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裏幻想郷 ~黒死異変~  作者: ザ・ディル
幻想郷 ~序章~
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9話 多くは隠輪の中に


 信仰者が博麗(はくれい)神社よりも多く、紅葉が幻想郷一と呼べるほど綺麗(きれい)なその場所の現状は、本殿が少し崩壊、鳥居には大きなひび割れ、さらに諏訪子の精神はやられ――、精神的にも物理的にも悲惨(ひさん)な状況が(つの)っている場所だ。

 そこに、霊夢(れいむ)はさとり、カイはウドンゲ、魔理沙(まりさ)咲夜(さくや)を引き連れて守矢(もりや)神社に戻った。

 

 「――全員集まったかな。では話を始めよう」

 

 全員集まったことを再確認して藍が話を仕切る。が、魔理沙はどうしても訊きたいことがあるらしく手を(ひか)えめに挙げて喋る。

 

 「その前に質問いいか。この機械はなんなのぜ?」

 

 魔理沙が話しているのは守矢神社を出る前に見かけ無かった機械だ。そして他の数名もその機械については知りたかったことだろう。

 その機械は大型テレビに近しい物に見える。

 

 「それはだな、にとりを呼んで持ってきてもらった。本来は『外』との連絡手段、監視等で使う機械だ。モニターとして使え、他にも様々な用途にも使える。便宜(べんぎ)上、『にとりの機械』と呼んでいる。これで裏幻想郷に移動してもこちら(幻想郷)と連絡できる」

 

 藍はにとりのが持ってきた機械について説明した。魔理沙たちは納得していたが――

 「――それはおかしくないか?」

 

 カイは藍の話に異議を唱えた。

 

 「なぜですか?」

 

 「『外』に繋がるとしても裏幻想郷に繋がるかどうかは分からない。普通に考えればそうだろ?」

 

 「そうだ。だが一度、裏幻想郷に繋げた実験をしたことがある。だから問題はない」

 

 「…………そう……だな」

 

 カイは首を少し下に向けて(あご)に手を当てて考え、何かを納得、藍の考えを肯定した。

 

 「では改めて話を始める。先ほども話したが裏幻想郷には紫様の境界で行くことができる。まず、裏幻想郷に行く者だが――霊夢、魔理沙、咲夜、ウドンゲだ。私とさとり、そしてカイは幻想郷から『にとりの機械』で指示を出す。諏訪子(すわこ)早苗(さなえ)と一緒に神奈子(かなこ)看病(かんびょう)だ。ここまでで何か質問はあるか?」

 

 皆はそれぞれ首を振る、または声に出して「無い」と言い表せる言葉を発して全員がいいえだと分かった。

 

 「質問は……無いようだな。では裏幻想郷に行くための準備だ。まずはさとりからだ。さとりにはコレを頭に着けてほしい」

 

 そう言いながら藍はさとりにヘッドホンとマイクが合わさったようなものを渡した。

 

 「これは……インカムですか?」

 

 「まぁ、それに近しい物だ。貴女にはそれを着けてもらいながら『にとりの機械』で裏幻想郷に行く者たちの監視とどのように動けば良いかの指示をしてもらう」

 

 「――分かりました」

 

 さとりはサードアイに手を乗せてなでなでしながら答えた。そこには(うれ)いの表情が垣間(かいま)見える。

 

 「次は咲夜とウドンゲだ。二人は紫様が作られたこの境界を使って先に裏幻想郷に行ってほしい」

 

 「――? “先に”裏幻想郷に行く? そうしないといけないルールでもあるのぜ?」

 

 疑問に思ったのか魔理沙は藍に質問を振る。ウドンゲも疑問符を浮かべてるようで首をかしげていた。

 

 「実はあらかた色々決めててな。ここにある紫様の境界に最初の二人が入ると別の場所に移動する仕様(しよう)にしていてな」

 

 「ちょっと待って、藍。場所は異変が起きてる場所に移動するんじゃないの?」

 

 霊夢はたまらず質問する。

 それもそうだ。異変が起きてるのは裏幻想郷で確実と(ゆかり)が喋っていた。それなのに、今の言い方はまるで場所特定できてないような話し方だ。

 

 「……申し訳ない。裏幻想郷のどこで異変が発生しているのか……検討はついていない……。それも()ねて裏幻想郷に行ってほしい」

 

 「そう……分かったわ」

 

 端的に答えるが様々な考えが交錯(こうさく)する。

 しかし今は幻想郷の危険を考えることが優先。余分な考えは捨てるべきだ。

 

 「とりあえず用件は全て話した。ここからは警告だ。……裏幻想郷の住人は容姿は同じだとしても、中身は違う。しかも襲う可能性まである。

 だから、最悪……殺しても構わないと紫が仰っていた」

 

 この一言で場は凍てつく。空気が凍る、声をも凍る。故に喋ることが不可能。

 

  殺す

 

 現在の幻想郷はほとんどその心配は解消された。

 その理由は弾幕ごっこがあったからだ。

 それはつまり――

 「――裏幻想郷の異変は弾幕ごっこでどうにかできる異変ではない、か。最悪死亡者も出るってことだな」

 

