1話 ノーゲームディザスター
秋の季節。それは読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋などと呼ばれるものがある季節だ。暑くもなく寒くもなく、風が吹けば涼しいと感じる程度の気温が保たれている。
そして秋は特定の木の葉が色鮮やかに変化する紅葉が見られる。魔理沙、霊夢、そしてカイは辺りにある紅葉している木を見て秋の季節を味わっていた。最もそれは始めだけだったが……
「なぁ、後何段登れば守矢神社に着くのぜ?」
息を若干乱しながらも話をする金髪の魔法使い──魔理沙だが、そこには疲れ、というよりはダルさが勝っているようだった。
「もう少しよ、魔理沙」
「じゃあ一気にかけ上がるぜ」
そう言葉を残しながら魔理沙は霊夢とカイを置いていき目的地まで階段を素早く登り始めた。霊夢とカイは魔理沙に追い付くのは面倒と思いゆっくり階段を登る。
「元気だなぁ、魔理沙は」
そう呟くのは妖夢とほとんど同じ姿でイレギュラーにより幻想郷に住むことになっているカイだ。妖夢と違うのはリボンだけと言っても過言ではないほどの容姿だ。そのリボンは淡い青だ。
「まぁ、あれが魔理沙だからね」
霊夢はカイの呟きを聞いていたのか話しかけてくる。
「で、本当はどうなんだ、霊夢。俺の記憶ではあと守矢神社まで半分ぐらいだと思っていたんだが……」
「合ってるわよ。でも魔理沙なら距離感分からないから問題ないわ」
「まっ、それもそうだな。んじゃあ、残りの階段を制覇しますか」
若干魔理沙をディスりながら守矢神社を目指す。思っていたよりも守矢神社に辿り着くまでの道のりは険しく、は疲れるものがある。とはいえ、本来は魔理沙と霊夢は空を飛んで行けばいいのだが……
「そーいや悪いな、俺が飛べないから階段登るの付き合ってくれて」
「あー、別に暇だしね。守矢神社にいけばお賽銭が増えるも同然だからどうでもいいわ!」
霊夢は守矢神社に来れば博麗神社にも信仰を増やせるようにすると約束をしてもらっているのだ。
「相変わらずお金にご熱心だこと……」
と小さく呟く。
とはいえ、お金がなければ霊夢は──というかほとんどの人が餓死するだろう。
それも踏まえて今回の条件はとても良いものだと思える。だが、肝心の内容が少し気になる。
それは早苗のお見舞いに行くことだ。早苗のお見舞いを霊夢がすれば絶対に博麗神社のお賽銭を増やすと諏訪子と神奈子から約束されてるのだ。
だがカイは1つ疑問に思う部分がある。
「……幻想郷の住人って風邪引くイメージが皆無なんだが、早苗は大丈夫なのか? しかもお見舞いまで来てほしいってレベルの病気だ。何か……嫌な予感がする。例えば……異変とか……」
「そんなのすぐ解決すれば問題ないわ」
なるほど、少し脳筋みたいな考え方だが、霊夢なら大抵のことは解決できるはずだ。しかも魔理沙もいるからな。
「というか、幻想郷は弾幕ごっこのルールでしか戦いはほとんどできないからアンタが最強だと思うんだけど……」
「いや、俺の能力意外と弱点あるからな!」
カイの程度の能力は『カードを司る程度の能力』だ。弾幕ごっこはスペルカードが勝負の決め手になることが多い。カイはそのカードを司どっているので全てのスペルカードを使える。それ以外にも様々な用途で使えるのでかなり強いのだ。
「確かにアンタと一度戦ったとき勝った気がしなかったわ、弱すぎて」
「まぁ、霊夢とは相性が悪すぎるからな。というかあの時は不意討ちみたいなもんだろ!」
「はいはい、あの時は悪かったわね」
霊夢に一蹴された感覚があったがカイはスルーする。というのも──
「あれが守矢神社の鳥居か?」
