目の前にソイツはいた。
「ウィンドカード発動! 魔風腕『ウィングスクープアウト』」
「――っ!」
『カード』の効果によってパンチの威力が上がった霊夢は魔理沙に殴りかかる。
魔理沙はそれを紙一重でかわす。
「ナロースパーク!」
魔理沙は『カード』宣言の時間が無いと判断し、マスタースパークの下位互換であるナロースパークを放つ。
「がっ――」
これが肩にヒットする。マスタースパークの下位互換とはいえ、それを目の前で喰らえば無傷で済むはずがないのだ。
「モード:エア!」
相手は追撃するかもしれないと思ったのか、魔理沙から急速に離れてその言葉を呟く。
「エアカード発動! 空縛『エアロックルーム』!」
「――!?」
コンマ15で魔理沙は何が起きたのか知る。
――こいつ……! 酸素を消したのか!? 息が……!
魔理沙はそれを知ったが故にスペルカードの『ブレイジングスター』を発動して離脱を試みる。
「(スペルカード……発動……!?)」
そもそも言葉を発することも許されなかった。
「滑稽ですねー、私たちの幻想郷ではない魔理沙さーん。早く死んでくださーい」
相手は思いっきり魔理沙を煽る、嘲笑している。
余裕の表情で笑ってる相手を見たらいやでも魔理沙は分かってしまう。
――勝てない。弄ばれてる。逃げなきゃ死ぬ――。
だがそれさえも相手は手に取るように解っているようだった。
「逃がすわけないだろー。
エアカード発動。空壁『エアandエア』」
「(――っ?)」
逃げているはずなのになぜか逃げられない。そんなよく分からない不条理を魔理沙は感じていた。それは『カード』による効果だったがそれに魔理沙は気づかない。
それよりも――、
――ヤベッ、意識が……遠のいて……。
意識を失いような状況に陥っていた。
「そろそろアンタは死ぬからなー、私の相方の苦しみを味わえよ。私の真空状態の部屋でなぁ!」
そんなことを言ってるが魔理沙には何ひとつ聞こえていない。
理由は簡単だ。真空では音は伝わらない。さらには現在、魔理沙は真空状態の部屋に捕らわれて10秒近く経過している。後、10秒で意識が完全に奪われ。さらに時間がたてば死ぬ。殺されるのだ。だが、魔理沙は気づかない、というかそんなことを考える余裕は無い。
ただ1つのことを成し遂げようとしてる。
それは逃げ道がない逃げ道を探すようなことだ。だが、酸素は奪われ、真空状態に身体をさらけ出している今は、同じ方向に逃げているだけしかできないのだ。まるでその方向しか歩けない、将棋で言えば『歩』のような、そんな駒になってしまった。『歩』は『と』になれば強くなれる、進化するのだ。そのために一歩一歩、歩き続ける。止まるんじゃねぇぞ… そんな感じに、だ。
しかし、今の魔理沙は相手の『カード』の発動で止まり続けている状態。
故に勝てない。魔理沙1人では。
「スペルカード発動! 霊符『夢想封印』!」
七色の霊玉は先ほど『カード』を使った霊夢にターゲットとして別々の方向から襲いかかる。
当然、避ける。そして幻想郷の霊夢に語りかける。
「あーあ、もう1人の私は倒されちゃった感じー? 少し速すぎる気もするけどぉ。まぁ、今からオマエの攻撃を耐久してればアイツの死は確定だよねー。――!」
この霊夢の弱点は強いのにお喋り好きで、油断しすぎなところだ。それが今、顕著に現れている。そう言える理由としてその霊夢は今、魔理沙のパートナーがどこにいるのか分かっていない。
――『カード』宣言のときまでは見てたのに……!
「ここよ」
目下にいた。
そして腹パンされる。
「ぐっ――!」
その腹パンの威力は常人では絶対に出せないような速さ、威力だ。
その威力によって意識が遠のく。それが起因して真空状態になっていた場所は消える。即ち魔理沙は空気を吸える、といっても気絶はしているが。
そしてそれだけではない。
――やべー……いまにもまたアイツを見失いそうだ。
腹パンされたときに視認することはできたが、速すぎて見失いかけている。黄色と白を基調としてる巫女装束を着ている霊夢はすぐさま自身のプランを変更する。
「モード:ウィンド」
「――!」
互いに速すぎて目視することが難しすぎる。それほどの速さだった。
そして『裏』の味方をする霊夢は――、
「ウィンドカード発動! 瞬『マッハ20』」
「――!?」
速すぎて視認ができない、どころではない。古びている博麗神社はその速さによって半壊しかけている。
だが霊夢は感じる、ヤツが、ヤツらがどこにいるのか。
「そこね!」
霊夢は札を複数投げる。目標は瓦礫になっている部分だ。命中し、砂埃が舞う。そして瓦礫の痕跡は薄まる。
そこにはなぜか手を繋ぐ二人の霊夢がいた。
「ホントはあまり使いたくなかったヤツなんだけど仕方ないよねー」
――ヤバい、なんか来る! 殴らなきゃ!
幻想郷の霊夢の場合、弾幕よりも飛ぶスピード、いや、跳ぶスピードはかなり速い。このとき殴る思考しか頭に残っていない。故に跳ぶ、あり得ない速さで。だが、あまりに距離があるためにヤツらに時間を与えてしまう。
だから相手は何かをする。
気絶した霊夢と手を繋ぎながら黄色と白を基調とした霊夢はこういった。
「融合!」
次の瞬間、二人は光に呑まれる。いや、光を発してると言った方が正しいのかもしれない。
霊夢は――幻想郷の住民である霊夢は能力を使い加速、加速していく。だが、遅かった。
「なっ――……」
殴ることはできたが止められていた。止められていたのは相手が素手や身体を使い、止めたのではない。そのことに感覚で気づく。
「――!」
そして、霊夢は驚く。
なぜなら裏幻想郷の住民の霊夢が――赤と白を基調として巫女装束を着ている霊夢になっていたから。