 現代よく起こる異変では死者はでない。それは『弾幕ごっこ』だからだ。

 カイの答えを聞いて藍は口を開き、

 「ご慧眼、と言ったところか。そうだ、死ぬかもしれない。だが、死者はゼロにする。そのように紫様から話していらっしゃった。そのためにさとりをこっち(幻想郷)に残すからな。安心していい」

 

 「それはどういうことなのぜ?」

 

 「『にとりの機械』で裏幻想郷の住人を見る。そのとき、さとりには能力を使ってもらう。そうすれば相手の心を読みながら裏幻想郷の情報を知ることができる。つまり、裏幻想郷の住人と話さずとも監視するだけでこの異変の情報をもらうことができる」

 

 それは話だけ聞けば画期的な方法……方法だが、

 

 「藍、それは有り得ないんじゃないのか?」

 

 そう、有り得ない。というのも――

 「――紫様が裏幻想郷の住人はこの異変を知らないと仰っていたから、から……だな」

 

 カイはコクりと頷く。

 この異変は裏幻想郷には気付かれてない。そのはずなのに情報をもらう。それは矛盾しか示せないのだ。

 

 「実はあらかたコチラで予想は立てている。この異変は恐らく何かの能力によって発生してる……はずだ。さとりは裏幻想郷の住人の能力を確認してほしい。それで『黒』に関する能力がいればその者がクロだ」

 

 解る。理解はできる。しかし、明らかに藍の発言にはおかしな部分が()る。

 

 「……藍。まさかだけど私の能力とアッチ(裏幻想郷)の私の能力が違う……なんていうのかしら?」

 

 霊夢は勘づいていた。裏幻想郷は異質、いや、幻想郷とは全く異なると。殺すこと云々(うんぬん)現在(いま)の幻想郷では有り得ない。

 そして先ほど藍以外の全員が驚愕(きょうがく)するような情報――自分の能力と裏幻想郷の自分の能力は異なるということだ。

 霊夢の質問に当然のようにして藍は、

 「そのまさかだよ。裏幻想郷が発現したこと自体がイレギュラーなんだ。幻想郷とは全くもって異なる。当然、同じ住人でも能力は違う、口調も違う、それ以外の違いもあるかもしれない。これらは憶測(おくそく)も含んでる。間違いはあるかもしれないが、だいたいは真実だ」

 

 その真実を告げられ、全員が何も話すことができない状況にいたる。

 

 「……すみません、1ついいですか?」

 

 ずっと黙ってたウドンゲは(おそ)(おそ)る手を挙げる。

 

 「なんだ?」

 

 「あの、裏幻想郷側の協力者はいないのですか。いるならその方たちと協力するのがベストだと思うのですが……」

 

 ウドンゲの質問は的を射ている。

 能力が分からなければ裏幻想郷の協力者から聞けばいい。

 

 そう、協力者がいればだが。

 

 「協力者は……いない。正確には裏幻想郷の幽々子だけは協力者だが、コンタクトがとれないと紫様が仰っていた」

 

 「……そうですか。分かりました」

 

 兎耳をしょんぼりさせてガッカリする表情を見せていた。

 そんな表情を一瞥もせず、藍は話を進める。

 

 「裏幻想郷に行っても幻想郷とコンタクトはとれる。だから先に裏幻想郷に行ってもらうぞ。まずはウドンゲと咲夜だ。紫様の境界に入ってくれ」

 

 二人は了承する。

 

 紫の境界の目の前まできて咲夜は踵を返し最敬礼する。どうやら(れみりあ)に向かって挨拶をしてるようだった。そして無言で境界の中に入る。

 ウドンゲもそれに続いて慌てて永遠的に向き礼をしながら「いってきます」といい、境界に入っていった。

 

 「さて、次は霊夢と魔理沙だ」

 

 「ええ」

 「ああ」

 

 二人ともさも当然のように紫の境界に入ろうとするが、

 「霊夢、これを持ってけ」

 

 カイはあるものを渡す。それは――

 「――これはなんの『カード』なの、カイ?」

 

 「これは霊夢の百の(ふだ)をまとめて一つにした『カード』だ。一応それを十枚霊夢に渡しておく。有効活用してくれ」

 

 カイはウドンゲを連れてくる前にコレを作っていた。

 

 「使い方は……アンタがいつもやる――中二病って奴をしなければいけないのかしら?」

 

 「いや、もうしてある。後は念じるだけでそのカードは百の札に化ける」

 

 「……ありがとう」

 

 霊夢は少し照れくさそうにお礼を述べて境界に入る。

 

 「私にそういうのは用意してないのぜ?」

 

 「わりぃ、魔法使いのは作りづらくてな。時間もかかるし無理だった」

 

 「ちぇー、まあいいぜ。いってくるのぜ」

 

 魔理沙は手を振りながら境界に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 (さい)は投げられた。全ては操られている。その運命から逃れるにはイレギュラーが必要。それさえも範疇(はんちゅう)とする者は無意識に微笑する。故に他のイレギュラーを見過ごした。

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