「ええ、そうよ。……というか鳥居の上で魔理沙が寝てるわね」
守矢神社の鳥居が見え、そこには魔理沙が寝てる。どれほど早く着いたのか知らないが相当暇だったらしい。
「おーい魔理沙、寝てんのかー」
「ん? あー、よーやく来たか。待ちくたびれてたぜ」
魔理沙は伸びをしてコチラを見た。手元には箒を持っている。どうやら箒を使って鳥居の上に登ったらしい。
魔理沙はその箒に乗りカイと霊夢に合流する。
「いやぁ、暇すぎたぜ。さぁ早く行こうぜ」
「そうだな」
「そうね」
魔理沙は箒から地面に着地しながらカイと霊夢に催促する。それほどまで退屈な一時を過ごしていたのだろう。
「ここが守矢神社か。初めてきたけど……かなり広いな」
「へぇ、それは他の神社と比べて、よね」
カイは守矢神社を見た感想を率直に述べたが、霊夢の癪に障ったらしい。どうやら霊夢は博麗神社より守矢神社の方が広いと解釈してしまったらしい。否定はしないが……。
そのせいか霊夢からはオーラが漂い、ヤバいと悟ったカイは──
「──まぁ、博麗神社には敵わないよなー」
「カイ、それは煽ってるのよね」
咄嗟に出た言葉は霊夢に油を注ぐカタチになる。これには魔理沙も手を額に当てて「あちゃー」というような動作をしていた。
「いやいや、博麗神社は守矢神社に比べればアレだよな……えっと、そう、足元にも及ばないよな」
必死に捻り出した答えは取り敢えず博麗神社を褒めることとなる。
「えっ、まぁ、そりゃあ守矢神社は博麗神社には及ばないわ」
どうやらカイは死の淵から這い上がることができたらしい。それほど霊夢は怖かったと痛感した。魔理沙は会話が一段落ついたと感じると
「なぁ早く守矢神社の中に行こうぜー。もう待ちきれないのz──」
──ドオォォォォン!
「「「──!?」」」
三人は呆然とした。否、せざるを得なかった。あまりの出来事に思考が追い付かない。
今の激しい音は鳥居に『何か』がぶつかった音だ。速すぎて三人は『何が』ぶっ飛んだのか把握できていなかった。
三人がほぼ同時に振り返るとそこには──
「っかは」
血を吐いてる姿を見せる神奈子がいた。それにより三人は畏怖する。見えない速度で飛んできた『何か』が神奈子だと分かったのだ。予感するのはある強敵が神奈子をぶっ飛ばしたと連想するしか考えられない。
「「「──!」」」
三人は神奈子がどこから吹っ飛ばされたかを理解する。そこは――守矢神社の本殿だ。
そこは障子が無惨にも破壊されて、そこから中が見えていた。
そこには呆然とする諏訪子、そして何か黒いモノを纏っている早苗の姿が見えた。
「アレは……早苗じゃない」
神奈子は重症を負いながらその一言を口にした。それは早苗が何かの異変の被害者であることを意味すると言ってもいい。
「よっしゃ、これは異変だよな。なら、解決すれば早いぜ!」
「魔理沙待ちなさい!」
霊夢は魔理沙を止めようとするが、魔理沙は止まらない。
魔理沙は『いつもの異変』程度に思っているが、神奈子が鳥居まで吹っ飛ばされた時点で分かっている、『いつもの異変』とは全く異なる『異変』だと。弾幕ごっこで解決できる問題じゃない。
「スペルカード発動! 恋符『マスタースパーク』!」
七色の色鮮やかなソレは圧倒的な光線へと変わり早苗を穿つようなパワーで放たれる。だが──
「…………」
「なん……だと……」
魔理沙が放ったマスタースパークは何事も無いように消え去っていた。
十八番が通用にしない魔理沙はようやく気がつく。この異変は異質過ぎる異変だと。現にマスタースパークが効いた様子は見えない。
早苗はまだ動いてもない。それは早苗が異質な存在に化けたことが分かる証明。 この早苗を倒すことはできるのだろうか。